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猫と日常  作者: blue birds
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ネコとネズミのワルツ-昼1-3:タマとの会話(世界の投影者編):この世界の価値を問う-

「あれがのっぽ山で、そこからずっと流れて来てるこの川が、すみれ川。えへへ、きれいでしょ! お魚さんもいっぱい居るんだよ!」


 きらきらと輝くつぶらな瞳で、これまたキラキラ輝く川面を指差しながら、タマは大はしゃぎだ。

 何がそんなに嬉しいのか見当もつかないが、その前に。


「いや、タマの介……おれは、観光案内してくれって言ってるわけじゃないんだ。俺が知りたいのは、聖域の場所!」


 まあ、何だ……しょせんガキンチョだしな。案外、他の連中も似たような感じでゲート探索放り出してるかもな。


「う〜ん、聖域って、入っちゃ行けないところなんでしょう……?そんなところ、聞いたことないよ?お祭りがあるところなら、あるけど……さっきの公園とか」


 ……このガキ、先にそれ言えよ。てか、他のガキどもも、誰か一人くらい言えよーーーと思いはするが。


「さっきの公園か……あそこは違うな。他の場所は?そこに連れて行け」


 ーーー先ほどの公園には聖域の気配は、まったくなかった。

 少なくとも、「収束点」を喚べるほどのゆがみは、あそこにはないーーー



「他のところ? 他のところは、ここだよ。夏になると精霊祭するの。みんなで笹舟つくって、ご先祖様を送り出すんだ」


 ……ここ? この、しょぼい川が? てか、この川あきらかに見覚えあるんだか……



「悪いが、ここも違うみたいだ。もっと、特別な場所はないか?例えば、何かが奉られてる場所とかさ?」


 とにもかくにも、情報が欲しい。

 本来は大人に聞いて回った方が速いんだが、普通にしゃべるとお変な扱いを受けそうだからな……それで時間を失うってのは、ちとばかしつらい。



「う〜ん……」


 考え込むタマの介。ぴくぴくと小さい耳を動かし、ゆらゆらとしっぽを揺らしながら思案中だ。その考え込む姿はかなり、父性本能(?)をくすぐるが。



「おまえ、もうちょっと真剣に考えたらどうだ? 神様に願い事を叶えてもらえるチャンスなんだぞ?」


 こっちは、時間がないんだ。まあ、くそネズミの言ってることが正しければ、という話だが。



「私のお願いごとは、神様でもどうにもならないって婆が言ってたもん。それに、あんまり私がわがまま言ったら、神様も怒って、お仕置きしにくるかもって」



 ……超気になるんだけど。神様でもムリなお願いって何だ?

 神の手におえない願いって、何なんだよ?



「……ちょっと言ってみろ、お前の「願い」。絶対に怒らないから……てか、言わなかったら、怒る。怒って、天罰下してやるぞ」


 まんまるお目目をぱちくりさせ、こちらを凝視するタマの介のを横目に、おれは鼻息を「フン」と一つもらす。

今の俺、超神様っぽいじゃなかろうか?



しばらく「う〜ん」と考えていたタマだったが、腹を決めたのか、一言。


一言で、その願いを口にした。


「お父とお母を生き返らせてほしいの……」







死者は決して返らないーーーと、信じられていたのは、一昔の話だ。近年、世界録の研究が進むにつれて、その見解は過ちであるということが、徐々に証明されつつある。



「死者の蘇生かーーーそりゃ大事だな。たしかにそれは、俺でもムリだ」



 俺に、死者を蘇らせる力はない。しかし、それを可能とする技術は、複数存在する。



「……えへへ、そうだよね。やっぱり神様でも、無理だよね……お父もお母も、去年の流行病で死んじゃったんだ。今年は私が七歳になるから、お祝いごとしようねって約束したのに……」



 大人しかかからない奇病で多くの友人が両親をうしなったとーーーそう、タマは教えてくれた。


 ……こいつは、両親を失って間もないというのに、よく笑う。



「でも、爺と婆がいるからお前はマシだろうが。その様子だと、孤児なった連中だっているだろう?それに比べたら、百倍マシだ。」


 両親を失って叔母に引き取られたご主人も、そう言う意味では恵まれていたのだろう。ただし、少なくともご主人はそうは思ってはいなかったらしいーーー





「孤児って、なに?」




ーーー孤児とは何かと、タマは問う。




「あ? 独ぼっちの子供のことだよ。 大人がばったばった死んでったんなら、独り残された奴もいるだろう? 孤独な子供のことを、孤児ってんだよ」




ーーー独りの、子供。

たった独りで生きて行かなければならい、世界から見放された子供のことを孤児というのだと、おれはタマに教えた。




「独りって、なに?孤独って、なに?」




……何かが、おかしい。

これはーーー






「おい、タマ。おまえの言う爺と婆ってのは、おまえの何だ?父親の方のか?それとも、母親のーーー?」




 少し考えれば、分かることだった。これは、かつてのご主人が見た夢の世界だ。

ーーーそう、幼い頃のご主人が見た、理想の世界。





「爺も婆も、おとなりさんだったんだよ?『私の家族がみんな死んじゃったから』、家族なってくれたの。だって、『おとなりさん』だから」




ーーー隣に住んでいるから、孤児となった他人を引き取る。

そんなもの、へ理屈にもならない。

そう、理解の域を超えているのだ。そして、それこそがーーー

次回は、

ネコとネズミのワルツ-昼2-3:タマとの会話(世界の投影者編):この世界の価値を問う-


です。


香織の世界のカタチが、浮き彫りにされるお話です。

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