「あしたもツーリング」
屋根のあるバス停、中にはロードバイクが二台。
「ひどい降りになってきちゃったなぁ」
「待ってれば、止むよ。ホテルは予約してあるんだし」
長距離のツーリングは、あらかじめ泊まるところに荷物を送っているので
余程のことがなければ計画を実行する。
朝、家を出たときには脱水が心配なほどの天気だったのに
夕暮れ間際に怪しくなった空は、急に土砂降りになった。
これほどの激しい降りは続かないだろうし、
暗くなる前に再び走り出すことはできるだろう。
「ヘルメットの被ってると、ハゲそうな気がする」
汗っかきの慎ちゃんは、黒いTシャツから塩を吹いている。
「頭、洗っていい?」
降り込められたバス停の中で、慎ちゃんはシャツとジャージを脱ぎ始める。
「いきなり、何?おまわりさんにつかまるよ?」
「こんな雨の中、外歩いてる人なんていないって。はーちゃんもどう?」
「どこで洗おうっていうのよ」
「外」
どういうわけだか慎ちゃんのウエストポーチには、毎度シャンプーが入っている。
荷物を送る時に入れ忘れるらしいんだけど、律儀に持ってこなくても
無人の場所に行くわけじゃなくて、ホテルの近くで買えばいいのに。
夕立の中に立って、慎ちゃんはシャンプーを盛大に泡立てた。
仁王立ちで髪を洗う姿は、確かに気持ちが良さそうだ。
だけど、空が明るくなってきてるよ。
雨の勢いは徐々におさまり、慎ちゃんの肩にはまだ泡が残ってた。
「シャンプーを頭に残したままだと、本当にハゲるよ、慎ちゃん」
そんなことを言っていたら、遠くからバスの音。
まだ下着だけの慎ちゃんは、着替えを抱えて物陰に走っていく変質者になった。
「さて、あと20キロ」
ロードバイクを並べて、走り出す。
赤くなった空気に西を見ると、空全体に広がる夕焼け。
明日も、晴れ。