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13/27

13:ハリーへの逆風

 やはりネット上は騒然となっていた。ハリーが投げかけたタワーの危険性の指摘に反論がぶつかりはじめたのだ。

『実際に前の台風で全く何の被害も出なかったんだよ。それなのに危険だというのは、なにか狙いがあるんじゃない? カジノタワーが危険じゃないと困る人がいる訳?』

『人気を奪われた東京スーパーツリーのやっかみじゃないの?』

『オレは相撲取りの足みたいでカジノタワーの方が好き』

『とにかく言い出したハリーが落とし前つけるべきだよ』

 さらに今週発売された週刊誌が火をつけた。

『ハリー勉に虚言癖、カジノタワーが危険とは?』

『いま東京東京スーパーツリーを追い越し、人気沸騰中のカジノタワーに思わぬ難癖がつけられた。ハリー勉がブログでタワーの危険性を指摘しはじめたのだ。読者がご存じのように、タワーはすでに比較的大きな台風に見舞われている。しかしタワーがビクともしなかったことをデータが示し、話題になった。なぜ急に、(難癖)としか言いようのない指摘をするのか……実はハリー勉の(難癖病)は今に始まったことではない。二年前にも……』

 週刊誌だけではない。ワイドショーでもこの件を取り上げ始めた。

『おはようございます早朝ワイドです……今日もいい天気ですね。みなさん後ろに映ってるの分かりますよね、通称カジノタワーです。これってなんか変ですか? 私はカッコイイと思っているんですが、なんとこれが倒れるって言ってる人がいるんです。言ってるのは、ハイ、画面変わります……この人、そおっ、ハリーです』

『ハリー、おはようございます。早朝ワイドです。ちょっといいですか、カジノタワーなんですけど』

 ハリーはインタビューを無視した。

 肩透かしをくらったワイドショーは辛辣なコメントを並べた。

『ハリーさんはコメントを拒否しましたね。なぜコメントを出せないんでしょうか? ちょっと彼のブログを見てみましょう……最初ので、バランスが悪いと書いてますね、次ので……これが問題を大きくしたんですが、揺れないと折れちゃうって書いてるんですね、今日は建物の構造設計に詳しい上羽さんに来てもらっていますのでお聞きします。上羽さん、これって危険ですか? 折れやすいっていうのはどうでしょう?』

『あのっ、私、呼ばれたんで来ましたがムダでした。これ……折れますって言って、そうですねって言う人っていますかね……バカバカしいでしょう。理屈言う必要ないです。折れませんって』

『そうだと思いますが、そう言ってしまうと、このコーナー終わりなんで、仮に、仮にですよ、形あるものは必ず壊れるとして風速二百メートルの風が吹いたらどうですか?』

『揺れないから折れるって言うんでしょ。計算しないと分からないけど確かに二百メートルだったら折れるかもしれないです。原爆が落ちても折れませんっていうのが一つのキャッチフレーズになってるように、ありえない事を前提に真面目に議論しちゃあダメですよ。じゃあ私が断言しますよ。風速百メートルだったら絶対折れません。風速百メートルって過去にないでしょ。ハイ、これで終わり……くだらない』

 ハリーがインタビューを無視し続けていることが火に油を注いだ。別のワイドショーでも取り上げ始めたのだ。

『カジノタワーの件で、私、当事者であるタワーで取材しました、昨日の取材です』

『すみません、いまこのタワーの事が話題になっているんですが……』

 インタビューアが遠慮がちにタワーの責任者に声をかけた。

 責任者はかっぷくのいい中国人だった。

『私がいま責任者です、白です。その件聞いてます。私ね、これ、何か問題作ってると感じる。タワーのイメージ落そうとだれか考えてるね。私、許さないよ。これ、営業妨害ね。弁護士頼んだ。許さないから……』

『どうも訴訟問題に発展してきました、こうなるとハリーの対応が重要になってきますね』

 ワイドショーが一斉に取り上げる事態となった。ハリーはもうインタビューを無視することは難しくなっていた。

「ピンピン」サブロウの携帯が鳴った。ハリーだった。

「サブロウ、知ってると思うけど収拾つかなくなった」

「ハリー、悪い……オレの責任だ」

「しょうがないよ。オレは承知で受けたんだ。ところで危険の証拠ってないのか?」

「あるけど検証が出来ないんだ。だから証明にはならない……申し訳ない」

「それでもいいよ渡してよ……」

「わかったすぐ持ってく」サブロウは(所見)と(検証)のページをコピーしてハリーに渡した。

 ハリーはとうとう(早朝ワイド)に引っ張り出された。司会者がハリーに問いかけた。

『ハリー、結構大きな問題になってしまったんだけど、私はあなたがインタビューを拒否し続けたのがいけなかったと思うんだけど、どうですか?』

『オレのブログでさ、確かに言われてるような事は書いたけどさ、よく見直してよ。オレ断定はしてないぞ。ネットで過激な言い方をするヤツっていっぱいいるじゃん』

『たしかにブログの内容では、断定はしていませんね。だけどあなたぐらいの人気者だったら、それが拡大したらどうなるって事まで配慮する必要ってあるんじゃない? 当のカジノタワーが営業妨害だって言い始めたくらいだから』

『それよりね、私が聞きたいのは最初のブログに出てくる(技術屋)ってだれですか? その人の情報が基になっている訳でしょ』

『言えないね、友人だから……だけど今日は(所見)ってのを持ってきた。これは見せられる』

 ハリーは(所見)のコピーを見せた。皆は一斉に所見に注目した。まもなくそれは画面に大写しになり、コメンテーターの論議が始まった。

『これは確かに専門的な記述がある。誰が書いたのかね』

『いや、だれかに頼んでそれっぽい内容をでっち上げたとみるべきでしょう、だって署名がない。だから内容について責任の所在がないでしょ。これはインチキ』

『なんだかんだ書いといて、検証が全部不可って何なの?』

 論議の大勢は、(でっち上げ)に傾いた。

 腕を組んで黙って論議を聞いていたハリーが我慢できず突然中央に出てきた。

「やってらんねーっ」大声で叫ぶと書類を取り上げ、丸めて床に投げ捨てた。

 スタジオは騒然となった。ハリーはそのあと無言でスタジオを出て行ってしまった。

番組がメチャメチャになっている。ADがチラチラ画面に映ってしまい混乱が丸出しだ。

『ちょっと視聴者の皆さま申し訳ありません。ハリーが興奮して出て行ってしまいました』


 収拾に困っていた司会者に、タイミング良く緊急気象情報が入った。

 女子アナウンサーが台風情報を読み上げた。

『緊急気象情報です。沖縄に近づいていた熱帯性低気圧が台風に変わりました、これなんですが、勢力の上がり方が異常なほど急激で過大です。すでに沖縄で風速六十メートルを記録しました。スピードも極端に速く、このままですとあさってには関東地方に到達します。海、山とも厳重な警戒が必要です』

『六月の台風も珍しいですが、これ、超大型になりますか?』

『そうですね、このまま更に成長すると史上最大になりますね』

 いっぺんに話題が台風に変わってしまった。ところがコメンテーターの一言で話題はカジノタワーに戻った。

『風速六十メートルが来たら、タワーは耐えますかね?』

 以前風速百メートルでの安全を保証した専門家に皆の目が集中した。

『いま六十メートルだから成長したら七、八十メートルになるんとちゃう?』

 別のコメンテーターが茶化した。専門家が急に真面目な顔になった。

『去年の台風は風速三十メートルそこそこやったやんか、これ、少なくとも倍やんか?』

 番組のテーマはいつの間にかこの台風にタワーが耐えるかどうかになってしまった。

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