水風小学校の動物園
みなさんは、動物になれるとしたらなんの動物になりたいですか?
霜月透子さま、鈴木りんさま主催のひだまり童話館「またねの話」参加作品です。
ある日、水風小学校4年1組に魔法使いのおばあさんがやってきました。
「魔女のくじ引きでこのクラスが当たったから、みんなを一日だけ動物にかえて楽しませてあげるよ」
「うわぁ、なんの動物にでもなれるの?」
「なれる。元に戻れないなんて意地悪はしないから、安心おし」
「ぼく、虎になる!」
「私は、うさぎ!」
「ぼくは鳥がいいな~。空を飛んでみたい」
「じゃぁ、僕は恐竜!あっ、恐竜は絶滅したからダメか」
みんな思い思いのことを言います。
でも、サチカは浮かない顔をして、魔法使いのおばあさんに聞きました。
「動物になる魔法を私の分だけ別の魔法にしてもらうことはできませんか?」
魔女は、「どうしてだい?」と聞きました。
「私の弟に甘いケーキをおもいきり食べさせてあげたいの。弟は、1型糖尿病で……」
「難しいことを言うが、魔法には魔法の領分というものがあってね、動物になる魔法は他の魔法にはならないよ」
サチカは、それをきいて下を向いてしまいました。
サチカの家は、お母さんとサチカと弟だけで、お父さんがいません。
お金がなく、食べていくだけで精いっぱいで、お菓子などここ何年も食べたことがないのです。
ましてや、弟が食べられるような砂糖を使っていないおやつは高いので、手など出せません。
その事情を知っている担任の山川先生が、みんなに提案しました。
「ねぇ、みんな。みんな、動物になったら、何がしたい?」
「空を飛びたい!」
「速く走りたい!」
「壁を登りたい!」
「それも素敵だよね!それは最後の3時間でみんなで楽しもう。その前にみんなで動物になって人を楽しませるってのはどう?」
「人を楽しませる?って先生、何するの?」
「入園料をとって水風小学校動物園を開くの。町の人、普段さわったこともない動物とふれあえて、ましてや喋る動物なんて喜ぶわよ~。そして、その入園料でサチカさんの弟くんが食べられるお菓子を買うの」
おとなしいサチカは、真っ赤になりました。
「「「うおお、おもしろそう」」」
やんちゃな男の子3人組が声を上げて、サチカはびっくりしました。
「サーカスみたいなことをするんだろう?サイコーじゃん」
「おれ、火の輪くぐり、やる!」
「それは危ないから、ちょっと……」
山川先生がやんわりダメ出しすると
「じゃあ、火をつけない」
「それならいいわ」
「おれは、三輪車に乗ったり、逆立ちする!」
「ちょっといいかい?」
魔女のおばあさんがくちをはさみました。
「火もやけどをしない火を私がだすからだいじょうぶ」
「いえい!やるきまんまん!」
「先生、私もさんせい!さっちゃんは、いつも私たちに優しいの。さっちゃんのために女子のみんなはさんせいよね?」
そういって女子をまとめたのは、学級委員のサトコ。
女子たちは、みんなにこにこしてうんうんと頷いています。
「でもさ、最後の3時間、鳥になっても学校だけを飛ぶんじゃつまらないかも」
「安心おし。最後の3時間は魔法の出血大サービスで、不思議な……。おっとそれは後のお楽しみ」
「「「うおおお、楽しみ!サーカスも楽しみだけどな」」」
「男子もみんなさんせいです」
と男子の学級員のカズキがいったところで、魔法使いのおばあさんはにっこりして
「では、魔法をかけるよ!ヌバババヌバババ、スッペコリ!」とおかしな呪文を唱えました。
4年1組の生徒たちは、サチカも含めて願っていた動物になりました。
「さぁさぁ、水風小学校動物園の開園ですよ~」
山川先生が、声を張り上げました。
うわさをききつけた保育園の園児たちや近所の人たちがやってきます。
「一団体100円の寄付をお願いいたしま~す!」
とサルに変わったタケシ君が、おどけて宙返りするとみんな笑います。
「誰よりも速く走りたい人は、僕の背中へ。しっかり縄でしばるから落ちないので大丈夫ですし、小さい子はわざとゆっくり走りますよ」と豹に変わったタイチ君がせんでんします。
「小さい子はぜひ僕の背中へ。高い所から水浴びできるよ~」と象になったカズキくんも負けていません。
「さあさあ。こちらはサーカスだよ~。クマがタップダンスを踊ったり、ライオンが火の輪くぐりをしたりするよ~」
「かっこいいホワイトタイガーは、こちらです~。虎のめっちゃかっこいい大迫力の鳴き声がきけるよ~」
「あらあら、男子たちはなかなかせんでんじょうずねぇ」
山川先生が、感心しています。
「わたしたちも張り切っていこう!」
とサトコが言うと、女の子たちも声を張り上げ始めました。
「かわいい猫やうさぎ、小鳥、犬、フェレット、パンダ、かわったところではリュウグウノツカイ。いっしょに写真を撮りたい方、どうぞ~」
こちらは、中学生や高校生の女子に写真映えするので
「肩に乗って~」だの「こんなポーズをして~」だの大人気です!
「ダチョウやシャチなど大きな動物もいますが、絶対にかんだり、ひっかいたりしない動物たちです。小っちゃい子たちどうぞ~」
あっという間に、動物になった女子たちも保育園や幼稚園の子たちにかこまれました。
サチカは、ポニーになりました。
自分がなりたいものではなく、以前弟が乗りたいといっていた動物でした。
山川先生も魔法使いのおばあさんも、「サチカ、なりたいものになっていいのよ」と言いましたが、サチカはポニーしか思いつかなかったのです。
小さい子を乗せていると、向こうから弟が教頭先生と手をつないで来るのが見えました。
「ヒトシ!」
サチカの声を聞いたヒトシは、目がなくなるほどににっこりしました。
ヒトシを背に乗せながら、やっぱりサチカはポニーになってよかったと思ったのです。
動物園は、大好評であっという間に終わりました。
「楽しかった~!!」
みんな大満足です。
そして、最後の3時間。
「トンズラトンズラ、ポッペケリ」
町全体が、不思議な空間に変わったのです。
人が全くいない自然なのに、ところどころ信号機や道路やビルディングが残っていて、それがまた生徒たちは気にいったのです。
「さぁ、みんな思い切り遊んでおいで!」
「「「「「「「おおーーーーーーー」」」」」」」
思い切り走るもの、ビルディングを壊すもの、海中散歩を楽しむもの、空から滑空するもの、砂の中に潜るもの、プロレスのようなことをするもの、みんな思い思いのことをして遊んでいます。
サチカは(そういえばポニーって、人を乗せていない時何をしているのだっけ?)と考えました。
(そうだ。草を食べていた)
サチカは草原へかけていきました。
思ったよりも早く走れて気持ちが良いです。
そして、草をそっとはみました。
柔らかくて美味しいこと、美味しいこと。
サチカは人間の姿の時も草を食べたことがありました。
青くさくて苦くて食べられたものでもなかったのに、ポニーになるとこんなに美味しいなんて!
おそらくこういった体験をしているのはサチカだけです。
みんな自分の身体能力を楽しんでいる。
サチカはなんとなく嬉しくなって、ふふふと笑いました。
あっという間の楽しい3時間が終わってしまいました。
入場料は約7000円分集まり、山川先生がお菓子を買ってサチカの弟のヒトシに届けることになりました。
サチカは「みんな、ありがとう」と頭を下げて、みんなは拍手しました。
山川先生は、みんなにアイスクリームを自分のお給料から出して買ってくれ、魔法使いのおばあさんにもあげていました。
魔法使いのおばあさんは、みんなの様子を見て、大変満足して
「またお前たちの元へ来て、魔法をかけるよ。それまでこの気持ちをなくさずにね」と約束して、夜空へ飛び立っていったのです。
「またね~~~!!!」
「あぁ、またな!!」
魔法使いのおばあさんのほうきのあとに、夜空には幸運のしるしと呼ばれるムーンボウがかかりました。
水風小学校の4年1組の生徒たちは、ムーンボウを見て、だれもが良い気持ちで帰路についたのです。
あっでも一人、山川先生は4年1組の一員でもなんの動物にもなっていませんでした。
山川先生は今回動物の魔法を使わなかったため、実は魔女とこっそり約束をとりつけていたのです。
「なんだって!?確かに動物は動物だけれど…」
「魔女だって現実にいるのだもの。アレだっているでしょう?」
「まぁ、そうだね。でもずいぶんとだいたんな。じゃあ、つぎはあんたをあれにかえるよ」
「ありがとうございます、偉大な魔女さん」
次回水風小学校に魔女が来るとき、先生はドラゴンになってはばたいて火をふくでしょう。
クラスの皆の驚いた顔が楽しみで、山川先生はあっはっはとごうかいに笑いました。
おしまい
お読みいただき、ありがとうございました。
何か感じるところがありましたら、ご感想などでおしえていただけると幸いです。
ひだまり童話館は今回で無期限の休館に入ります。
参加させていただき、楽しませていただいたこと、ありがとうございます。忘れません。
また戻ってくる日を楽しみにしています!
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