「伊織のクリスマス」
小さな設計事務所、奥に寝室の扉。
「ねえぇ。イルミネーション見に行こうよ」
「二日酔なのよぅ。あの施主、面白がってヒトのグラスに焼酎をどぼどぼと……」
「飲んだのは、真昼さんでしょ」
「あの状況で飲めないなんて断れないっ!いたた。声、出させないで」
真昼さんは頭から、コンフォーターを被る。
胃腸薬と頭痛薬をいっぺんに飲んで寝てしまった真昼さんを、足元で待つ。
犬ですか、僕。
夕方になったら、もう一回起こそうっと。
仕方がないので買い物に出て、おかゆなんかも炊いてみる。
真昼さんの部屋の鍵をもらってから、僕は料理の腕が上がった。
ローストチキンのサラダと、パスタは赤いソースと白いソース2種類。
酒飲みの真昼さんは、ケーキは食べない。
僕の分だけ買おうかなと思ったけど、子供だと笑われるから、止しておいた。
夕方遅くになって、真昼さんはやっと起き出してきた。
「寒ーいーっ!」
そりゃ、キャミソール一枚で裸足なら、12月は寒いと思うよ。
節電なんてお構いナシに設定温度を上げる真昼さんの後ろから
ガウンを着せてみる。世話の焼ける人なんだから。
「あっ!おかゆ!梅干梅干」
嬉しそうに土鍋を開ける真昼さんの給仕をしながら、笑いがこみ上げる。
「真昼さん、何歳だっけ?」
「三十一っ!伊織より十歳オトナっ!」
本当にそうなんだろうか。
「これ食べたら、仕度する」
「どこか行くの?」
「クリスマス・デートってやつ。したかったんでしょ?」
肩にコートをひっかけた真昼さんは、やっぱり華奢だ。
自分の力で道を開いて歩くのが難しいことだと、学生の僕も理解し始めてる。
十年分、僕よりも確実にオトナだけど、子供みたいに屈託なく笑う真昼さん。
いつか、ちゃんと並ぶことはできるだろうか。
「伊織、カメラなんて持ってきたの?
綺麗なものは、自分の目で見て覚えておくのよ」
そうかも知れないね。
カメラに、真昼さんの存在は写しきれない。
メリー・クリスマス。
ライトアップされた並木道を一緒に歩くことができる。
これだけで、待ち続けた二年間は無駄じゃなかったと思えるんだ。
メリー・クリスマス