攻防戦の行方
「カフェ・ハーモニー」店奥から、ドアを開いて一歩内側。
「誠司君、そのスウェット、もう捨てない?」
睦美ちゃんが見下ろしているのは、俺の杢グレーのスウェットだ。
「裾、もうボロボロじゃない。膝も出ちゃってるし」
「穿きやすいのっ!」
先週、睦美ちゃんは俺の新しいスウェットを購入した。
それはチェストの引き出しに収まったままだ。
新しいヤツって、どうも肌のオサマリが悪いような気がする。
睦美ちゃんの部屋着はいつもワンピースで、香奈のどうでもいいジャージ姿を見つけていた俺には、はじめちょっと衝撃だった。
それまで家に泊めてもらっていた女たちも、似たようなものだったし。
家の中でまで着るものに気を使って、靴下の色までコーディネイトする。
最初の頃は俺に慣れてないからだと思っていたんだけど、睦美ちゃんのスタイルは、何ヶ月経ってもそのままだ。
「いくら家の中だからって、生地の薄くなっちゃった物を身につけるのは、どうかと思うの」
「なんかさ、新しいのって、栄養がない気がする・・・」
「何の栄養よっ!」
表現のしようがないんだけど、なんていうか、俺エキス?それが沁みてないと、自分のものになった気がしない。
「とーにーかーくー。それ、捨てて」
「やだ」
今週の資源ゴミの回収は、明日。
出勤する前に、どこかに隠しておかなければ。
・・・書き手も、クタクタになったパジャマが好きです。