ネコとネズミのワルツ:最終話-1:夢のオワリ
召喚術の詠唱直後、守護者の展開する波紋をかき消すように、新たなる波紋が俺たちの前に広がり始めた―――そして、そこから二人の人影が吐き出される。
そのうちの一人は、俺とネズミが必死こいて呼び出した願望機である、収束点。そして、もう一人は―――
「神楽、極北の一等星でいく! 被膜へのリンクを確立してくれ!」
ーーー神楽という名のソレは、全然俺が知らないモノだった。歳の頃は、12くらいか。外見は、年相応の無邪気さを残した少年に見えるが……しかし、明らかに精神がヒトのそれではない。
そして、収束点同様、相当厄介な縁を抱え込んでいる事も確かだ。なんたって、召喚術の対象外であったにもかかわらず、この世界に来てるんだからな。
それはつまり、召喚対象の収束点と相当強い「繋がり」を所持している事を示している。
「おっけー、霞!てかさ、聖母に何か入ってない? あれ、何?」
この状況に自ら介入しながら、神楽という小僧は、緊張感のカケラもない。
この状況が楽しくて仕方なのないというふうに、興奮気味に守護者を指差して喚いていた。
「いいから、リンク繋げ!時間がない!」
対して、切羽詰まって急かすのは、我らが収束点だ。
その切実な声に突き動かされたのか、神楽とやらは「そんなに怒んなくてもいいじゃん」とぶつくさいいながら、タール状の黒色液体に変化。
液体は重力に身を任せ、最初こそ地面にベチャリと落ちて広がったものの、すぐにその引力無視し、黒色の球体として霞の眼前に浮上―――そして、菌糸を思わせる突起を「世界に突き刺した」
どうひいき目に観てもエグイそれに、収束点は迷う事なく手を突っ込む。
―――次の瞬間、球体はその突起の枝を増やしながらそのまま伸長。そして、本体であろう黒球の部分は収束点の腕に巻き付くように流動し、銃機へと変化した。
射出口であろう部分には、サファイヤ色の眼球が顔を覘かせている。
瞳の先には御主人と、守護者。
「……リンク良好! 被膜への同調……完了。
ミセル化開始! このままいっきにいくぞ!」
「ヒュン」という間の抜けた音が、世界に響く。
それに遅れて世界を撃つのは、「絶叫」―――つまりは、世界の涙だ。
……世界の崩壊がこれで、約束された。
「夢を夢で終わらせるために、あなた『達』が……そう。
そうよね、この世界の価値なんて、あなたたちにとってはチリほども無いのだから、当然の帰結よね……」
その独白は、守護者のものだった。
どうやら、収束点の存在がやつの憑依を揺らがせているらしく、やつは収束点召喚からこれまで、清閑をきめこんでいたのだ。
「でも覚えておいてね、「終息点」くん。あなた達がこの結末を望むが故に、世界は―――すべからく、滅びるのよ。
例えどれだけ足掻こうとも、それは不可避。
全てのものが光り輝くからこそ、万物は……夜へと、帰還する。
それが、円環の理。そしてそれが、『終息点』としての……あなたの使命」
……その独白は、はたして収束点に届いていたのか。
霞のバカは眉一つ動かさず、守護者を睨みつけたまま―――
「操作、完了。世界崩壊までのタイムラグは、現世界時間で0.5時間。
脱出には、十分だな」
―――守護者から視線を外さずに、物語の終焉を告げる言葉を紡いだ。
そして、それに呼応するようにして、御主人の体から守護者が抜け出る。
やつはそのまま霧散し、世界移動によりこの世界から脱出するのではなく、消滅した……おれにひとひらの、「呪詛」を言い残して。
「また踊りましょうね、伝達者。
次は正真正銘、世界の存続をかけた舞台で……まあ、そのときもあなたは結局、蚊帳の外なんでしょうけどね……今回の物語でそうであったように……ね?」