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2:ロボットのデモ

 なんとそこには(ヒト)型ロボットが大工の恰好でデモンストレーションをするコーナーがあった。

「サブロウ、このロボット、クギ袋下げてトンカチ持ってるけど、ほんとにクギ打てるの?」 陽子は不思議そうな顔をしている。

「ああ、このデモ、前にも見たけど、ロボットがクギ打って箱作っちゃうんだ」 

「始まるよ」

 ロボットは左手と足を使って板を支え、器用に右手でクギを出し、トンカチで打ち始めた。「トントン、バタッ、トントン」みるみる間に立方体の箱を作ってしまった。

「ゲーッ、なにこれ、これって難しいんだよ……」

「片手でクギを立てて打ち始めるのはシロウトにはできないよ!」

 陽子は唖然とした。

「これ、まだ序の口……これの二倍速を見ると感動するよ」   

「トン、バタッ、トン、トン」

 ロボットは早送りの映画を見るようなすごい速さで箱を作ってしまった。 

「どう? ヨーコ、……すごいでしょう……」

 サブロウが(ニヤケ)ている。

「なによ、……自分がやったみたいに言わないでよ!」

「あんたがこれをやれたら、あたし、坊主になってやる!」

 陽子が興奮している。それだけショックが大きかったのだ。

「こんなの出てきたらウチは廃業ね……」

 こんどは沈んだ。いつも陽子にドヤされているサブロウは、面白くてしかたがない。

「かわいそうに……ハグしてやろうか」と言いながらサブロウが調子に乗って陽子の肩に手を乗せた。

「イテテッ」

 陽子がサブロウの手をひねって投げ飛ばした。陽子は合気道初段の腕前だ。

「ウワッ」

 サブロウは見事に床に転がされてしまった。

 何事か? 近くの皆の視線が一斉に集まった。ちょっとやり過ぎたか――陽子が場を取り繕った。

「ゴメン、足が長くてひっかかっちゃった」

 陽子がサブロウを引き起こして、服をパタパタと叩いてやった。周囲は――なんだ、何もなしか、と自然に戻った。

「もー、場所を考えろよ、この超オテンバ娘!」

「確信した! おまえは絶対ヨメに行けない! 両親はすごくいい人なのに、なんでこんなバケ物が生まれたんだろ……突然変異だな!」

 二人のドタバタ騒ぎに、山内があきれて近寄ってきた。

「ちょっと、……周りがまた注目してますよ、向こうへ行きましょう」

「すごいですね、殴り合いとかするんですか?」

 山内はマジに心配している。

「オレ、子供のころは毎日陽子に殴られて泣いてた。こいつは女じゃない……」

「サブロウ、停戦!」

 陽子はさすがに気恥ずかしくなったか停戦を申し出た。

「了解、――頼むからここでは女のふりをしてくれよな」

 また言ってしまった。ひとこと多かったかな? サブロウは横目で陽子を見たが、意外にも反発は収まったようだ。

 サブロウは陽子を連れて会場を見て回った。NC(コンピュータ制御)工作機械など、普通の女性なら興味がないが、やはり陽子は違う。機械が自動で物を作るのを興味津々に見ている。そういえば子供の頃から陽子が人形など持っているのを見たことがない。

 二人で高速旋盤のデモを見ていると、「あっ、東海産業の社長だ」サブロウが顧客に気付いた。「超、お得意さんだから挨拶しないと。陽子、あとは自分で勝手に見て、」サブロウは陽子を放り出して社長の相手を始めた。

「バイ、サブロウ、今日はありがと」陽子はその日いっぱいまで会場を回った。

 

 数日前からカラス騒音対策防音工事が続いている。今日が完成予定日だ。サブロウは先日の展示ショウへの出勤で代休を取っている。午前中で防音工事は終わってしまった。

「サブロウ、この間のロボット大工のデモ、やってみようか」

 陽子はサブロウの前で箱作りの芸を見せるつもりだ。

「拝見しましょう」

 サブロウは陽子の大工仕事をしっかりと見たことがない。

「いい、見てて」陽子はロボットのデモそっくりの作業を見せた。

「この、クギを片手でさっと立てるところが腕。手のひらに金物を挟んでおいてそれでクギをちょっと押すの。そうするとクギが立つでしょ」

「トントン、バタッ、トントン」

 陽子は解説しながら、さっと箱を作ってしまった。

「すごーい、立派、立派、天才」サブロウは正直すごいと思った。

「人間がやるとやっぱ実感が違うね、いやーすごい技だ」

「あなた、これに乗ってみて」

 陽子に促されてサブロウは恐る恐る箱に乗ってみた。

「ウワッ、頑丈」サブロウが乗っても箱はビクともしない。

「クギで打っただけでこんなに丈夫になるもの?」

 サブロウは感心している。

「課題をあげる、この箱をバラして」

 陽子が妙な提案をした。

「バールと玄能(金づち)を貸すからやって」

「組むのは無理に決まってるけど、バラすのぐらいできるでしょ」

「まあ、できるかもね……」

 サブロウは金づちとバールを持ったが、いざバラそうとすると、どこから手をつけてよいのか、皆目見当がつかない。

「バールで剥がすんだと思うけど、箱がぴったり出来過ぎてて、バールの先端を差すところがないよ、どうやるの?」

「プッ、陽子が吹き出した」

「板の境目にバールの先を打ち込むに決まってるでしょう」

「おう、実はオレもそう思ってた」

 そう言いながらサブロウがバールを当てて金づちで打った。

「バンッ、ズルッ」

 箱が動いてしまってバールが刺さらない。

「足で抑えるのよ、足で」見かねて陽子が叫んだ。

「体の連携が悪いんだよね、オレって」

「それを不器用って世間ではいうのよ」

「あなたを見ててバラすのも全然無理ってわかったわ、もういい、私がバラす」

「バン、バン」陽子は簡単に箱の二面の板を外した。

「板を二枚剥がすと箱はぐにゃぐにゃになるでしょ、ほらっ」

 あれだけ頑丈だった箱が確かにちょっと押すだけで変形してしまう。

「家でもなんでも箱状にしなければ丈夫にならないのよ。だから構造が大事」

「わかったけどオレに課題をくれたのは何のため?」

 サブロウは、また陽子が自分をバカにする目的に違いないと少々腹が立ってきた。

「この間の機械のショウで、確か大日産業って聞いたけど、私、あなたの後ろで説明を聞いていたの、そうしたら機械の形が箱状なのが多い理由を、あなた、機械にも流行り(はやり)があって、これが流行の形ですって言ってたでしょう、全然違うわ」

「どうして違うの? オレ、二十年前の機械のカタログ見たら、こう、なんていうか、メカニズム丸出しみたいなのが多くて、その方が機械らしくて恰好いいじゃんって思ったのさ」

 なんて浅い知識しか持っていないんだろう。陽子はあきれた。

「さっきの木の箱を思い出してよ。鉄でも骨組みだけだと強い力がかかると、ゆがむのよ」「もし骨組みだけだったら、トラスといって三角形にしなければダメ、カジノタワー見たでしょ、あれって三角形だらけじゃなかった?」

「と、いうわけで構造の基本を覚えてね」

「わかった……機械売ってるだけじゃダメってことね。確かに理屈の分かる人がオレの説明聞いたらバカにするかもね、サンキュウ、ヨーコ」

「きょうはイヤに殊勝ね。じゃ、授業料はサービスする。これは防音工事の請求書、よ・ろ・し・く」

 陽子はしっかりと請求書を置いて行った。陽子に乗せられて金づちを持たされて、値引き交渉をするのをすっかり忘れていた。ちくしょう、またやられた。 

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