咲いた花の記憶
何と!不眠で完結させるという阿呆なことをしでかしましたが、満足です。後日談どうぞ~
それから数日後。
町は、夏の喧騒を少しずつ手放し始めていた。
夜が静かになり、虫の音が響くようになった。
風も少しずつ、秋の匂いを混ぜるようになった。
俺の部屋の窓辺には、澪の風鈴がある。
チリン、と風が吹けば、あの透明な音が鳴る。
それだけで、胸が温かくなる。
——ありがとう。
きっと、澪はもう“向こう”へ戻ったのだろう。
けれど、完全に「いなくなる」ことはない。
風が吹くたび、あの花が咲くたび、俺はきっと思い出す。
この前、紅岬社にもう一度足を運んだ。
「来てくれてありがとうね」と、楓が笑った。
社務所の縁側で飲んだ冷たい麦茶の味は、不思議と懐かしかった。
「また、“風の間”へ行ってもいいですか」そう尋ねると、楓はそっと頷いた。
「ええ。でも……次に入るときは、“あなたの風”を、ちゃんと持ってきてね」
——自分の風、か。
澪の風に触れたように、
いつか、誰かの記憶になったとき、自分も何かを“風に乗せて”届けられるように。
そんなことを思った。
「話せるように、なったんだね。」
「はい」
「……………お母さんとも、ちゃんと話しなよ」
風鈴が、また鳴る。
俺はそれに応えるように、窓を開けた。
空は、今日もきれいだった。
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