ネコとネズミのワルツー宵語りー中編分画2
---結局。
結局のところ、その日もご主人は宗谷の 家に泊まることになった。
不思議な声に導かれた(くそネズミのだけど)宗谷は、紅の世界で、ご主人と再会を果たしてしまったのだ。
もちろん、たったそれだけのことに宗谷は、運命を感じとった訳ではない。
夕暮れの時刻に。
世界が眠りにつくその前に、公園で遊んでいた子供達の多くが親に手を引かれて帰る中、『くるはずのない何か』を待つかのように、一人。
ひとりぼっちでご主人は、ブランコに座っていた。
「今ならーーー彼岸という世界に身を寄せる今の私なら、
彼があのとき言った「眠りにつく世界」とは、なにも「この世界」のことではなく、「香織」のことをさしていたのだと理解できます」
あの時の光景は、あらゆる理屈を超えて『間違いらけだった』と、宗谷は言う。
「たしかに子供たちは、多くの感情を経験するべきです。それらは彼らの成長を促し、そしてそのことは、後の彼らがたくましく生きていくための糧となるのですから…ですがーーー」
ーーー孤独というものは。
世界に一人だけとりのこされたという、その感情だけは。
「許されるはずが、なかったのです……少なくともあの時の私は、そう感じました。子供とは、本来、開かれた存在です。
降り注ぐ太陽の光をまぶしいと感じ、空を流れる雲に感動を覚え、走り回ったあげくに転べば泣き、誰かが微笑めば「それ」が何であるかも分からぬまま微笑みを返し、そして」
そうやって、世界というものを知っていくのだと。
ありふれた「あたりまえ」を「ありのまま」に受け取り、そして、やはり「ありふれたもの」を世界に返すのだとーーー
そう、それこそは、『世界の投影者』たる子供のみに許された、「回帰の魔法」。
確固たる「固有世界」を持たぬが故に行使しうる、「世界」から「世界」を取り出す異能の技。
「香織を連れ帰ったあのときの私は、ただの感情だけで動いていました。ただ単に、我慢ならなかったのです」
「世界の投影者」である子供が、「世界」を閉じようとしている。
閉じるに値する「世界」の形を、幼子が訴えているーーーだからこそ。
「そう、我慢できなかったのです。あの時の私には、それだけの感情しか許されていなかったのです」