ネコとネズミのワルツー宵語りー中編分画3
そんなこんなで宗谷とご主人は、一つ屋根の下で暮らし始めた。
二人の奇妙な共同生活は当初はぎこちなかったものの、次第に、まるでそれが最初からそうあるべくしてあるように、
自然と笑顔あるものに変わっていったらしい。
しかし、それは幾つもの間違いの上にしか成り立たないもので、当然。
「あの娘が家にきて、二週間もたった頃でしょうか。なんにせよ、幾ばくもしないうちに、彼女の迎えが私たちの元を訪れることになります。最初の迎えはもちろん香織の叔母ではなく、彼女の秘書でした」
その間違いだらけの理想郷は、「のっぺらぼうな黒服」の到来により、終焉を迎えることになる。
「私と香織の前に現れた彼は、事務的に私の犯した『罪』を列挙し、それに不問に帰すことを条件に、香織を然るべき場所に帰すように、私と「香織」に警告しました」
それは罪であると、黒服は言ったらしい。
もし、宗谷の行為が表沙汰にでることがあれば、宗谷はーーーおそらく、今の暮らしをしていくことは難しいだろうと。
そう、宗谷とご主人に告げたのだ。
「単純な、話でした。私と香織の生活は本来、半月も許されるものではなくーーー」
ただ単純に、二人は泳がされていただけだったのだろう。
人は、大事なものが在るときにこそ、その弱さを露呈する。
宗谷に巡り会うまでのご主人は失うことを恐れなければならい『大切なモノ』など持ちうるはずもなく、だからこそ、
様々問題を起こしてこれた。しかし、今後同じようなことを行おうものならーーー
「わたしは、あの娘の何十倍もの時間を生きてきたにもかかわらず、結局はあの娘を『守るもの』ではなく、『守られる存在』になってしまっていたのです」
ご主人は、宗谷のもとで『大切なモノ』を得て、そして、それを人質に取られた。
失いたくなければ、従えと。
そうすれば、『すべてがもとどおりになる』ーーーそう、「黒服」は『ご主人』に伝えたのだ。