「花つけるクリスマス」
東京近郊、川のある街にて。
クロッキー帳に、妹の手をたくさんスケッチした。
家族へクリスマスプレゼントをと考えても、中学生のお小遣いは薄い。
母には安価いモヘアの毛糸3玉で、指編みのマフラーを作った。
徹さんへのプレゼントは、何が良いのだろうか。
そう考えて、和の絵にしようと決めた。
だけど、顔を描くのはとても難しくて、全体の絵なんてバランスがとれなくて
和の一番可愛い場所はどこだろうと、一生懸命考えた結果だ。
和の小さな手が徹さんの顔をいたずらする時、
徹さんは本当に幸福そうな顔をする。
それを私が見ていることに気がつくと、慌てて表情を繕おうとするけど。
いいのに。私も和が嬉しそうにしてると、嬉しい。
それに、私も父にあんな風に甘えてたのかなって
ちょっと空想してみたりする。
うん、私は可愛がられていたらしいよ。
だから徹さんも、和を思いっきり可愛がってね。
水性のパステルを、筆で伸ばす。
我ながらよく描けたと思う。
コーティングスプレーが乾燥するのを待って
厚紙を折って造ったマットにセットした。
和の手だって、ちゃんとわかってくれるかな。
「手毬、そろそろ徹君が帰ってくるから、夕食にしよう」
母に呼ばれて、ダイニングの仕度を手伝う。
和は音楽ビデオを見ながら、腰を振って踊ってる。
徹さんが帰宅して、賑やかに夕食が始まった。
ケーキを食べながら交換したプレゼントを、その場で開いていく。
徹さんから私へは、皮の文庫カバー。
「なごちゃんの手だね」
徹さんが私の絵を見ながら、微笑む。
「てまちゃんが一生懸命描いてくれた宝物だ。
大切に大切にするからね」
「上手じゃなくて、ごめんね」
「絵はね、大切にしている人にしか、価値がないものなんだよ」
徹さんの穏やかな話し方は、もう家の中になくてはならないものだ。
母に、お礼を言わなくてはならない。
新しい家族を、与えてくれてありがとう。
そんなこと、素直に言えるわけないけど。
紅茶のカップで乾杯する。
メリー・クリスマス。
和はもう、眠そうだ。
寝室に連れて行く徹さんの背中は、多分父に似ているのだろう。
メリー・クリスマス。