アテナって誰?
さすがにブラッドが入ってきた瞬間、エリーヌ、カイト、シャルケの全員が席を立った。シャルケに至っては体が震えている。オレやリリーのようなある一定の実力を備えたものには感じられないが、確かにブラッドには特有の威圧感がある。
「ブラッド。紹介するよ。オレとリリーがエルフ族の国で世話になった者達だ。」
「初めまして。私はアスラ魔王国の宰相のブラッドと申します。魔王様がお世話になったようで、感謝いたします。どうか、お寛ぎください。」
「わ、わ、私はエリーヌです。」
「お、お、俺はカイトです。」
「ぼ、ぼ、ぼ、———— 僕はシャルケです。」
「そんなに怖がらないでください。私は魔王様に害を為すもの以外には優しいですから。」
すると、リリーが笑いながら言った。
「ブラッドったらおかしいの。自分で自分のこと優しいですって! アッハッハッ」
「笑いすぎですよ。リリー。」
「だって~!」
リリーのおかげでその場の雰囲気が少し和んだ。
「じゃあ、3人は自分の部屋に行ってくれるか? 食事になったら呼ぶから。」
「わかったわ。」
3人が部屋を出て行った。そして、ここからブラッドと真剣な相談が始まる。
「ブラッド! イングス聖教国の勇者について何かわかったか?」
「はい。召喚されたものは3名です。うち2名が男性で1名が女性です。現在、イングス国内にてダンジョンに潜って修行をしているようです。」
「そうか。オレの方もいろいろあってな。最初に、クイーンにあったぞ!」
「 そうでしたか。クイーン様はお元気でしたか?」
「ああ。相変わらずだ。オレを見てすぐに気づいたな。やっぱりお前とクイーンは誤魔化せないな。」
すると、リリーが聞いてきた。
「そう言えば、精霊王様が言っていたアテナって誰のことなの? あの場所にはそんな名前の人いなかったよね?」
ブラッドがオレの顔を見た。
「多分、リリーを見て誰かと間違えたんだろ?」
「シルバーもブラッドもアテナって人のこと知らないの? この街の名前にもなってるわよね? 知ってるんでしょ?」
しょうがない。少し話をすることにしよう。
「オレが魔王アンドロメダだった時代に、オレが愛した女性だよ。」
「そうなの? でもどうして精霊王様が間違えたのかしら?」
「リリーがアテナに似ているからさ。」
「それ本当?」
リリーは無邪気に喜んだ。だが、アテナがどうなったのかは聞いて来ない。だから、オレもブラッドもそれ以上は何も言わなかった。
「ブラッド。もう一つあるんだ。エルフの国に侵入して、女や子どもを誘拐して奴隷にしている国があるんだ。」
「どこですか?」
「イグドラ帝国だよ。」
「なるほど、あの国ならあり得ますね。あの国はすべてが実力主義の国です。力のあるものが、自分より下の者を従える風潮がありますから。」
「しばらく休んだら、オレとリリーでイグドラ帝国に行くよ。」
「わかりました。他の随行者はどうしますか?」
「みんな忙しいだろうから。オレとリリーだけでいいよ。」
「畏まりました。」
しばらく休んだ後、オレとリリーはエリーヌ達を誘って食堂に行った。
「凄いわね。シルバー。完全に魔王じゃない!」
「エリーヌ! 当たり前じゃないか。師匠は本物の魔王なんだから。」
「それもそうよね。私もこんなお城で生活してみたいわ。」
するとリリーが言った。
「私もシルバーも別に贅沢な生活を望んでるわけじゃないのよ。このお城だってシルバーが魔法で作ったんだから!」
「えっ———!」
なんか3人が同じように驚くのが面白い。すると、ゲーテとメイド達が食事を運んできてくれた。当然、ローズおばあちゃんのレシピで作られた料理だ。みんなが一口食べて感動している。
「このスープ、美味しい!」
「この煮込んでる肉もすっごく美味しいぞ!」
するとシャルケが余計な一言を言った。
「リリーちゃんもこんなに美味しい料理が作れるの?」
リリーが困った顔をしている。
「そうね。私は食べるのが専門ね。作るのは他の人に任せてるのよ。」
「リリー! 正直に私には作れないって言えよ。」
「シルバーのバカ!」
「ハッハッハッ」
エリーヌ達には1週間後に『精霊の森』に送っていく約束をして、その日は解散となった。
翌日、オレとリリーは、ローズおばあちゃんと一緒に2人が育った家に来ている。
「忙しいようだね。シルバーもリリーも。」
「まあね。ローズおばあちゃんを一人にしてごめんね。」
「いいんじゃよ。お前達が元気でいてくれさえいてくれれば。」
「おばあちゃん。ありがとう。」
久しぶりにローズおばあちゃんの畑仕事を手伝った。ローズおばあちゃんは魔法で済ませれば楽だが、すべてを手作業で行っている。そうすることで、収穫した野菜に愛情が注ぎ込まれて美味しくなるそうだ。
「ローズおばあちゃん。収穫した野菜はどうするの?」
「魔法袋に入れてお城の料理人に渡すんじゃよ。」
僕は収穫した野菜を魔法袋に入れていく。久しぶりに土仕事をして汗をかいた。
「シルバー! 一緒にお風呂に入ろうか?」
「いいよ!」
するとリリーが真っ赤になって言った。
「冗談に決まってるでしょ! 何を真に受けてるのよ! エッチね!」
「僕も冗談で答えただけだから!」
「フン!」
何故かリリーが怒ってしまった。お風呂に入ってさっぱりしてから3人で城に戻った。食堂に行くと、エリーヌ達がいた。
「師匠達はどこに行っていたんですか?」
「ローズおばあちゃんの家さ。オレとリリーが育った家だからね。」
「私も行きたかったな~!」
「でも、エリーヌ! 街も楽しかったじゃないか!」
「そうだけど。シルバーが育った家も見たかったのよ。」
リリーがエリーヌを睨んだ。
「リリー! 誤解しないでね。もう、私、シルバーはあきらめたから。さすがに私なんかが魔王様なんかと結婚なんかできないからね。」
ここで僕は肯定も否定もしない。黙っていることにした。そこに、エルメスがやって来た。エルメスはダークエルフ族だ。
「魔王様。お帰りでしたか。」
「ああ。エルメス。紹介するよ。エルフ族の国で世話になったエリーヌとカイト、それにシャルケだ。」
「私はこの国の文部大臣をしているエルメスです。魔王様が世話になったようで、感謝する。」
やはり、エルメスからも魔力が溢れているのか、シャルケが怯えていた。するとリリーが言った。
「シャルケ! 大丈夫だから。エルメスもブラッドと同じように紳士だから、安心していいのよ。」
ダークエルフ族はエルフ族よりも魔力が強く、強者の扱いになっている。エルフ族の3人が恐怖を感じてもおかしくない。
「リリーが言った通りです。私も教育者です。安心してください。それに、私はエルフ族を見下すようなことはしませんから。むしろ、同胞、仲間だと思っていますよ。」
「エルメスさんは教育者って言ったけど、普段は何してるんですか?」
「この国にある王立学園の学園長をしています。様々な種族の生徒がいて面白いですよ。」
するとカイトが言った。
「師匠。僕も学園に入学してエルメスさんの下で修行をしたいです!」
「ダメだ。3人は村まで送り届けるって村長と約束したんだから。」
するとカイトが寂しそうに下を向いた。逆にシャルケは机の下でガッツポーズをしている。一刻も早くエルフの国に帰りたいのだろう。
それから数日が過ぎ、いよいよ3人を村に送り届ける日が来た。3人がゲーテをはじめ、世話になったメイド達にお礼と別れのあいさつをしている。
「じゃあ、3人ともいいかな。そろそろ行くよ。」
僕とリリーは3人を連れてエルフの国の『精霊の森』まで転移した。
「シルバー! また、会えるよね!」
「師匠。次に会う時までに、俺修行しておきますから!」
「リリーちゃん。また来てね。」
「そうだね。時間がある時にまた来るよ。じゃぁね。」




