魔法学園を探索しよう
突然だが入学式である。
何度か学園を見学には来ていたが、通う者でなければ構内まで見学できないため、学園自体に足を踏み入れるのは初めてだ。
真正面から見上げる学園の門から見える校舎まで、これは寸分違わずゲームのオープニングと同じ。
けれどヒロインや攻略対象が校舎と重なり合うように映し出されることはなく、そればかりは現実を実感させられる瞬間でもあった。
式典が始まるまで時間があるため、おれは中庭へ向かっている。この中庭はヒロインが王弟を除く攻略対象と初めて出会う場所だからだ。
何せ物語は恋愛メインの学園生活、思春期真っ只中となっている。もちろんそれぞれのルートで学園を飛び出すこともあるし、最終的に婚姻エンドなんかだと学園を卒業して王宮の話も出てくるのだが、まぁ…それらは置いておくことにして。
中庭といってもかなり広く、そのため各攻略対象に合わせた出会い方を演出できるようだ。実際に見たり、歩いたりすると、一時間程度では全て周ることができない広さである。
学園は上空から見るとH型になっていて、上半分が薬草園、下半分が庭園といった形だ。
ちなみにおれが現在いる中庭は下側になり、Hの右側に当たる棟が実習などの校舎で、左側の棟は授業を受ける教室、外側には馬車の乗り場がある。
伝わっているかは不明だが、魔法実技が行われる魔法闘技場は右側の校舎の先になり、その奥は森が広がっていた。さらに付け加えるなら、王城は上側のほうに見ることができる。
ここでの出会いスチルを観察るためのスポットを探そうとキョロキョロしていると、おれのように何かを探しているような生徒を何人か見かけた。
なるほど、さすが異世界転生。これもよくある異世界転生者は一人ではないというやつで、おれと同じようにスチル確認のスポット探しに来たようだ。
待てよ、ヒロインも悪役令嬢も異世界転生パターンもあるよな。攻略対象者が異世界転生パターンもか。そう考えると異世界転生パターンは珍しくない。
一人うんうん頷いて気づいたのだが、明らかに誰か探していますみたいにキョロキョロしている生徒が多く、スチルを覗るなんて無理だ。
いや、ふむ……、これはあれか。異世界転生者モブが攻略対象と仲良くなるパターンのやつだな! おれには無い考えだが、記憶的にはよく読まれていると、一人納得した。
よくよく観察ていれば、【紫:側近】のスチルポイントや、【緑:魔導師】のスチルポイント付近に近づく人が多い。確かに二人は今年から物語と関わりが生まれ、ゲームでは初心者向けだが…。
おっと、入学式が始まるというアナウンスが流れ始めた。
ヤバいッッ!! 観察に夢中になりすぎて中庭の奥のほうまで来てしまっていた!!
一つのことに夢中になると周りが見えなくなる癖はどうやら抜けないらしい。周囲にいたはずの生徒たちもいつの間にかいなくなっていた。
猛ダッシュしたおかげでギリギリ入学式に間に合い、眠気を堪えながら式典を終え、講堂へ移動する。
魔法学園はクラス分けはなく、学年だけを分ける仕組みだ。大きな講堂に一学年集め、今後の授業についてや課題について説明を受ける。
教養書や魔法書など重たい教科書を受け取らせ、各自与えられたロッカーへ保管させるようだ。
本は貴重な物なので保管について厳重さを求められる。一人一人に渡す魔法書などウン十万円する価値があり、それだけで財産となるのだ。そんな貴重な物を雑に扱うことはできず、おれの手はぷるぷると震えている。
ちなみに魔法書には不当に扱うと魔法書自体が灰になる魔法がかけられているらしく、灰になった瞬間即時退学だ。怖い。大切にしよう。
ロッカーに荷物を片づけている間にも女性陣のキャアキャアした声が聞こえてきた。王族たちがいる代はそんなにないためお近づきになりたいのだろう。
婚約者もとい悪役令嬢たちの姿もあった。あの程度の群がりであれば彼女たちも許容範囲なのか、攻略対象の近くで笑顔をキープしている。
ヒロインはまだ入学してこないが、攻略対象者たちについては、この一年たっぷりと観察することができると思ったら、おれは自然と笑みを浮かべていた。