「ハーモニーに、雪」
「カフェ・ハーモニー」閉店後、窓際の席にぽつんと人影。
灯りを消した店に座って、街灯に照らされる雪を見ていた。
「ただいまー。なんで店にいるの?」
機嫌良く帰ってきた誠司君に、おかえりなさいを言う。
「寒かったでしょう?お部屋、暖まってるよ」
「睦美ちゃんは?」
「もう少し、雪を見てから」
外から帰ってきた誠司君はとても冷えているのに
暖まった部屋に行かずに、直接店との境のドアを開けたらしい。
「ひどくなってきたなあ。明日、電車止まんないといいな」
隣に立った誠司君は、まだ冷たい空気を纏っている。
お疲れさま。
私は職場がここだから、通勤に困ることもないけれど
電車で仕事に行く人は、雪の美しさよりも交通の麻痺の心配だね。
ガラス越しに、ひらひらとボタン雪。
柔らかくて暖かそうなそれは、触ると冷たいの。
ただ美しいと見惚れることができるのは
心も身体もそれを受け容れることのできる余裕があるから。
とても幸せで、贅沢な感情。
「雪の花が咲いたな」
誠司君が言う。
街灯に照らされた公園の木の枝には、満開の桜ほどの雪。
翌日の心配をしながら、一緒に眺めを楽しもうとしてくれてる。
感情の共有は、いつも暖かい。
「今日はクリームシチューだよ」
「やった!冷えた日のご馳走!」
一緒にドアを開けて、居住部に戻る。
外の音は雪に吸い込まれて、静かな家の中にはふたり分のお喋り。