自称公務員と、42歳・年収1500万の男
最初に会ったのは、「公務員です」とプロフィールに書いていた34歳だった。
居酒屋で向かい合って、それなりに当たり障りない話をして、会計のとき。
「領収書ください。宛名、◯◯社で」
お財布からちらっと見えた保険証は、思いっきりピンク、自営業。
(“みたいなもん”じゃなくて、完全に違うやつじゃん……)
心の中でツッコみながら、割り勘に応じた。
二人目は、同い年の30歳。「年収はそこそこあります」とだけ書いていた人。
カフェで会って、開口一番。
「子どもは最低2人は欲しいですね。奥さんにはパートくらいでいてほしいなあ。女の人って、家庭に入るのが一番幸せでしょ?」
私の職業も、年収も、今後私がどうしたいかも、話題にすら上がらなかった。
(最初から“家政婦兼託児所”としてしか見てないのか……)
三人目は、「真面目に婚活してます」とアピールしていた45歳。
「本当はもっと若い子がよかったんですけどねぇ〜、やっぱアラサーで妥協したら会えるもんなんですね!」
駅前でそう言われたときは、さすがに笑ってしまった。
誰が誰に言ってる台詞なのか、鏡を見てきてほしい。
……そんなこんなで十数人会ったころには、私はマッチングアプリにだいぶ疲れていた。
(それでも、“元彼より条件のいい人と結婚したい”って、どこかで意地になってたんだと思う)
だからこそ、「42歳・弁護士・年収1500万↑」というプロフィールを見たとき、心がぐらっと揺れた。
学歴も、年収も、職業も、全部「ザ・スペック」って感じ。
身長は「170cm」とギリギリセーフ。
顔写真は、ちょっと太めだけど、まあ許容範囲……に見えなくもなかった。
『真剣に結婚相手を探しています』
そう書かれているのを見て、私は次の週末、会う約束をした。
名前は、出部 勉さん。
——名前だけ聞いたときは、「すごい苗字だな」と思ったのは内緒だ。
◇
1回目のデートは、夜景の見えるレストランだった。
高層階から見下ろす街の光はきれいで、料理もワインもちゃんとしていて、会話もそこそこ盛り上がった。
(あれ……今までの人たちより、全然マシじゃない?)
正直、そう思った。
食後、レストランを出て、エレベーターの前で出部さんが紙袋を差し出してきた。
「今日はありがとう。また会いたいと思ったから、よかったらこれ」
「え、あ……ありがとうございます」
中身は、小さめのクマのぬいぐるみだった。
ふわふわしていて、別に変な見た目でもない。
ただ——
(42歳の弁護士から、1回目のデートでぬいぐるみって……何の感情?)
嬉しいような、ちょっとぞわっとするような、複雑な気持ちが胸に残った。
「家に置いておいてください。僕のこと、思い出してもらえたら」
そう言って笑う出部さんに、私は曖昧に笑い返すしかなかった。
(盗聴器とか入ってないよね……さすがに)
帰り道、紙袋を抱えながら、半分冗談、半分本気でそんなことを考えた。
その日は、それで終わりだった。
変なことをされることもなく、「また連絡しますね」で解散。
(……まあ、アリ寄りなのかな)
そう自分に言い聞かせて、私はマッチングアプリの画面を閉じた。
このときの私は、まだ知らない。
この「アリ寄りかも」が、一番のハズレだってことを。




