0.花綻ぶ
辺りに大きく鳴り響く銅鑼の音。観衆たちのどよめきが好奇心をくすぐって、そっと馬車の窓を開けた。
──……勝ったのはどこかしら?
年に一度行われる慣行に、今年ようやく来る事が許された。
賑やかさに慣れないながらもどこかそわそわとして落ち着かない。
窓から覗き見たのは、数え切れない程の並べられた花鏡。そしてそれらに囲まれるようにさらに飛び抜けて大きな花鏡がある。
──今年もうちが勝ったのね。まぁ、うちには兄様がいるもの。
大花鏡に映し出された黒衣の無表情男の姿に、うんうんと首を縦に振る。
そして花鏡から少し視線を横へと移動させ、深い霧に包まれた一帯へと目を向ける。
山の奥へと続く道があるが、それを隠すよう深い霧がかかっている。しかし徐々に薄くなり、霧の中からぞろぞろと人が出てきた。
赤、黄、白と色鮮やかな色衣はとても目立っている。おかげでどこの家門か分かりやすい。
続いて見えた色は青。青衣が一人、二人と現れて、列から外れるように最後に現れた男に女たちの声が上がった。
「きゃー、蒼家の若君よー!」
「山狩りの後なのに凛々しいわ」
「剣を振る姿も美しかったわ~」
──へぇ~あれが噂の……すごい人気ね。まぁ確かに綺麗な人だけど……噂通りなら……。
「あの、梓娟様、そろそろ窓を……」
振り返れば側仕えの女が眉を八の字にさててこちらを見つめていた。
「分かってるわ」
仕方ないわね、と窓へと手を伸ばす。
「今閉め──ん?」
ふと、外から流れ込んだ風が髪を揺らす。
その風に呼ばれたような気がして再び外へと顔を向ければ、件の若君が顔を見上げ、ふっと笑みを浮かべた。
「っ──!!」
思わず窓を閉めていた。
──何っ、何なの!?あの笑顔!?
目が眩む程の眩く、花が綻ぶような柔らかな微笑みで。
胸がどきどきと激しく高鳴って、暫く収まることはなかった──。




