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風の小道と小さな剣  作者: うにまる
第六章 魔法陣、刻まれる意思
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閑話 緻密な設計、乾燥の探求

 フェルノート王国北部、マクシミリアン公爵領都(バストリア)の中心部に建つ公爵邸(マナーハウス)。邸宅の離れにある工房は、小さいながらも活気に満ちていた。


 グラナートが乾燥果物を口にして、思わず声を上げた。


「おいアル坊! 舌触りが気に食わん!」


 アルフォンスは肩をすくめ、あまり気にせず返す。


「え、でもこれ、昨日グラが『ちょうどいい!』って言ってた乾燥度だよ?」


 カッと目を見開き、グラナートは告げる。


「わしの舌は日々進化しとるんじゃ!」


 アルフォンスは呆れ顔でため息をついた。


「進化って……老化のことじゃないの? じゃあ、また陣式いじるのか」


 グラナートはウンウンと頷き、楽しげに言う。


「うむ。細密化はもう五回くらいやったが、あと二回ぐらいなら楽勝じゃ」


 アルフォンスは眉をひそめる。


「……簡単な分量調整は後回しなのに」

「そんなのは、暇なときにやればいい!」


 アルフォンスは少し眉を寄せて言った。


「やっぱり、簡単に乾燥深度を変えられる部分を入れようよ。毎回陣式変えた陣図を描くのは楽しいけど、陣図管理が面倒だよ」


 グラナートは顎の下に手を当て、視界の隅でウンウン頷いてる侍女は見なかったことにして、考え込むように頷いた。


「そうじゃな。管理は面倒じゃから、付けるか。んじゃ、あと二段分細密化した状態で、切り替え機能をつけるぞ」


 アルフォンスは小さく息をつき、でもどこか楽しげに笑った。


「面倒なのに、やっぱりやっちゃうんだ……」

「楽しいことに制限は要らんのじゃ」


 アルフォンスが陣式の切り替えを操作すると、乾燥させた果物が硬くなりすぎた。


「うわっ! 乾燥し過ぎて石みたいになった!」


「ぐっはっは、わしの陣式は容赦せんのじゃ! アル坊、もう一段下げてみてくれ」


 アルフォンスは必死に微調整し、やっと程よい乾燥度に収める。


「ふう……これでやっと食べられる硬さかな」


 グラナートは目を細め、果物を口に運びながら次の構想を語る。


「うむ、悪くない。……次は中心部だけ新鮮でみずみずしくするぞ」


 アルフォンスは眉をひそめ、手を止めた。


「それはダメだよ。乾燥させないと傷みが早いから」


 グラナートはにやりと笑う。


「ふむ、ならば工夫次第で両立させるぞ。アル坊、知恵も借りるとしよう」


 アルフォンスはため息をつきつつも、目を輝かせる。


「グラといると、実験は一仕事どころか大冒険だよ」


 グラナートは得意げに胸を張る。


「冒険じゃろうが、研究は楽しむもんじゃ! さあ、次の段階に進むぞ」


 アルフォンスは装置を操作しながら、ふと首をかしげた。


「ところでグラ? 進む前に聞いておくけど……これ、何段まで組み込んだんだっけ? 分からなくなったよ?」


「あん? 知らん。そんなのは些細なことだ」


 アルフォンスは思わず声を荒げる。


「些細じゃないよ! 切り替えするところは、何段まであるか分からないと付かないでしょ!」


 グラナートは楽しげに笑って肩をすくめる。


「なら、探りながらやればいい。ほれ、それもまた研究じゃ」


 アルフォンスは頭を抱えながらも、口元に笑みを浮かべた。


「いや、付けた僕たちが知らないのは、研究じゃなくて単なる健忘症だよ」


 アルフォンスは首をかしげながら装置を操作した。


「なんか、干し肉が調整しにくいよ? 干渉制御いじったからかな?」


 グラナートは目を見開き、豪快に声をあげた。


「なんだと! 干し肉は酒のつまみだろ! 最重要案件だろうが!」


「いや、最重要は薬草だよ! でも干し肉も大事だから……干渉制御どうする?」


 グラナートは顎に手を当て、考え込むように頷いた。


「んんん……素材分析を入れて、干渉制御を調整するしかないわな」


「素材分析って、それだけで装置が大きくなっちゃうよ! 持ち運べないじゃん」


 グラナートはにやりと笑った。


「簡易ので十分じゃろ。分析だ、アル坊、土の魔力で分析しろ」


 アルフォンスは半信半疑で眉を上げる。


「はぁ? 土属性の魔力で果物とか干し肉まで分析できるの? 鉱石とかじゃないよ?」


 グラナートは得意げに肩をすくめた。


「知らん。できると思えばできる……たぶんな!」


「……果物なのに土? でもまぁ、分析と言えば土属性の領域だしな。そういうことか?」


 アルフォンスは果物に土属性の魔力を浸透させる。


「ん……思ったより浸透しやすいな」


「水分は除外して、糖分……ざっくりだな。なんだ、不明瞭なのが多すぎるぞ」


 グラナートは腕を組んで笑う。


「把握したことはメモっとけ。干し肉さえ判別できれば問題ない」

「問題しかないよ!」


 アルフォンスは次に、干し肉にする肉の塊に土属性の魔力を流し込む。


「へぇ……思ったより水分が多いんだな。よし、除外して……旨味成分? ……これだけで美味くなるのかな。脂も分析で出てくるのか」


 アルフォンスは数種類の食材に順番に土属性の魔力を流し、内部構造を可視化していく。


 果肉の糖度、肉の脂質、薬草の水分分布まで――彼の目には、色彩豊かに層となって浮かび上がった。


 グラナートは隣で腕を組み、興味深げに見守る。


「ふむ、順調じゃな。アル坊、そろそろその結果を活かして干渉制御を調整するんじゃろ?」


 アルフォンスは少し眉を寄せつつも、目の前の映像に夢中だ。


「うん……でも、これだけ複雑だと干渉制御も慎重にやらないと、せっかくの美味しさが台無しになるよ?」


 グラナートは豪快に笑った。


「慎重になりすぎるなよ。楽しむのが研究の基本じゃ! さあ、アル坊、次はその干し肉を陣式に組み込む段取りだ」

「さらっと、陣式に干し肉が入るわけないよ!」


 グラナートは腕を組んで真面目な顔で突っ込む。


「当たり前じゃろが! 干し肉を作るのに最適な陣式を入れるに決まっとるだろが!」


 アルフォンスは目を丸くしながらも、分析結果の映像を指でなぞるように確認する。


「真面目な話だったのか……いや……でも、果物の陣式と一緒にすると干渉するんじゃないの?」


 グラナートは肩をすくめて、どこか楽しげに答える。


「ふむ、それも研究の醍醐味じゃ。干渉もまた、調整次第で面白くなる」


 アルフォンスはため息をつきつつも、目を輝かせた。


「やっぱり……グラと一緒だと、実験は大冒険だな」


 グラナートはにやりと笑い、拳を軽く握った。


「そうじゃ、アル坊。楽しむことが何よりじゃ!」


 アルフォンスは思わず声をあげた。


「いや、既に楽しむ先の遭難中だよ!」


 工房の中は笑い声と小さな騒音に包まれる。だがその喧騒の奥には、確かな手応えがあった。乾燥魔道具の完成は近い。


 アルフォンスが夢見てきた、薬草を簡単に、効率よく乾燥させられる未来は、もう手の届くところにある。


 干し肉さえ邪魔をしなければ。


 グラナートは果物と干し肉を前に、どこか得意げに胸を張っている。


「ふむ、次はこれをさらに面白くしてやるぞ、アル坊」


 アルフォンスはため息混じりに笑いながらも、心の奥で小さな期待を抱いた。


「……面倒だけど、やっぱり、楽しいんだよな。でも、先に完成に持ってくよ?」

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