大序章
ここは剣と魔法の世界。
力あるものが全てを所有し、力なきものは従属して搾り取られる世界。
そんな世界で、人族と魔族は長く長く争い続けてきた。
しかし魔王が魔界を統一して後、人界は相争う国々を各個撃破され続け、いつしか魔界とそれ以外の国々の間には、埋めようのない差が開いてしまった。
人族最後の国は、ついに賭けに出ることにした。
そう、異世界より勇者を召喚するのだ。
異世界より勇者を召喚する儀式は、謁見の間で行われていた。
国王と重臣らが見守る中、大きく描かれた魔法陣の外周にそって宮廷魔術師らが儀式を行う。
低く呟くような呪文が、重奏を奏でるように乱すように、部屋中にと響きわたっていく。
やがて魔法陣が輝き、魔術の才のないものにまで感じ取れるほど魔力が満ちていく。
そして輝きは唐突に失われる。
それと入れ替わるかのように、魔法陣の中央には異物が現れていた。
「おおっ」
「まさか」
「なんと」
重臣たちから、声にならない驚愕が漏れる。
魔術師たちは急激に襲ってきた疲労のためか、次々に崩れ落ちる。
膝をつき、あるいは力尽きたのか床に伏せてしまうものもいる中、一番歳を取り、体力的に危ういとしか見えぬ宮廷魔術師長のみがしっかりと立っていた。
それは一番の魔力を誇る故か、はたまた忠義故にその素振りを見せないのか。
じっと魔法陣の中央を見つめる国王に対し、儀式の終了を告げる。
「勇者召喚、成功してございまする」
「…そうか」
国王はただ一声告げると、再び視線に力を込める。
ねぎらいの言葉も、報奨も批難もない。
ただ“勇者”を見つめ、これからの扱い方を、魔王の倒し方をどのように導くか、それのみに注力しているかのようだった。
それを感じ取り、宮廷魔術師長もまた、視線を魔法陣の中央に戻す。
そして内心でため息をつく。これは難しかろうと。
勇者は召喚できた。これ以上ない手応えを感じており、魔術的には大成功だ。
しかし当の“勇者”を己自身の目で目の当たりにすれば、これ以上ない不安を感じずにはいられないのだ。
こっそりと秘術を発動させる。
対象の能力を数値化し、閲覧するという、ある意味禁術。
そこに映し出された数値と能力を見て、眉間の皺を更に深くするのだった。
《ステータス》
レベル:1
職業:勇者
筋力:0.5
耐久:1
敏捷:0
知力:0
魔力:0
運:???
装備:金色の衣
スキル:剣術レベル0・魔術レベル0・受け身レベル99
特性:主人公補正・ニコポナデポ・秘められた覚醒
ふーっと大きく息を吐き、国王が問いかける。魔術師長に。
「このモノ、名前をなんというのか」
「は、エビフライでありましょう」
「エビフライか…。見たままじゃな」
「それ以外に答えようもありませぬもので」
「成功したのじゃな」
「はい、成功でございます」
「成功してしまったのじゃな」
「はい、この結果が成功なのでございます」
ふーっともう一度大きく息を吐き、国王は告げる。
「ならば致し方なし。このモノを勇者とし、魔王を退治させよ」
「「「はっ」」」
忠臣たちが一斉に頭を下げる。
なにはともあれ、魔王を倒せるという勇者召喚が成功したのだ。
あとはそれぞれが、全力を尽くして、勇者に魔王を倒させるしか無い。
そう、異世界より召喚された、テンプラな勇者が、このとき誕生したのだった。