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18/27

18:ハリーの暴力事件

 翌日の昼のワイドショーにカジノタワーの支配人、白さんが出ていた。ハリーへのバッシングの先鋒だ。司会者が白さんへの挨拶を済ませた。

『きょうはいわゆるカジノタワーの総支配人である、白さんに来ていただきました。白さん、お忙しいところ申し訳ございません。このところタワーに対する噂といいますか、白さんから見ると(営業妨害)となるんでしょうね。それで白さんが、大変お怒りになっているという話題に入りたいと思います。』

 白さんが待ちきれず話し始めた。

『みなさんね、言っていいことと悪いことがあります。いいですか、「あなたの家倒れそうで危ない」って急に言われたらどうですか? 気分悪いでしょう。 私のタワー、気分悪いだけじゃなくて、「えっ、危ない? タワーに行くのやめよう」そうなりますよ。事実、お客さん相当減ってる。だから明確に営業妨害ね。もしそんなこと言うんだったら証拠を出しなさい。なにか言うならそれからでしょう。……私の言うこと間違ってますか? 言った人はみんな知ってるハリー勉ですよ。だからみんな信じちゃうでしょ。この人、何したいんですかね? 私、考えました。私が中国人だからでしょう。中国人が仕事うまくゆくと悔しいのかね。ハリーさんって人間小さいね。みなさんそう思いませんか?』

『白さん、訴訟も考えておられると聞きましたけど』

『当然ですよ。もう弁護士に頼んであります。ハリーさん逃げてるみたいだけどダメね』

『損害賠償は当然ね。でもそれだけじゃ済まないね。ハリーさんここにきて謝罪してほしい』

 白さんが顔を真っ赤にして吠えている。ワイドショーはすでにコンサートの準備をしているハリーを探し出していた。

『はいっ、私たちハリーさんを見つけました。彼はいま福岡です。福岡に変わります。福岡つながってますか?』

「はいっ福岡です。いまハリーさんは会場に向かっているところです」

 ハリーが車から降りてきた。ワイドショーのスタッフに他社も加わってハリーを取り囲んだ。

「なんだよ!」

 ハリーは大声をあげると、その輪を潜り抜け、走り出した。スタッフも追う。

 会場の入り口にさしかかった時、陰から突然カメラが出てきた。ハリーを待ち伏せしていたのだ。ハリーは止まり切れずカメラに激突した。

「いてえっ、このやろう」

 ハリーは思わずカメラマンを殴り倒してしまった。「グシャッ」鈍い音を立ててカメラが落ち、カメラマンもその場に転倒した。

 カメラマンはすぐ立ち上がったが、ひたいからかなりの出血がある。

『ワアッ』

 ワイドショーは騒然となった。

『これはいけませんね、ハリーがカメラマンを殴りました。出血してます。大丈夫でしょうか、福岡、福岡……だれか出ませんか?』

『これは明確に暴力事件です、ハリーがカメラマンに暴力を振るいました』

 事件の一部始終を他のカメラが捕えていた。

『福岡、福岡……だれかハリーに聞いてください。いまの暴力について』

 追いついたスタッフがハリーを取り囲んだ。

「ハア、ハア、……ハリー、いま、カメラマンを殴りましたね」

「あいつがカメラを急に出すからぶつかったんじゃねえか、オレだって頭から血がでてるよ、ホラッ」

 ハリーが髪の毛をずらすと頭に血がにじんでいた。

「それでも殴るのは暴力でしょう。最初のはアクシデントですよ」

「わざとカメラを出したのはアクシデントって言わねえんだよ」

「カメラで殴られたから殴り返しただけよ」

「これは暴力です、警察を呼びます!」と、スタッフが叫んだ。

「上等だ! 」

 ハリーがスタッフを押し倒して乱闘となった。

カメラはしばらく乱闘を映していたが、なにか指示があったのか、乱闘を映さなくなった。

 スタジオでは中継が打ち切られ、司会者がコメンテーターとの討論に戻った。

『たいへんなことになりましたね。警察を呼んだみたいですけど』

 白さんが薄笑いを浮かべながら切り出した。

『みなさん、見てたからわかるでしょ、ハリーってこういう人ね。スグ切れる、暴れる。常識なんてない人』

 他のコメンテーターもハリーの批判に終始した。

『これは刑事事件になりますね。中継で映った通りですよ。確かに殴ってる』

『最初がアクシデントだとしても乱闘はダメです』

『ハリーがあんなに暴力的な人だなんて、私ショック』

『すみません、放送の予定が狂ってしまいました、ハイッ、天気予報に移ります』

 ワイドショーは終了した。

 放送を見ていた陽子は、すぐ家を飛び出し、隣のサブロウの家に向かった。

「サブロウ! 見てた?……」

 玄関から大声で叫んだが返事がない。「入るよ! 」陽子は玄関を入り、サブロウの部屋の前立った。

「いるんでしょ、テレビ見た?」

「見た、ああ、……ハリーが、ああ、……」三郎は泣いている。

「ヨーコ、悪いけど一人にしてくれ……」サブロウがやっと言葉を返した。

 さすがにこれ以上は、かわいそうで聞けない。陽子は自宅に戻った。

 翌日もサブロウは家にこもっていたが、陽子が気づかないうちに出かけたようだ。車がない。

 昼過ぎになった。陽子が片付け事をしていると、若い女性が二人、こちらに寄ってきた。

「すみません、お隣は田中さんのお宅でしょうか?」

「ええ、そうですよ」

「よかった、住所は合っていると思ったんですが表札が見つからなくて、あの、今日、田中さんって御在宅でしょうか?」

「ああ、朝はいたみたいなんですが、出かけてますね。車がないんで」

「そうですか……」

 この二人? ……陽子は思い出した。

「あの、もしかして山神先生のご葬儀でお会いしてません?」

「サブロウ、いや、田中さんと長くお話してたでしょう。私そばにいましたので覚えてます」

「そうだったんですか。私たち葬儀の後、正式にお礼に行こうと話し合っていたんですが、なかなか行けなくて。そしたら、田中さんがワイドショーに出てるのを見たんです。それで、すぐに行こうと決めたんです。あの、田中さんはいつごろ帰られますか?」

「申し訳ないけどちょっと分かりません。なにも聞いてないので」

「あの、すみません、聞いていいでしょうか? (正式なお礼)って何ですか?」

「ああ、ご存じないと思いますが、私たち中国で誘拐されていたのを田中さんに助けていただいたんです」

「誘拐?」

「そうです、最初叔父の取引先の紹介で、ホームステイしながら観光をするという話で中国に二人で行ったんです。最初は普通だったんですが、急に場所を変えられて、そのあとは監視付き、……軟禁っていうんですか、携帯を取り上げられて、自由に外出できなくなりました。叔父へのメールは出せるんですが、文章は全部指示された通りに書かされました。……なにがなんだか分からなくて、ずっと不安だったのですが。指示があって、写真を撮る目的でいつもの公園にいったら、田中さんがいて、助けてくれたんです。それでやっと日本に帰ったら叔父と福田さんが事故で亡くなって……」

 女性は話ながら涙ぐんだ。

「そうだったんですか、大変なことだったんですね……」

 陽子はサブロウが中国に行ってからおかしくなったと認識していたが、そんなことがあったとは。……もう少し聞きたい。陽子はさらに質問した。

「救出されたあとで、なぜ誘拐されたか田中さんに聞きましたか?」

「はい、叔父がカジノタワーの危険性を公表するのを止めるために、人質として私たちを誘拐したと聞きました」

 それだ! 陽子は一番のナゾ、「なぜ先生が、自ら危険性を公表しないのか」それが解けた。同時に先生たちの事故が暗殺であることが証明された。陽子の正義感に火がついた。

 サブロウ、どうして私に言ってくれかったの? ――それだけが疑問として残る。

「あの、田中さんが今日は戻られないようでしたら出直して来たいと思いますが、いつでしたらいらっしゃるか分かりますか? 今日来るのも何度か電話したけど出られなかったので直接来ちゃったんです」

「そうですか、じゃあ私が聞いておきますから、連絡先を教えてください」

 陽子は電話番号のやりとりをして二人と別れた。

 夜になった。気が付くとサブロウの車がある。誘拐の事、サブロウに聞きたいけど、もう少し落ち着いてからだな……陽子は声をかけなかった。

 夜のニュースでは、さっそくハリーの暴力事件が取り上げられていた。

『本日、歌手でタレントのハリー勉さんが、暴力騒動を起こし、その実況がテレビで放映されました。福岡県警は任意でハリーさんから事情を聞いている模様です』

 ニュース枠では短い報道だったが、やはり刑事事件化されそうな雰囲気になってきた。陽子はますますサブロウが心配だ、あれ以来ひとことも話をしていない。

 ナイトニュースの時間だ。この番組はその日の注目ニュースにスポットをあてて特集をする人気番組だ。今日の特集はズバリ、ハリーの話題だった。

『今日のゲストは通称カジノタワーの総支配人の白さんです。どうもお忙しいところありがとうございます』

『いえ、どういたしまして』

『今日のお昼でしたが、白さんのカジノタワーに注文をつけたというか、白さんからしたら「いいがかり」をつけられた相手のハリーさんが暴力事件を起こしまして、いや、まだ正式に事件にはなっていないようなんですが、白さん、どう見られます?』

『私ね、普段は個人を責めたりすることはないんですが、今度のことだけは許せません。

昼時の番組で、私は言いたいことがあるなら、正々堂々と番組に出てきて話しましょうと言ってるんです。なにか言いたいなら、ちゃんと証拠をもって、そこで示してくださいよと。それができないということは、全部がウソ、なにか悪い目的でそうしてるとしか思えないでしょ。どうですか?』

『それは正論だと思います。やはり正々堂々と論議するのが筋だと私も思います』

『それで白さん、私たちもハリーさんを呼んで、論議しようと彼に声を掛けたんですが返事をもらえないんですよ』

『そうでしょう、そんな勇気はないし、今日の中継では映っちゃいましたが、見えないところでは、ああいうふうに人を脅したりしているんでしょう。今日それが証明されちゃいましたね。臆病者のすることですよ』

『今日は白さんだけの出席で、欠席裁判みたいなことはしたくないんですが、なにぶんハリーさんが出席されないのでそうなってしまいました。引き続きハリーさんには出席いただけるように声をかけますので、成り行きを見守りください』

『番組ではいろいろ方の意見をお聞きしました。今日までのハリーさんの言動についてどう思いますか』

 画面は一般の人の反応に変わった

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