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猫と日常  作者: blue birds
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『日常2』



「あれ?マイク?何してんの?こんなところで。」


 有無をいわずにダッシュだ。一刻も早くこのエリアから離脱しなければならない。


「ちょっと、待ちなさい!あんたマイクでしょ?止まんなさい!こら!」


 一番合いたくない顔に出会ってしまった。

 なんだって、あいつはこんな世界にいるんだ?


「待てって・・・言ってるでしょう!」


 つららがすっ飛んできて、俺の足をうがとうとする。


『っ!』


 なんとか横っ飛びをして、回避。再び逃走に移る。

 塀を中継点として、屋根に飛び移る。

 あとはもう、ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ!

 うなれ俺の心臓!

 風になれ俺!

 俺ならできる!

 逃げ切れる!

 あいつに捕まれば今の生活も最後!

 そして俺の猫人生も・・・


「おはよう、マイク。お目覚めはどう?」

「・・・」


 猫人生終わった。

 捕まっちゃった。

 てか、捕まってた?

 さっきまで俺は屋根から屋根へ飛び移って、こいつから逃げていたはずなのに、なぜか次の瞬間には檻の中だった。

 しかも、結構頑丈そう。


「あれ?ちゃんと目覚めてるよね?・・・イリュージョンを深くかけすぎたかな?ねえ、マイク。起きてよ。ちょっと、マイクってば!」


『・・・』


 そうか、イリュージョンか。なるほどね。納得だわ。

 でも、イリュージョンにかかる魔術師か・・・

 そんなやつ聞いたことねえよ。

 もう俺はだめだ。

 魔術師としても、猫としても、ここで俺の人生終わるんだ。


「マイク!ちょっと!マイクってば!」

 ご主人さようなら。

 もう俺はここで・・・


「えい。」

「なぎゃー!」


 あ、デジャブっと、自分の鳴き声を聞いて思う。


『おまえなにを!』

「ん?これってテレパス?なによ、マイクってば言葉忘れちゃったの?」

『質問に答えろよ!俺の鼻に何をした!?』


 鼻が先ほどからジンジンと痛んで、使い物にならない。何やら変な液体を鼻にかけられたのは分かるが、いったい何をかけられたのかは不明だ。


「?ただ、わさび汁をかけただけだよ?」

『さも当然のことしただけですがなにか?みたいな顔すんな!なんでわさび汁を鼻に!?いや、そもそもなんでそんなものもってんだよ!てか、なんで俺を監禁してんだよ!』


「換金?マイクなんて売ってもたいしたお金にはならないから、そんなことしてないよ?」


『こっちはテレパスで思念送ってんだからその勘違いはねえよ!もし、お前の中で「監禁=換金」の方程式が成り立つなら、お前は間違いなく世界最低の倫理観の持ち主だ!』


「ねえ、マイク。私困ってるの。助けてくれない?人手が足りなさすぎて、文字通り、猫の手を借りたいのよ。」


『人の話聞けよ!てか、間違ってる臭い言語の使い方すんな!なんでピンポイントで猫の手借りたいんだよ!猫の手借りたいくらい忙しいなら分かるよ!でも、そんなやつは絶対に猫の手なんか借りねえよ!』


 くそ、こいつは俺があの家を出てからも、まるで変わってない。

 いったい、こいつはここで何をしてんだ?


「ふふ。」


 文脈上笑うとこないのに、笑う元師匠。

 気味が悪い事この上ない。


『・・・なに、笑ってんだよ。』

「べっつに〜。何でもないよ。ちょっと昔を思い出したっていうだけ。そういえば、あの頃はいつもマイクに怒鳴られてたなーって。」

『・・・』

「ねえ、おぼえてる?一緒にいたのは半年くらいだったけど、けっこう中身の濃い時間だったと思うんだ。」

 うれしそうに過去を語る元師匠。

 だが、それは俺にとっては思い出したくもない過去なのだ。

『もういい。出してくれ。お前と話してたって、何にもいいことなんかない。それに、俺にはかえらなきゃ行けない場所があるんだ。だから——』

「ねえ、マイクは今幸せ?」


 俺は、俺の台詞にねじ込むようにして問いかけるこいつを無視し、


『帰してくれ。俺を。彼女のところに。頼むからさ。』

 と言った。

 幸せすぎる過去など、思い出したところで、生きるのがつらくなるだけ。

 だから帰りたい。今の俺の居場所に。


「・・・」

『・・・』


 互いに無言。

 しばし沈黙が続いたが、それを破ったのは、昔のように俺ではなく——師匠だった。


「マイク。あのね——」


                ♪


「お休み、マッカーサー。明日もいい日だといいね。」


 そう言って、いつもどおりの寝付きの良さで、夢の国へと旅立つご主人。

 その横でおれも丸くなる。

 ・・・やっぱり、彼女の横は落ち着く。あいつの横とはえらい違いだ。


『・・・』


 ひどい一日だった。

 あいつの言葉を思い返すだけで涙が出てくる。


「マイク。あのね、私ってば、永久犯罪者になっちゃった。だから、一時期とはいえ、私の弟子だったマイクにもおとがめがあると思うから気をつけてね?」


『・・・』


 あまりのことに何も言い返せない。

 俺の記憶が確かなら、永久犯罪者とは、犯罪者の中でも、最悪の連中につけられる称号だ。

 ドンくらいひどいかというと、

 現世でこんくらいひどいなら、前世も来世もきっと、それはそれはひどいだろうという、とんでもない評価のやつらにつけられるもの。

 ちなみに、永久犯罪者は捕まったら死刑と相場がきまっているのだが、その死刑も並の死刑ではなく。

 魂を漂白されるレベルで・・・正確に言うと、精神物質と現界物質の両方を無色のエネルギーに変換されるという、徹底的な自己の否定を罰として受けさせられるレベル。


「まあ、お咎めがあるっていっても、マイクは直接的には関係ないんだし、甘く見積もって終身刑くらいだと思うから、その・・・安心していいと思うよ?命までは取られないと思うから。」


 甘く見積もって、終身刑。

 ・・・甘く見積もってんじゃねえよ。

 確かに、辛く見積もってほしくもないが。

 ・・・何もしてないのに、終身刑。


「今日はその忠告にきたの。まあ、それだけじゃなくて、シロ——」



・ ・・寝よ。

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