銀の2 トルコライス一丁
拳一郎の話し。
それは、今日のような夜だった。拳一郎はいつものごとく地球防衛隊の休暇を利用して、総重量五〇キロにおよぶリュックを背中に抱えながら、登山仲間から聞いていた評判の良い登山スポットの頂上を目指していた。そして、目標が見えて視界が開けてきたその時。男は思わず「おおっ!?」と、感嘆を漏らした。拳一郎の目線の先には、表札に『いらしゃいまし』と流書体で記された物が目に入ってきた次に、その山の天辺にはなんと、視界に白い建物が飛び込んできたのだ。白く塗られた煉瓦の壁に、白い木造の梁や、これまた白く塗られた屋根瓦。そして、その正面の看板に『山頂レストラン』と堂々と掲げてあった。
拳一郎は建物を観察しながら、登山仲間たちから聞いていた話しとはちょっと違うぞと思いつつも、物珍しいので取り敢えず木の扉へと足を運んでみた。
「たのもーーーっ!!」
拳一郎、勢いよく扉を叩き開けてご来店。
「へいっ、らっしゃいっ!!」
すると、店内にいた若いウェイターやウェイトレスたちが、威勢よく出迎えてくれたではないか。案内されて着いた席には、白いテーブルクロスに磁器の食器が各種配膳されており、その皿の上に薔薇になるように形成されたクロスが乗せられていた。
拳一郎が指を高く鳴らして「ボーイッすぁん!」と呼んだら、「なんでやしょ?」と現れてきた男は、制服がパッツンパッツンにはちきれんばかりに“たわわ”に実った筋肉を持ち、岩の如き輪郭に彫り深き三角白眼に三角形の眉毛を乗せて、その中央にはどっしりと鼻が腰を据えていた。何といってもこの男店員の特徴的なのは髪型であり、アフロの周りを刈り上げていたせいで、まるでブロッコリーに見えたのだ。
「長崎名物トルコライスを頼む」
「トルコライス、一丁ォーーーっ!!」
拳一郎の注文を甲高い声で復唱しながら、厨房へと投げかけた。
「ヘイッ! お待ちっ」
それは、電光石火の如く。
十分と足らずに、拳一郎の席にトルコライスが届けられた。
―む! 本当に来た……。――
瞳を横へと流して、ピキイィンと察したのだ。
戻って、現在。
「これで一応、俺は確信したんだ。―――このレストランは商売繁盛する! ……と」
こう彼女に振り向いて自信たっぷりに断言した拳一郎の横で、その春香は体育座りのまま後ろに転倒した。