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猫と日常  作者: blue birds
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ネコとネズミのワルツー宵語りー中編分画1




「最初はただ、あの娘を警察に引き渡す必要はないとーーーそう、思っただけでした。家に一旦連れた帰った後で、ご両親を呼んで引き渡せばいいと」



 なにも、大騒ぎすることではない。

 この程度のこと、たんなる、子供のかわいい悪戯だーーーと、宗谷はそう判断したのだという。



「香織を連れ家に戻ったのは、ちょうどお昼を回ったくらいでした。時間も良い頃でしたし、私はうどんを作り、あの娘と一緒に食卓を囲みましたーーーそのとき私は何も聞かず、また、香織も口を開くことなくーーーただ二人で黙ってうどんを一緒に食べたのを、いまでもよく覚えています」




 そしてご主人にうどんを食べさせた宗谷は、当然のことながら『ご両親の連絡先は?』と、ご主人に聞いたのだそうだ。

 そしてこれに対しご主人は一言、『おとうさんもおかあさんも、いません』とーーーそう、返した。




「当時の私が彼女の身の上を知る由もなく、そして、知るつもりもありませんでした。ですからなんの気もなく、『では、あなたのご家族の連絡先を教えてください。ええっと、どなたでも構いません。今、あなたが住んでいるお家の人に、あなたを迎えにーーー』と、そう言ってしまったのです」




 この一言を聞いたご主人は俯き、しばしの沈黙の後、たった一言「ごちそうさま」と。

 そう言った後、唯一の持ち物である小さなバックをからって、玄関に向かったらしい。




「引き止める理由も、ありませんでした……いえ、そうではありませんね。あのとき私には、人と関わる勇気がなかっただけです。だからあの娘を『孫娘』と偽り家に連れ戻り、そして、『他人』として、家から送り出したのです」



 ーーー何事もなかったかのように、日常に戻る。

 そのために、宗谷はご主人との出会いを、『無かった』ことにしようとした。




 結果、ご主人は「ほんとうに、ごめんなさい。もう、こんなことはしません」と言い残し、家をあとにした。





「その一言を聞いた直後でした。あの娘を送り出し、玄関の戸を閉めた、その瞬間ーーー」




 宗谷がご主人を送り出した次の瞬間、影から、声が生まれたーーーあのクソネズミ、何してんだよ……だめだろ、そのファーストコンタクト。




『これは粋じゃないぜ、相棒。何をどうひっくり返したところで、この選択の先に未来はないーーーそのくらいのことは、覚悟してんのかい?』





 声を聞いたとき、最初宗谷は空耳を疑い、次に自分の正気を疑ったらしいーーーまあ、そりゃそうだ。




『公園だ。公園に、行ってみなーーああ、今じゃねぇぞ、夕暮れ時だ。世界が眠りにつくその前に、もう一度だけチャンスをやる。決めるのは、あんただよ、相棒ーーーただ、覚えておいてほしい。あんたの選択は、どうんな経緯を経るにせよ、世界に回帰する。どれほど消極的な選択肢をしたように思えたところで、それは、『選択』なんだ』





 だから、後悔しないような『選択』をしろと。

 あのくそネズミは、そう言ったらしい。



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