1.ぺちゃんこの段ボールがふたつ
段ボール。
便利だけど、いらないと、やっかいなゴミになります。
※noteにも転載しております。
たぶん、これは、失恋だったのだろう。
ちゃんとした、失恋、なのかはわからないが。
ちゃんとした、恋がわからないから。
ちゃんとした、失恋なんて、よけいにわからない。
好きです。
好きですか?
もし、好きでしたら?
だから、どうした?
だったら、どうする?
あたしには、そのつぎが、浮かんでこないし。
きっと、たどり着けもしない。
ちがったら、どうなのよ。
ちがうんでしょ、どうせ。
伏線ですらない、一行を、かってに読みとって。
そんなふうに、考えちゃう。
そうやって、考えちゃったほうが、すっきりするんだ。
でも。
すっきり、はするけど。
すっぱり、まではしていないのが問題。
そして。また、もやもやするたびに。
おなじひとと、おなじプロセスを。自分がすっきりするためだけに、くりかえす。
こんなのが、あたしの恋なのか。
これじゃあ、だめだ。
ウォークイン・クローゼットをひらいて。空きスペースに、はめ込んだレンガのようにした、段ボールをひきずり出してみる。
予想より、やや、軽めの手ごたえ。
あ、いがいと減ったな。
赤く腫れているであろう、目を、まあるくする。
隠れて仔猫を、飼っているわけではない。
そもそも、こんな場所で。
ひっそり、あたしに飼われるのに、ふさわしいのは。どうまちがっても、仔猫なんかじゃないでしょ。
ふさわしいとしたら。この世に在るべきでない、異界の生き物だ。
蛍光色の卵から産まれた、毛もはえてない、すじばったやつ。
ねじくれた四肢をして、まちがった鳴き声をおぼえて。
ふぎーって、鳴くのだ。
だめだ。この仔を、これいじょう、おおきく育ててはいけない。
あたしはきっと、段ボールを閉じなおして。
そのうえから。
だんっ。だんっ。
何回も踏んだことだろう。
ふぎーっ。ふぎーっ。
そいつが、まちがえておぼえた、あの声が鳴きやむまで。
ごめんね。ごめんなさい。
もっとおおきな段ボールがあったら、つぎは、あたしがはいるから。
雲のうえにでも、でっかい足をした巨人がいたら、踏んでもらおう。
べきっ。ぼきっ。
って、骨が折れて。
ぐちゅっ。ぴちゅっ。
って、肉がつぶれて。
あとは、シャワーをつかって、足を洗って帰ってください。
いちばんおおきな、バスタオルをひろげておくよ。
そして、ふたつの、ぺちゃんこになった段ボールが。
あたしの部屋に残されたのだった。
迷路とか、秘密基地とか、つくりたいです。