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風の小道と小さな剣  作者: うにまる
第十六章 深まる友誼、魔道具都市の夢
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第四節 魔道具都市の熱気、別れの約束

 魔道具フェス会場の熱気は、まだ冷めやらなかった――。


 仮設テントの中、アルフォンスとリュミエールは一息つくために湯気の立つお茶を口にしていた。シグヴァルドとマリナは、参加者たちを連れて〈最新作魔道具展示会〉へ向かってもらった。


 グラナートが頭を掻きながら言った。


「いや、あれだ。このフェス、最高責任者がいなかったんだよ。なんで、公爵に相談したら『アルフォンスに挨拶させとけば大丈夫』って、返事が来てな。で、こうなった」


 リュミエールは淡く笑みを浮かべ「見れないのに、悪戯を仕掛けてくるのは感心するわ」と、呆れた口調を隠さずつぶやく。


「仕掛けた時のワクワクで元が取れるからね」


 アルフォンスは苦笑し、グラナートは「二人の受け取り方が、相変わらずスゲぇよ」と、呆れ気味に肩をすくめた。


 アルフォンスは湯呑を置き、少し真面目な顔になる。


「でも、これでバストリアの〈魔道具フェス〉は、認知度が一気に高まった。冬に向かうこの時期は楽しみも少ないし、良い催し物になるのでは?」


「なるな。魔道具工房も楽しみができれば活気が出てくる。バストリアだけで終わらないよう、仕掛ければいいな」


「ふふ、そこは大丈夫よ。今回、訪問できた参加メンバーが、それぞれ核になって盛り上げてくれます」


「ちげえねえ」


 魔道具の夢はバストリアで終わらせない――。


 公爵邸に戻り、昼食のため会場へ足を踏み入れると、そこは既に酒場と化していた。


「おぅ、お前ら、フェスどうだった?」


 酒を片手に持ったまま、工房主のグラムスが声を掛けてくる。


 泳げないにもかかわらず、船の〈推進装置〉に興味を示し、クラウスと意気投合して語り合っていたドワーフだ。


「アルフォンスの演説、めちゃ良かったよ」

「最新作は、すごいのが多かった」

「小さな〈熱気球配達魔道具〉、かっこ良かったよ! 行き先が風任せってのがしびれる」


 各々がふらふらと席につき、昼食が配膳されるにつれて、テーブルの上にも混沌が広がっていく。


『酒樽、山盛りの肉、そして普通(?)の昼食が同じ場所に並んでる違和感が半端ない……』


 だが、まるで違和感などないと言わんばかりに楽しむ参加者たちの適応力に、アルフォンスは内心感心していた。


 ふと、クラウスの声が耳に入る。


「熱気球で重量軽減は確かに効果あると思う」

「でもな、〈熱気球船〉との境界がはっきりしてねぇ。遡上させてる船が熱気球船で納得いくか?」

「……それはダメだね」


 クラウスが首を振ると、グラムスが肩を叩く。


「何言ってやがる〈熱気球船〉は夢があるだろ!」


 熱弁しているのは工房主ガルバン。


 〈熱気球配達魔道具〉を作った張本人だが、浮かすことに全力を注ぎすぎて〈推進装置〉を付け忘れたという前科がある。


 そこになぜか、普段は冷静沈着なセオドア・リンドロウ子爵子息が食いついた。セオドア子爵子息もまた浮かせることに熱中し、()()()()が付く気配は当分なさそうだった。


 混ぜるな危険――。


 そんな思考がふと浮かんだが、アルフォンスはすぐに流した。既に手遅れなのだから考えるだけ無駄だ。今のアルフォンスにとって最重要なのは、予定通り魅惑の魔道具都市(バストリア)を出発できることだった。


 昼食が終わり、集会に移行したが……見た目はまるで変わっていなかった。ただ、参加者たちはそれぞれ散らばり、テーブルごとに話し合いを進めている。


 アルフォンスとリュミエールは乾燥果物を摘みながらお茶を飲みつつ、会場の空気を静かに観察していた。


「驚くほどに秩序立って話が進んでるわね」

「皆の適応力が覚醒したのかな?」


 リュミエールと小さく笑いながら、会場の流れを見つめている。


「思った以上に工房主の食いつきがいいよね」


 アルフォンスがぽつりと言葉を零す。


「惰性から抜け出る機会を皆持ってたからな」


 いつの間にかグラナートが隣に立ち、席に着きながら応える。


「長いこと惰性で魔道具を作っとる。わしもだが。思った以上にわしらは飢えていたみたいだ」


 グラナートは乾燥果物に手を伸ばし摘む。


「アル坊との乾燥魔道具作りは楽しかった。あれほどワクワクしたのはいつぶりだろうな。乾燥させて味見で議論。端から見たら奇妙な光景だろうに、楽しかった」


 口の中に投げ込みながら続ける。


「今、あいつらは似た感情を感じておる。心に火が灯る感覚だな。これからの暴走が楽しみだ」


 満面の笑みでグラナートは再び話し合いへ戻っていった。


 リュミエールが少し困った顔で「焚き付けすぎたかしら?」と、アルフォンスに問いかける。


「いや、この流れは必然さ。公爵様が想定している範囲に収まるかは……分からないけど――」


 二人はゼルガード公爵が慌てふためく様子を想像して、思わず吹き出した。


 バストリアを離れる日が訪れた――。


 晴れ渡った空の下、参加者の面々は工房主たちと別れを惜しみながら、短い言葉を交わしていた。


「手紙のやり取りだけじゃもどかしいです。また、相談してもいいですか?」


「もちろんだ、力にならせてもらう」


 力強く答えるドワーフ工房主の声に、参加者たちの胸は熱くなる。


「新しい夢見つけたら、必ず教えてくれよな」


「こっちにも、楽しいの期待してるぜ」


 互いの未来を思い描きながら、笑顔と握手が交わされていく。その傍らで、残留組の三家族が準備を整え、静かに見守っていた。


 アルフォンスが声をかける。


「バストリアを出る時は、公爵邸に一声かけてくださいね。安全の確認ができると安心ですから」


 家族たちはしっかりと頷き、約束を交わす。そして準備が整うと、馬車はゆっくりと動き出した。出発に気がついた街中の人々が、馬車にむかって声援を送る。


「道中、気をつけて!」

「また必ず戻ってこいよ!」


 熱気あふれる声に包まれ、参加者の面々は王都(リヴェルナ)に向けた新たな旅路へと進み始めた。


 ――魔道具都市(バストリア)での夢と約束は、彼らの胸に強く刻まれていた。


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