3.読みかけの小説
読むの、遅いんですよね。
マンガでも、そう。
※noteにも転載しております。
もし、ペットボトルに鼻がついたら、あたしは買うのをやめると決めていた。
ぜったいに、買ってやるものか。
ペットボトルに詰められていた水を、飲むというより、流しこむ。
のどから、からだのまんなかが、パイプになっていて。
そこに、移しかえているようなかんじだ。
むせないように、息継ぎしながら。
とうとう、500mℓちょっとを、すべて移しかえおわると。
あたしは、からっぽになった彼を。かるくにぎりつぶして、ペットボトル用のゴミ袋にほうりこんだ。
ああ、段ボールを、またおしこまなくっちゃ。
ちょっとだけ考えて、やっぱり、念のため。
つぎのキスのあいてを、もう一本。
ひっぱり出しておいてから、段ボールをもどし。
ウォークイン・クローゼットをしめる。
二本めのペットボトルを、床に無造作に置く。
なにも、いますぐ。もう一本飲もうって、わけじゃない。
念のため、って言ったでしょ。
あたしは、新しい彼に、おあずけをくらわせておいて。
読みかけの小説を、また手にとる。
なんだか、とんでもない悪女になったみたい。
マスクをする習慣がついて以来、グロスを塗ることすら減ってきちゃって。あたしの唇って、どんなかたちしてたっけ。
キスの 残滓をティッシュで拭いながら、そんなことを考えた。
読みかけの小説。
読みはじめていない小説を、読みおわった小説へと、変える作業。
そして、たとえ読みおわった小説も。また、ふたたび読みはじめれば、もういちど。
それは、読みかけの小説になるんだ。
気がむいたら。
何度も読みかえしたいから、その小説を手にいれるのよ。
じゃあ、恋はどうだろう。
おわってしまった恋を、きちんと手ばなさないのは。
また、あらためて、おなじ恋をしたいってわけ?
そして、何度やったって、そのたび。ずたぼろになるのよ、わかってるでしょ。
あ、だめだ。
だめだ、だめだ!
それは。
ぜったいに。
だめだ。
もし、恋と読みかけの小説が同じだとしたら。
読みはじめていない小説を、もう読みおわった小説へと、変える作業。
それが、読みかけの小説なら。
はじめていない恋を、もうおわってしまった恋へと、変える作業。
それが、あたしの恋だってことになる。
そして、おわってしまったはずの恋を。こりずに、また、ふたたびはじめちゃうんだ。
読みおわった小説を、また、ひらいてしまうように。
気がむいたら。
何度も読みかえしたいから、その小説を手にいれるのよ。
だから、あたしの部屋は、こんなありさまで。
気のすむまで。
何度もおわらせたいから、その恋を手ばなせないのよ。
だから、とうのあたしは、こんなざまなのだ。
DVDも、きになるところ、まきもどしちゃうので、みるの遅いです。
CDも、ドラマCDだとおなじ。




