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15/27

15:先生の伝言

ちょっと推理小説みたいになってきたでしょう。実はこの小説は、かつて、ある文学賞に投稿したものです。その文学賞がミステリー要素を要求していたので、無理矢理作ったのです。

分かりにくかったらごめんなさい。

「コトン……」実行計画の難解さに弱気になっているサブロウであったが、書類の束を動かしたとき、テーブルの端に置いてあった携帯を床に落としてしまった。

「おっと、壊れないでくれよ……」携帯を拾い上げて、サブロウは目が血走った。

「先生からのメール! ……」思い出した。人質を助け出した日、香港の空港に届いた先生からのメールには確か数字の羅列があった――まさかあれが……。

 残っていてくれ……サブロウは大急ぎでメールの履歴を追った。

「あった……」サブロウは思わず声をあげた。

「数字は1111、これが日付と考えると十一月十一日。先生は最後の力を振り絞って十一月十一日が実行日と知らせたのではないか。暗唱番号は何のためのものか見当がつかないが、あのタイミングで、なんらかのメッセージを伝えると考えると、実行日を知らせる事以外は考えにくい」

 大きな手掛かりだ。喜んだサブロウであったが、――日付が送られてきたということは計画はもう実行されていると考えるべきだ。――だが、一体だれが動いているんだ。――このことを知っている者は他にいるはずがない。――これは自分に実行してほしいという依頼なのか?

 サブロウは頭が混乱した。

 次を読んでみよう。まずは最後まで読んでみることだ。次は(人的被害の防止)となっている。文字通り、決して人的被害は出してはならない。……しかし、そんなことが可能だろうか? タワーとその周辺には常時人がいる、というより人の集まる人気の場所であるのだから……

五、人的被害の防止ーーーーーーー

『人的被害を皆無にするため、R3によるSKSを確実に行い、R4を待つ。

私は、R3によるEAの結果を確認して、R1およびR2にMD指令を出す。塔の倒壊にLBが耐えるか検証はできていないが、実行するのみである』

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 これはどうやら先生が自らタワーにいる前提で書かれているようだ。えっ、すると先生はタワーとともに倒れるつもりだったということか……先生亡き今……自分が代わって……自分が……

 急に全身の力が抜けてきた。椅子に深々とすわり、窓から空を見た。曇った空は暗くなりはじめたところだ。

「カアー、カァー、カァー……」カラスが見えた。

 カラスは頬をふくらまし、くちばしを大きく開けて、空に向かって呪いのメッセージを発している……クソッ、オレに死ねと言っている……

 サブロウは、疲れがどっと出てきた……いつの間にか意識が薄くなり、眠くなってきた。

「すいません、お疲れ様です……」山崎の声にハッと目が覚めた。

「まだここにいらっしゃいますか? 私、定時で帰りますので、消灯と戸締りをお願いしていいですか?」

「あっ、ああ……まだずっといます」

「消灯は出口の脇のスイッチを全部オフにしてください。ドアのロックは、そのまま出れば自動ロックになります。田中さんはカードをお持ちですから大丈夫ですよね、よろしくお願いします。じゃあこれで失礼します」

「お疲れ様です」サブロウは山崎さんを見送った。すでに皆帰って、山崎さんが最後だったようだ。

(不良個所の確認と広報)目を覚ましたサブロウは最後の書類に目をやった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

『本計画は重大事故による人的被害を防止するため、事故に及ぶ前にその危険性を示すための行動であるから、実行後露見した問題個所を明らかにする必要がある。指摘すべき個所は図2-A、2-Bに示す。それらを確認後速やかに広報することを望む』

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 福田さんに事後の検証を依頼する内容だ……先生は命がけでタワーを倒壊させ、福田さんはタワーが危険であった事を立証する。そういういう事だったのか。

 読み終わってサブロウは深いため息をついた。……ハードルが高すぎるよ。オレみたいな表面的な知識と違って、全てがガチに本物だもんな、アレを倒す……ここまで事情を知ったオレでも、あの頑丈そうなタワーを思い浮かべると……やっぱり絶対倒れないって思えちゃう。現に風速三十九メートルでも、全く揺れなかったのは事実だし。「原爆が落ちても倒れません」って説得力あるよな。

 体力と精神力が尽きてきたサブロウの心は折れかけている。……眠い……ソファの上でサブロウは深い眠りについた。


「カアー、カァー、カァー……」

 カラスの鳴き声にサブロウは目を覚ました。……「カラスの目覚ましか……もう九時だ」

 天気は快晴だった。すごい空腹に気付いたサブロウはコンビニまで出て弁当を買い込んだ。「うまいっ」、弁当を平らげたサブロウは思わず声をあげ、ボトルのお茶を一気に飲み干した。

「睡眠って重要だな……」あれほど落ち込んでいたサブロウは生気が戻って、モチベーションも明らかに高い。急いで工場に戻って書類を一から見直しはじめた。

 全体をざっと見直して、分かる所と分からない所を分けて、まず分かる所を繋いでみようと思いついた。

 その結果として、サブロウはこの計画のプロット(行程表)を作ってみた。

 実行日は十一月十一日、MD(意味不明)によって脚部を破壊する。そのための器具は当日まで隠ぺいしておく。実行前にRD4X(意味不明)をRD4にしておかなければならない。RB(意味不明)の配置は、R1とR2(意味不明)が下、R3とR4(意味不明)が上。R3はSKS(意味不明)をした後、EA(意味不明)を出し、R4はSKSの後LB(意味不明)を最上階に搬送する。MDの器具は消火器に似ていて、事前にCC(意味不明)に運んでおく。

 ……この中で分かることは、MDが消火器に似ているという事。それを事前にCCに運んでおくという事。その日は十一月十一日以前でなければならないという事。

 RBとはR1からR4のことを指しているいるという事。

 突破口は十一月十一日とCCだな。CCは場所に違いないから、十一月十一日に何かが起きる場所を探せばいいんだ。

 サブロウは部屋にあったパソコンで(CC)を検索してみた。……ダメだ電子メールのCCカーボンコピーの説明とゴルフの(カントリークラブ)ばかり出てくる。仕方がない、十一月十一日はどうだろう? 「うわっ、十一月十一日はいろいろな記念日が全国で三十一件もある」これでは絞り込めない。サブロウは途方に暮れた。……しかし、なんとしても突破口が欲しい……何かで絞り込むことが……そうか、単純なことだ、ひらめいた。CCに保管しておいて、当日タワーに運び込む訳だから、その場所は遠いはずがない。きっと場所は横浜近郊だ。

 さっそく、(横浜 CC)で検索をかけた。……ダメか、横浜カントリークラブが出てしまった。しかしサブロウは諦めず、検索の下位を探した。すると英文で(Yokohama Convention Center) の十一月十一日、後期産業機械見本市がヒットしていた。――これだ!コンベンションセンターはタワーのすぐ近くじゃないか! サブロウは、なんとなく流れが見えてきた。

 あらためて見直してみると、数ある略語は、実はごく簡単な意味なのではないかと思えてきた。――先生はこの計画書をわざわざ暗号で書く必要はない。単に福田さんとのやり取りで使っている、いつもの略語を使っているに過ぎないのではないか。――そう気づいて略語を見ると、RBはロボットの略、R1から4は単にロボットの連続番号じゃないか!

 残るはMD、RD4、RD4X、SKS、EA、LBなのだが、……これはちょっとわからない、どう推理したらいいのだろう。

 サブロウは、いままでに何冊か有名な推理小説を読んだことがあるが、推理小説はきらいだ。小説の序盤は面白そうなのだが、だんだんと深くなってくると面白さは消え、決まって複雑な事態の絡み合いになる。サブロウはいつもそのあたりでめげるのだ。なにしろ、いままでトリックが解けたことがない。結局面倒になって、途中を飛ばして結末を読んでしまうのだ。――こんな難しい本を好んで読む人の気が知れない。それで推理小説は買わないことにしたのだ。

 しかし、いまサブロウは結末のない推理小説を読んでいるようなものだ。

 じっと文字を見つめていたサブロウはRD4とRD4Xの違いは何かと考えた。Xという文字のあるなしの違いについて何か説明を受けた記憶がある。それもごく最近だ。その時は自分に関係ない――特に重要ではないな、という認識だった。先生の説明文では、RD4Xを進めてRD4にすると書いてある。RD4Xが進化したものがRD4という訳か。

 これは、……そうだ思い出した、これはロボットのプログラムじゃないか。RD4Xが実験段階。完成したプログラムはXを消してRD4。つまり本番にはRD4の組み込まれたロボットが使われるということになる。それについては月曜日に山崎さんに聞けば、はっきりするはずだ……残りの略語の中で、他に推理できるものはないか? サブロウはさらに頭をひねった。

 MDは脚を壊すための何かであることは明らかだ。ロボットがMDを使って脚を破壊するわけだが、持ち運べるもので破壊に使えるものとは? そして略語がMD? 例によってネットでMDを検索してみた。検索の最上位に(ミニディスク)が検索された。……ディスク……ミニディスクとは記録メディアのことであったが、板状の丸いもののイメージが浮かぶ。電動丸ノコ……ノコギリで切る……いや、直径二メートル以上の鉄の塊を切れるノコギリなんてあるはずがない。仮に巨大なノコギリがあったとして、ロボットが運べる限界は百キロぐらいと聞いている。……この線は消えたな。

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