◆セシリアはリリアナの事情を確認する
超絶朗報、この世界のリリアナが激可愛い件について。
いや、ね。原作乙女ゲームでのリリアナって容姿は決まってないし、モノローグも心の中で思ったことばっかでそれも中性的、作中だと自我って呼べるのはプレイヤーが決める選択肢ぐらいだったもの。
漫画版、アニメ版だと意図的にリリアナの外見はバラバラにされてたから、どの作品のリリアナが一番可愛くて推せるかが日々ネット上で議論されてたぐらいだったわ。
あえて前世の諺で感想を述べるなら、月とスッポンだわ。実物のリリアナはお人形さんが動いてるってぐらい愛くるしくて、おもわず抱きしめて頬ずりしたくなるぐらい。
はっ、まさかこれもリリアナの持つ魅了の異能のせい? いけないいけない、気を引き締めないとヒロインの言うがままに悪役令嬢にされちゃうわ。
とまで、リリアナを一目見て警戒したんだけれど、直後に一つ、どうしても見逃せない要素が、公爵家の屋敷にやってきた彼女にはあった。
(な、なんで邪眼殺し付けてるのよー!?)
邪眼殺し、それはリリアナの魅了の異能を封じ込めるアイテムで、原作乙女ゲームでも一部のシナリオで出番があった。時にはバッドエンドの時に、時にはリリアナが自分の運命を克服する時に。
けれど、どのパターンでも邪眼殺しが登場するのは作中後半。コンシューマー版に移植された際の目玉として攻略対象者に追加された、あの異端審問官ことヴィクトール様が所持するシュナイダー家の家宝だった。ヴィクトール様の好感度を稼ぐ、または隠しパラメータの断罪値を蓄積させる、のどちらが登場の条件。最低でも現段階でヒロインが入手できる代物じゃない。
それと、使用人の反応から察するに、リリアナが全身から醸し出す魅了も無力化されているっぽい。父の指示を守ってきちんとリリアナ母娘を迎えている。父も新しい母になるマリアと抱擁するけれど、離れ離れだった家族が一緒に過ごせるようになる喜びと解釈するなら、理解出来なくもない。明らかに原作乙女ゲームの大歓迎ムードとは打って変わって、落ち着いている。
(おおお、落ち着くのよセシリア。こんなの偶然なんかじゃないわ)
リリアナが強くてニューゲーム状態な理由は、幾つか考えられる。
一つは悪役令嬢もののテンプレ、つまり彼女も原作を知る異世界転生者な可能性がある。典型的悪役令嬢ものならヒロイン(笑)に成り下がって、逆ハー目指して魅了の異能をフル活用しそうなもの。逆に、ざまあ展開を知っているから慎重に事を運んで、いざという時に相手を魅了して言いなりにする気かもしれない。
もう一つは異世界恋愛ものでよく見るパターン、すなわちやり直しね。つまり、バッドエンドを迎えてしまったリリアナが、原作乙女ゲームのオープニングまで遡っているとしたら? 魅了の異能で痛い目を見たなら、真っ先に要因を潰すのは理に適っている。
さすがに他に転生者がいて、リリアナを原作通りに導いている線は考えたくない。きりがないもの。
「この度は、本当に……お母様を亡くされたばかりというのに、私たちがこのような形で参ることを、お許しください」
マリアと一緒に慇懃なほど丁寧なお辞儀をするリリアナは、明らかに貴族令嬢としての教養を受けた者の気品がにじみ出ているわね。残念ながら身体に覚えこませた洗練さは無い。これはやり直しが一番疑われ……いえ、ちょっと待ちなさい。ファンディスク版だとプレイヤーがゲーム開始時に好きなように各種パラメーターをいじれるんだったわ。初期パラメーターを増している可能性はまだ否定出来ないわ。
「いいえ、お気になさらないでください。父の決めたことです。私も、新しい家族を歓迎いたします」
あえて原作通りの台詞を口にすると、リリアナは私がどんな様子かを窺っている。
どうやらリリアナもまた未来のことを知っているようね。でなければ、現段階で新しい姉なだけの私にここまで注意を向けるわけがないもの。
ギルティ? オアノットギルティ?
……最初が肝心。今日はもう少し踏み込んでみましょう。
「リリアナ、これから一緒に暮らすことになるのだから、仲良くしていきたいと思いますの」
「私もです、セシリアお姉様」
私が仲良くしましょうと提案すると、リリアナはとても喜んでくれた。これが素なのか私を出し抜くための演技なのかはまだ判断しがたいわ。
「ところで、その眼鏡……度が入っていないようだけれど、オシャレかしら?」
思いっきり指摘すると、リリアナは目に見えて動揺した。私が彼女の顔に手を伸ばそうとするだけで、怖気づいて反射的に離れようとする。やっぱり、リリアナは自分がかけている眼鏡が邪眼殺しだって分かっているようね。
「もっと素敵な眼鏡を用意いたしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。これが気に入っているので」
そして、自分が魅了の異能持ちだと現時点では秘密のままにする気のようね。
隠すつもりなら上等、こっちの事情だって明かすものですか。
前世を思い出したからって私は私、誇り高き公爵令嬢、セシリア・エルフリートですもの。
いかにリリアナが原作主人公で人気ヒロインだとしても、私を脅かすようなら容赦はしないわ。
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