「しあわせなお茶会」
都内のはじっこ、1LDKの小さな所帯。
食卓に顔を伏せて眠っている美緒を見下ろし、龍太郎は溜息を吐いた。
先に寝ていて良いと言ったのに、茶碗やら皿やらを揃えて、待っているうちに寝たらしい。
本当はお姫様抱っこで、布団に連れて行ってやれれば良いのだが、いささか無理がある。
ごめんね、せっかく待っていてくれたのに、こんな時間になって。
「美緒ちゃん、布団に入って寝なさい」
肩をぽんぽんと叩くと、美緒はぼんやりした顔をあげた。
「おかえり……寝ちゃってた、ごめん」
「待ってなくても、良かったのに」
「今、用意するから。おなか空いてるでしょう?」
味噌汁の入った小鍋を火にかけ、煮物を食卓に並べる。
「いいよ、自分でするから。眠いんでしょう?」
ふたりきりのクリスマスのお祝いは、天皇誕生日に済ませた。
小さなプレゼントを交換して、スパークリングワインを飲んだだけだ。
龍太郎の仕事が忙しい年末は、帰り時間が自由にならない。
仕事を持っていれば当然のことだし、クリスチャンでもない。
小さな子供の居る家庭ならばともかく、日付に拘る理由はないのだ。
「ケーキ、一緒に食べようと思って」
食事をしている龍太郎に、まだ眠そうな美緒は言った。
「帰りにケーキ屋さんの前通ったら、可愛いケーキがたくさん売ってるんだもん。
あんまり綺麗だから買っちゃったんだけど、ひとりで食べても美味しくないもん」
カシスの鮮やかな赤に、幾種類ものベリーと、クリスマス仕様の柊の葉。
「寝ぼけて食べても、美味しいの?」
「それでも、ひとりより龍君と一緒に食べたい」
紅茶の茶葉を計る美緒は、少し目が覚めたようだ。
寝る前に糖分と脂質を摂取すると、翌日胃が重くなる。それでも。
美味しい物は、好きな人と一緒に食べれば、もっとしあわせ。
だから夜中のお茶会でも、待っていられる。
ケーキだけのクリスマス・イブは、アールグレイの紅茶の香り。
メリー・クリスマス!