裸エプロンは色っぽいのか
住居一体型作業場倉庫、屋上
ぱんついっちょで、持ち物はコミックスと日焼け用オイル。
天気が良く予定のない午後の過ごし方は、日焼けの差の解消である。
手首から先と首から上だけやけに健康的だが、鉄の素の肌の色は、意外に白い。
だから仕事以外で肌の露出が多い時期になると、一生懸命日焼けに勤しんでいるのだ。
日焼けサロンに行くほどは、拘っていない。
けれど、タンクトップから出た腕が生白いのは、いただけない。
マットの上でゴロゴロと日光浴をしているうちに、尻も焼こうって気になったのは、別に意味はない。
ぱんつの下が白いんだよな、と考えて、どうせ自宅なんだから裸でも構わないと思った結果だ。
そしてまたゴロゴロとコミックスを読み、昼寝もした。
途中で祖母が洗濯物を取り入れに来たような気はする。
六時になったらみーを迎えに行って、今日はばーちゃんが出かけるから、メシは何を食おうか……なんて。
うっかり寝過ごしたらしく、目を覚ますと陽が傾き始めていた。
この感じだと、六時なんて過ぎてしまっている。
やばい、みーは怒ってるかな。
起き上がって隣を見れば、オイルのボトルはあるが、脱いだぱんつが見当たらない。
洗濯物を取り込んだ祖母が、落ちていたからと階下に持って行ったのは、予測ができた。
下を見下ろせば、休日返上の現場に入っている職人たちが、帰り支度をしている。
このまま階段を下りると、勝手口で誰かが挨拶しているかも知れない。
いくら子供のころから知っている人たちだとはいえ、あまりにも間抜けすぎる。
屋上の扉を開けると、女の声がした。
ばあちゃん、まだ出かけてないのか。助かった……
声を張り上げ、祖母を呼ぶ。さすがに大声でぱんつとは言えなかった。
社長の息子が屋上ですっぽんぽんとか、話のネタにされたら困る。
ってか、悪ノリして言いふらしそうな職人を、何人か知っている。
「ばあちゃああん! ちょっと来て!」
その声で階段を上ってきたのは、期待した祖母じゃなくて、祖父だった。
倉庫整理のための、デニム地の丈夫な前掛けをしている。
「なんだ、フリチンで。みっともねえ」
「……ぱんつ持ってきて」
「おまえのタンスなんざ、どこに何が入ってんのかわかんねえ。そのまま降りてこい」
「じゃ、その前掛け貸して」
汚れた前掛けを受け取り、とりあえず紐を結ぶ。
これで誰かに会ったら。カニ歩きしてごまかせるだろう。
自分の家の勝手口には誰もいなかった。
「ばあちゃんは?」
「婦人会の会合行ったぞ」
あれ? じゃあ、さっきの女の声は。
おそるおそる、ソファを見る。
向こうも当然、こちらを見ている。
「テツ! 女の子待たせて、何してんだ。伊佐治の駐車場で、美優ちゃん待ってたんだぞ」
もうすでにビールのプルタブを引いた父が、美優をここまで運んだらしい。
「早く着替えてこい、メシ行く約束してるんだろ」
自室に行くには、リビングスペースを通らなくてはならない。
身体を斜めにしながら、美優に寝過ごしたことを詫びて通り過ぎて、さてドアの前。
後ろ手にドアを開こうと手探りでバーを握ろうとした瞬間、金属とは別に布の感触も引っ張った気がする。
重いデニム地は、落ちるのが早い。
腰から下を覆っていた前掛けは、バサッと音を立てて、床の上。
後日、早坂興業の社長の話のネタに、息子の裸エプロンが加わったのは、言うまでもない。