Tips~約束の暁
〜プロローグ〜
それは幻想であり、真実でした。
虚言を貫き通した青年も。
大切なモノを守り抜いた老人も。
どちらの二人もそれが何であれ、結局はどちらでもよかったのですが。
それでも、それはやはり———
いくらかのモノたちにとっては、守るべき幻想であり、無価値な真実だったのです。
〜パンドラの断片445節より抜粋〜
「まもってあげてね」と、女性は老人に微笑みかけた。
しかし、その言葉は少女を失った老人にとっては、心傷を浸食する毒でしかない。
そして、その毒がもたらす苦しみは、死を間近に控えた老人にとって、耐えられるものではなかった。
とうの昔に枯れたはずの声と涙を絞り上げ、老人は叫ぶ。
「今さら私に何を護れと?私には何も残ってはいない。私には、もう、なにも・・・!」
もういいだろうと、老人は言う。
———もう十分だろうと、己に言い聞かせる。
「いいえ、あなたにはまだ二つも大切なモノが残ってる。そしてそれは、今からでも『守り』抜けるはずよ」
女性の言葉は、弱った老人の心を侵す。
未練という名の鎖へとあり方を変え、老人を締め上げる。
「私に、何が残ってるいると?あの娘はもう私のもとから去りました!本来居るべきところに戻ったのです!
そもそもが間違いだったんです!私とあの娘には特別なつながりなど、何も無かった!
それなのに、こんな、ふうに———」
一緒に居れたことが、間違いだったのだと。
そう続くはずだった老人の、違えようの無い真実は。
その言葉の真意を静かに受け取った女性の、たった一言に塗り替えられることになる。
なぜなら、女性の放ったその一言も、違えよう無い、もう一つの真実であったのだから。
———特別なつながりが、出来たーーーでしょう?———