表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と日常  作者: blue birds
18/38

ネコとネズミのワルツー宵語りー中編分画4


正論という剣を突きつけられたご主人はただ、歯をくいしばるしかなかった。


そう、たとえ、剣を振るう者の根源が何であるにせよ、突きつけられモノは間違いなく、どうしようもなく、「正義を成す剣」だったのだ。




「香織は「一晩だけ待ってほしい」と、秘書の方に願い出ましたーーー色んなことを整理する、時間が欲しいと」




俺の経験上。

正しき剣は多くの場合、歪んだ心によって振るわれる。

そして、その果てに断たれるは然るべき罪ではなくーーー人の、大切な『想い』。




「そのとき私は、何も出来ませんでした。一言も、声を発することすら、わたしには・・・・・・」






その日。

黒服が席を引き取り、ご主人がなけなしの調味料(塩)を玄関にまき、

いつも通りの貧相な夕食を済ませ、狭く汚い風呂場で身を清めた後。



いつも通り宗谷とミケ(化けネコ)との三人で床に付いたご主人は、

宗谷のうちに来て初めて、夜更かしを許された。






「あの娘は、あの日、初めて夢の話をしてくれました。その夢というのは、あの娘の望む「未来の形」であり、そして」





いつからか、ご主人が眠りの中で見るようになった、夢の話。

夢を見だしたおおよその時期は、ご主人が両親を亡くした後らしい。


ただまあ何にせよ、ご主人は一人で眠りにつく夜に、変な夢を見るようになったというのだ。



夢の世界には、ご主人と一人のお姫さまーーーたった二人だけが、存在を許されていたのだと言う。



「あの娘から夢の話を聞いた時は、心底驚きました。その話はシルクが私に語る、「もう一つの世界」で侵攻しているできごとを明らかに示唆していたからです」





宗谷と「くそネズミ」は自らの影を通して、定期的に情報を交換していたらしい。

ただ、どちらかというと「くそネズミ」が一方的にご主人の状態を宗谷に聞いて来て、それに宗谷が答えるというものだったらしいが。




「あの娘は、ホントウに嬉しそうに話してくれるのです。自分は、夢の中で別の世界のお姫様と会話できるのだと。そしてそのお姫様はとても立派な人で、そんな人が『自分たちは同じだ』と言ってくれるのだと。そうつまりは、香織と『異世界のお姫様』は、シルクが言うところのーーー」




ーーー『同一存在』、か。

同じ場所から歩み始め、そこからの経緯がどうであれ、同じ場所にたどり着いた者たち。





「そのお姫様は『自身』という存在を苗床に、『幸せな世界』を築こうとしているとのことでした。

なんでも、そのお姫様一人が犠牲になるだけで、『あらゆる願望が肯定される世界』が生まれるというのです。そして」





そんなお姫様と自分は、『同じ』なのだと。

自分という存在は、『だれかの幸せ』になれるのだとーーーだから、自分と宗谷が『このように』別れることは、正しいのだとーーーそう、ご主人は。




「あの娘は心の底から、私にそう言ったのです。

とても強い笑顔で、その年には不相応すぎる優しい声で、あの娘は私に・・・」




ーーーありがとう、と一言。

あなたのおかげで、私はもう大丈夫ですからと。



たとえこれから何があったって、ここでの思い出が私を守ってくれるからと。





そうやってご主人はーーー自身という存在を苗床に、『宗谷のいつもどおり』を守る決意をしたのだという。





















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ