銀の0 アブダクション
この書き物を、宇宙人の地球侵略する物語が好きな方々に捧ぐ。そして、ごめんなさい。
日下部春香が云うには、間の記憶が二年ほどスッポリと抜け落ちているという。
以下、春香本人の朧気な記憶を記してゆくので、この章は推測文にあふれてしまうことを御容赦ください。
二年前のある晩。
会社帰りに車を走らせていたら、突然と頭上が眩しくなったそうだ。そして、真っ白な光りの柱とともに、春香は車ごと巨大な円盤の影へと吸い込まれていったらしい。
やがて白い輝きがおさまったと思って瞼を開けてみたら、吃驚仰天。青白く清潔感があふれる天井に、なにやら色とりどりに点滅を繰り返すキーボードや、冷たい金属色をしたレバー各種が視界に飛び込んできた。身動きが取れないということは、ベッドに縛り付けられているようだ。すると、なにやら靴音らしきものとともに新たな影が春香の前に現れてきて、極薄な唇の端を釣り上げて語りかけてきたという。大変、流暢な日本語で。
その影は、銀色だった。
そうして再び瞼を開けた時には、今度は生成色を縦横にクロスしている建物で身を起こしたそうだ。この時、春香は下腹部と“こめかみ”とに身に覚えのない痛みを感じたという。この痛みに関しては、後に判明した。
で、現在はこうして、『地球防衛隊』で日々頑張っている一等陸佐の彼氏こと戰拳一郎と数年に渡る交際を続けており、もうすぐでというか、もうそろそろいい加減にというか、結婚しても良いのではないかといった辺りまできていた。らしい。