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下着姿の召喚者




  紫雲頼斗。十五歳。


  俺の母親は水商売で酒と男に節操が無く、父親が誰かさえ分からない。


  そんな、不確かな二人の間に産まれたのが俺だった。


  ある日母親は俺を育児施設に預けて、そのまま行方知れず


  所謂、育児放棄である。


  そして、俺はそのまま施設で育てられた。


  そんな俺が真っ当に育つはずも無く、見事にグレた。


  小学生の頃から喧嘩ばかりで、上級生だろうと関係無く暴れた。


  



  それは中学生になっても、勿論変わらず


  入学して一週間が過ぎた頃、同学年で俺に逆らう奴は、居なくなった。


  


  そんなある日、俺は上級生に呼び出された。


  当然といえば、当然である。


  大人数相手に、俺は倒れても、倒れても立ち上がり


  拳を振り回して、殴りかかった。


  最後に力尽きた俺は、うつ伏せに倒れて気を失っていた。


  血を流しながらも、フラフラと何度も立ち上がる、俺の姿に


  『鬼ゾンビ』の異名がついた…。


  その出来事以降、俺に文句を言う奴は居なくなった。


  俺は退屈な日々に刺激を求めては、近隣の中学に単身で乗り込んだりした。


  そして『鬼ゾンビ』の異名は、瞬く間に広がり


  近隣の不良達から、恐れられる存在になっていた。


  


  三年生になりクラスの連中は高校受験に向けて、勉強に勤しんでいたが


  進学と縁の無い俺は、一番後ろの席で何時もの様に外を眺めていた。



  「ふぁ〜〜」


  座ったまま両手を上げて大欠伸をすると


  クラスの連中がビクッとして、教師の声も途切れた。

  


  「あ〜悪い」「勉強の邪魔したな」「もう帰るからさ」「続けて、続けて」


  俺は薄っぺらい鞄を手に取ると、教室を後にした。


  

  


  学校を出た俺は、行くあてもなく歩いた。


  夕方までの、時間潰しが出来る場所を探して…


  フラフラと暫く歩いて、大きな公園を見つけた。


  そこでは、小さな子供達が遊ぶ姿を母親達が見守っていた。


  あれがきっと普通の母親で、普通の家族なんだろうな。


  少し羨ましく思った。


  俺はその場所から離れて、隅にあるベンチで横になり


  施設に帰るのを、考えると憂鬱になった。


  文句と嫌味しか言われないからだ。


  「はぁ」


  思わず溜息がこぼれた。


  その瞬間、頼斗の周りに陣の様な物が浮かび上がっていた。


  「げっ」「何だ、こりゃ?」


  慌ててベンチの上で上半身を起こすと、陣からモクモクと


  煙が上がり、辺りを包み始めたのだった。


  



  



  


  時は少し遡りもう一つの世界。その王都 ディスケス。


  デミルス城のある一室に、皇女殿下と召喚師長。騎士団長の


  三人が陣の周りを、囲んでいた。


  皇女が立派な椅子に座り、その両端に召喚師長、騎士団長が立っていた。


  「師長よ」「本当に陣が 反応したのか?」


  皇女の問いに 召喚師長が 片膝を着いて 答えた

  「はい、間違い御座いません」「ライニズ皇女殿下」


  「この腕のリングは、召喚の陣とリンクしております」


  「それが、光を放ちました」


  ライニズ皇女は、眉を顰めてリングをじっと見た。

  「ほぅ」「成程のぉ〜」


  「それで、その者は魔族を倒す力が、ある者なのだな?」


  「ハッ」「その力がある者を、この一年間探させておりましたので」

 

  

  「そうか そうか」「それは頼もしいの」


  「これで、騎士達や警備隊の犠牲も、減るじゃろう」


  「ベルク団長よ」「お主には、苦労を掛けっぱなしじゃったのぉ」


  「勿体無い、お言葉」「ライニズ殿下の為なら、この命惜しくありません」


  「ベルクよ」「何度も言ってるが、妾の為と思うなら、決して死ぬな!」

  「妾を悲しませることだけは、してくれるな」


  ベルクは、拳を握りしめて片膝を着いたまま、深々と頭を下げた

  「お心遣い、身に余る光栄で御座います」


  


      その時、突然召喚の陣が、激しく点滅を始めた。


  「おおお」「いよいよか!」

  ライニズ皇女が、身を乗り出すと、陣からモクモクと煙が上がり

  一瞬にして、煙は部屋中に広がった。


  「ゴホゴホ」「何じゃ、これは!」「早く、扉を開けるのじゃ!」


  「はい」「直ちに!」

  召喚師長が、駆け寄り扉を開いた。


  そして、煙が晴れて召喚の陣を見て、三人は唖然となった。


  「お おい!師長」「これは、どう言うことじゃ!」


  召喚師長が陣に近寄ると、力無く言葉を発した。

  「ど どうやら、妙な服だけみたいです…」


  「そんなのは、見れば分かる!」「肝心の中身は、どうしたのじゃ!」

 

  「そ それが、王都の何処かには、召喚されたかと…」


  ガタッと椅子が立ち上がり、ライニズ皇女が叫んだ。

  「早く、見つけてこい!」


  「そ そう言われましても、顔も性別さえも、分からないのでは…」


  「馬鹿者!」「服だけが、ここにあるのじゃぞ」


  「何もない所に突然、下着姿の者が現れるのじゃ!」


  「騒ぎにもなるじゃろう!」


  「な 成程」「流石はライニズ皇女殿下」「ご慧眼 痛み入ります」


  「そんなのは、いいから」「早う、探しに行かんか!」


  「は はい!直ちに!」


  召喚師長が、慌てて部屋から飛び出していくと同時に 

  騎士団の一人が 、慌ててやってきた。

  「た 大変です!」「ライニズ皇女殿下!」


  「今度は、何じゃ!」


  ライニズ皇女の気迫に、団員が妙な声をあげて、後ずさったのを見て

  ベルク団長が、そっと囁いた

  「ライニズ皇女」「失礼とは思いますが、お顔が少し怖いです」


  ベルクの言葉で、ライニズ皇女は我に返った。

  「す すまない」「何があった?」


  「あ」「は はい」「魔族が王都の北方面に、現れたそうです」


  「魔族じゃと?」「魔獣では無く、魔族が現れたと申すのか?」


  「残念ながら、その様です」

 

  「近くに、近くに、警備隊は居らぬのか!」


  「それが、どこの警備隊もリーダー、サブリーダー共に連絡が…」


  ベルクは思った。

  ライニズ皇女殿下は、知らない。

  警備隊の殆どが、王族や貴族の、依頼を優先して受ける事を

  平民が魔族に襲われていたとしても、平民の為に 

  自分達が命を落とす危険がある様な依頼を、受けない事を…

  

  だが、平民の依頼を率先して、受ける警備隊が、1チームだけ居る

  おそらく、今回も駆けつけてくれるだろう

  だが、驚く程に、弱い…からな…


  「ライニズ皇女」「私が行ってきます」


  「そ そうか」「何時も頼ってばかりで、すまん」


  「いえ」「私の、勤めで御座います」

  ベルクは立ち上がると、報告に来た団員に言った。

  「念の為手練れの者を、三人程連れて来いと、副団長に声を掛けてくれ」


  「ハッ」

  団員は駆け足で、その場を去った。


  「それでは、行って参ります」

  その言葉を残して、団長は姿を消した。


  「影」

  ライニズ皇女が呟くと、サッと背後に姿を現した。


  「聞いてたか?」


  「ハッ」「魔族討伐と、下着姿の召喚者の、捜索でしょうか?」


  「う うむ」「魔獣討伐は、もし団長が危険に陥ったら頼む」


  「御意」

  

   誰も居なくなった部屋で、ライニズ皇女は手を合わせた。

  「頼む」「誰も死ぬなよ」


  

  

  そして、時間は少し遡り、警備隊『夜明け』が 

  騎士団から連絡を受けると、魔獣の討伐に駆けつけて

  魔族に襲われそうになってる幼い少女を救い

  魔族と対峙していた。

  

  「よくも食事、邪魔したな」

  魔族の頭からツノが生えて、体は全身緑色に変色して

  はちきれんばかりの、筋肉に二人の少女は、たじろいた。

 

  「ね ねぇ」「リーダー私達って、か 勝てるかな…」


  その言葉にリーダーは、ゴクリと息を飲んだ

  「ダメだと思ったら、貴方だけでも逃げるのよ」


  「い 嫌だよ!」「ユルズちゃんだけ、置いて逃げるなんて!」

  そう言うと弓を構えて、矢を三本同時に魔族目掛けて放った。


  放たれた矢は、魔族の頑丈な体に弾かれて、地面にポタリと落ちた。


  「今、何かしたか?」

  魔族がニヤリと笑った。


  「そ そんな」「矢が、通じないなんて…」「は 反則よ」


  「私に任せて」

  ユルズは杖を取り出すと、詠唱を始めた。


  「火の精霊よ」「力を貸し給え、悪しき者を焼き払え!」


  魔族目掛けて杖を振ると、炎が魔族の体を包み込んだ。


  「す 凄い!「流石、リーダー!」


  だがユルズは、首を横に振っていた。

  こんなので、倒れるとは思えない。

  せめて、ダメージだけでも…

  

  ユルズの思いも虚しく、魔族は体の炎を手で払いながら

  何事も無かった様に姿を現した。


  「少し、熱かった ぞ」 「もう、お終いか」

  「じゃあ お前ら、食って いいな」

  

  ノッソリ、ノッソリと近付く魔族に

  二人は戦意を喪失して、恐怖で動く事さえ出来なかった…

  ここで死ぬと二人は思った。

  

  そして、魔族の鋭く伸びた爪が、ユルズの胸元に伸びた時

  魔族とユルズの間を、真っ白な煙が遮った。

  

  「な 何?」「この煙は?」


  突然の煙に、魔族も驚いて思わず後退った。

  「なんだ?「けむり?」


  そして、煙が晴れた先には下着姿で召喚された


  『紫雲 頼斗』の姿があったのだった。

 

  


  

  

 

  

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