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【青:王弟】はダメな大人の見本

 今まではこの世界を乙女ゲームだと実感するために生活してきたが、そろそろ学園にも入学するし、おれは行動することにした。

 え? 何をかって?

 そりゃもちろん、舞台役者たちを見に行くこと以外に何があるっていうんだ。



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【観察対象】ブルネット・レーゲン

 攻略難易度:☆☆☆☆

 ダークブルーの髪を(ゆる)く結って、常に穏やかな笑みを浮かべている【虹国(レーゲン)】の王弟。

 魔法帝国である虹国(レーゲン)で王弟として政務を支える一方、魔法研究者としても名を()せ、現在魔法帝国王都にある虹色(レーゲン)魔法学園・名誉顧問としての役割も(にな)っていた。


 王弟――通称:青ルートは、魔法にしか興味のない王弟が、ヒロインのもつ神聖魔法を研究するため近づき、やがて研究対象から恋愛対象と変化していく(さま)を楽しめる。

 大きな事件は起こらないが、神聖魔法がどういった状況で現れ、また遣い手が唐突に現れるのかを解き明かす謎解きルートでもあった。

 ファンブックではミステリアスを売りとし、攻略対象の中では一番歳上の二十代半ば。

 正しい貴族制度は知らないが、物語りでよくある設定の貴族制度では父親の年齢以上の相手に嫁ぐ後妻ありきの世界観であり、このゲームも同様だった。

 そのため王弟が二十代半ばで、ヒロインが十代でも問題はない。

 むしろ十歳程度であれば誤差程度の認識だ。

 おれ個人としては二十代半ばオジサンではなく、お兄さんだと言いたい。

 ミステリアスだと(うた)っているが、王弟は攻略対象の中でも一番遭遇率が高く、出現ポイントが限られているキャラでもあった。それなのに攻略難易度が高いのは、魔法研究以外に興味がなさすぎるから。

 簡単に言うと、魔法バカすぎて恋愛音痴なのだ。

 そんな王弟の出現ポイントは魔法学園と王立魔法図書館である。

 魔法学園には名誉顧問として仕事をしているため会うことはほぼないが、王立魔法図書館は王都にあり、貴族、平民問わず利用できるスポットで、ヒロインとはこの図書館で出会うのだ。

 虹色レーゲン魔法学園の名誉顧問である王弟は魔法の造詣が深く、常に新しい魔法を求め、研究に没頭している。そのため親密になろうと貴族子女が近寄ることもあるが、魔法出頭を埋め尽くされている王弟とコミュニケーションを取るのは()(なん)(わざ)だった。 

 ヒロインは突然開花した神聖魔法について調べるため王立図書館へ日参し、魔法研究者だと有名な王弟に無礼を承知で話しかける。

 初めは他の人間と同じく気を惹くため近づいていると邪険にしていた王弟だが、神聖魔法を(じか)に見ると態度を一変させ、研究対象として勧誘した。

 やがて研究対象のヒロインが可愛らしく見えたり、他の人間や婚約者である公爵令嬢と比べるようになっていき、王弟が恋を自覚していく。そうして二人で神聖魔法を研究し、成果を上げて婚姻できたら攻略成功だ。

 悪役令嬢として登場する公爵令嬢は一般的な髪色や瞳の色の持ち主である。


 シーニィア・コンジュレイ

 茶髪垂れ目で優しい印象を与える公爵令嬢であり、王弟の婚約者。実際は苛烈な性格をしており、貴族らしい令嬢と言えた。

 没落気味である公爵家を立ち直すために王弟と婚約を結んでいるが、実際は公爵家所縁(ゆかり)の魔法図書保管庫の管理にある。それを知らない公爵令嬢は王弟の婚約者という立場で大きな態度を取っていた。

 だからといって王弟と並んで見劣りするわけではなく、顔面偏差値とプロポーションは最高級であり、目を奪われること間違いなしだ。

 垂れ目で優しそうな印象に騙されたら、あっという間に喰い尽くされる見た目詐欺のご令嬢である。

 苛烈な性格の令嬢ではあるが、王弟の婚約者となったのは、コンジュレイ公爵が政戦に当たり(さわ)りのない没落気味であることにあった。

 もちろん令嬢側からすれば玉の輿であるが、当の王弟はその公爵領地にある、公爵家の血筋にしか開くことのできない魔法図書保管庫のほうが興味深かったようである。

 令嬢がいれば保管庫には入り(びた)り放題であり、つまり鍵のような扱いであった。最低だな。

 二人の仲は令嬢側が強く、王弟側は政略結婚と割り切っているようだ。そのためやがてヒロインと出会った王弟の変わっていく(さま)を見て、焦りを覚えた令嬢がヒロインを(おとし)めようとする。

 王弟はそれに気づきながらもヒロインに惹かれていき、ハッピーエンドなら令嬢との婚約破棄からのヒロインとの結婚、バッドエンドでも令嬢との婚約破棄と、令嬢には少し優しくない展開だ。


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 大まかに王弟ルートを説明するとすれば、そんなところだろうか。

 さて、実際のところはどうなのだろう。おれが攻略対象の中で一番初めに観察しようと王弟を選んだのは、やはり遭遇率が高いからだ。

 通学する魔法学園にはまだ入学しておらず、そこでの観察はあまり適さないことは知っているため、王立図書館へ向かっている。

 国としても魔法を推奨しているからか、王都各所で魔法の使用が許可されていた。もちろん人的被害が出ない種類と限られてはいるが、それでも重量物を浮かせたり、噴水を利用して水芸を見せたりと、実際に見てみると結構面白い。

 図書館というよりは豪奢な洋館のような王立図書館へ足を踏み入れると、目当ての人物はすぐ見つけることができた。

 何せ懲りない貴族子女が一箇所に集中している。

 王弟は周囲の喧騒を物ともせず、魔法書を(まく)りながら何か書きつけるという行為を繰り返していた。

 ふむ、これは公式通り、集中しすぎて周りが見えておらず、寝食すら忘れてしまう、魔法バカは健在だということだろう。

 それでいて貴族子女たちからの差し入れなど毒味を通さず無意識に口へ運んでいた。

 話し相手にはされていないが差し入れを食べたことで貴族子女をさらに白熱させていくのだから手に負えない。

 理解できないが、そういう抜けているところが可愛らしいとわりと人気だった。



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《観察一日目》

 朝からずっと大量の魔法書を積み上げ、王弟はそれらを読み(ふけ)っている。

 おれはそれを少し離れた席から眺め、王弟に話しかける勇敢な猛者(もさ)たちを観察していた。

 う〜ん、それよりも王弟の魔法書を読むスピードが尋常じゃないんだが。めっちゃパラパラ(めく)っているだけにしか見えない。あれで理解しているのだから、普通にすごい。

 積み上げられた魔法書の大半が古代文字を使用した、今は失われた魔法と呼ばれるものばかりだ。さすが魔法研究者、研究対象は魔法全般に(わた)るらしい。

 あ、あれは今はもう亡い(かつ)てはこの国と同じくらい、魔法大国だった国の魔法書だ。

 え、あれもパラパラ(めく)るだけで読めんの? 何なの、チートなの?!

 それにしても婚約者がいる王弟にあんな猛烈にアピールする意味があるんだろうか。さっきまでは遠巻きに見ていただけだったはずが、いつの間にか王弟を囲い込む配置に変化していた。

 無視されても話しかけ続ける猛者(もさ)もおり、中には王弟から魔法の質問をされ答えられず撃沈する者もいる。

 世の中には王弟以外の男もいるというのに何の差なのだろうか。

 やはり顔か、それとも権力か、金か。

 全部と言われたら撃沈するしかない。


《観察十日目》

 毎日早朝から王立魔法図書館に通い、おれも魔法書を読み、時にヤバい薬を混ぜ込まれた差し入れをさり気なく回収して解ったことは、王弟は毒耐性をもっているということだ。

 もしくは解毒の魔法が使える。

 王族ということもあるから、どちらの可能性も否定できないが、それだったら無造作に差し入れ食べるわなと納得した。

 どれだけ(むら)がられても怒らないところはさすがだなと感心というか、呆れるというか。

 今のところヒロインと遭遇することはなく、日々貴族子女に囲まれながら、魔法の研究に(いそ)しんでいるようだ。

 婚約者である令嬢も魔法学園への入学はまだ先のため王都にはおらず、ルーティーン化した日々を送っている。

 ちなみに何度か閉館時間にも気づいておらず、図書館の人間から追い出されるように馬車へ詰め込まれていた。ダメ人間の見本のような大人である。

 遭遇したときに(……あれで王弟か〜……)と思ったおれは悪くないはずだ。


《観察十七日目》

 ルーティン化した日々は変わらず、記録としては、同じようなことしか書けなくなってきた。

 ヒロインとの出会いがあるまで通いたいのは山々だが、さてどうするか。


《観察二十三日目》

 相変わらずの王弟はもう視界の片隅に置いておくことにして、おれは王弟が書いた魔法研究の記録に目を(とお)していた。

 さすが国が誇る研究者だけあって、初心者にも解りやすい解説のものから、研究者でも難解なものと、はっきり書き分けられている。

 どちらにも王弟の考察が記載されているのだが、魔法が本当一番なんだな、と知っていたおれでも納得してしまうほど、考察が饒舌だ。

 これを恋愛脳へと(おとしい)れるヒロイン、恐るべし。


《観察三十九日目》

 一ヶ月以上王弟を観察していたがヒロイン現れず、一旦中止とする。

 何より今日の差し入れには、媚薬どころか、性的興奮を高める薬までもが混入されていた。

 (たま)にいる差し入れを勝手に食べる子女の一人が勃起し抑え込もうとしてぽろりしたり、また別の一人がお漏らしのようにイキまくり、図書館が阿鼻叫喚となって判明したのだが、そんな中でも王弟は魔法書を(めく)り続けていたのだから、ある意味最強である。

 公然の中で勃起してぽろりしたヤツと、お漏らしのようにイキまくったヤツは、残念だが今後表舞台には出てこれないだろう。

 それが王弟への差し入れであることから、犯人探しが行われるはずだ。そうなるとちょっと面倒になるため、おれは気づかれないよう図書館を抜け出したのである。

 ちなみに今日の差し入れを回収できなかったのは、寝坊して図書館に着いた時には阿鼻叫喚だったからだ。


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 後日社交界から一人の令嬢が消えたという。

 もちろんぽろりやお漏らしした子女ではない。つまりはそういうことなのだろう。まぁ、おれにはあまり関係ないが。

 さらに後日判明したことだが、王弟の研究者報告の一部が魔法薬品についてであり、はたまた偶然読んでいた魔法書が薬草関連だったおれは知らずその知識を身につけていた。

 おかげで気づかぬ内に薬草収穫や薬品生成でお小遣いを稼ぐ方法を手に入れていたのである。

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