最初のエルフの村
リリーが魔力の偽装ができることが分かった以上、のんびりしている暇はない。オレは自分の執務室にエルメスを呼んだ。
「お呼びですか。魔王様。」
「忙しいのにすまないな。」
「いいえ。大丈夫です。教師達も魔王様の思いを汲んで指導に当たっていますので。」
「そうか。順調のようだな。やはりエルメスを文部大臣に任命してよかった。実は、今度エルフの国エルグラン王国に行くんだけど、一緒に行かないか?」
「ドワーフ族と揉めている件ですね。」
「そうさ。ドワーフの国の問題は解決したんだが、エルフの国の方はこれからなんだ。」
「私は構いませんが、エルフ族はダークエルフ族を敵視していますので、私が行くとご迷惑をおかけすることになりますよ。」
「エルフ族に変身してもダメか?」
「はい。どちらも祖先は一緒ですが、ダークエルフ族は魔素を大量に吸ったことで、エルフ族から進化した種族です。ですから、魔力も多く、魔法自体もダークエルフ族の方がはるかに優れています。そのため、エルフ族はダークエルフ族を嫌うのです。」
「出る杭は打たれるということだな。」
「エルフ族は自尊心の強い種族ですから、自分達こそが神に選ばれた種族と考えているのでしょう。」
「ドワーフ族も同じことを言っていたよ。エルメスに聞きたいんだが、ダークエルフ族の魔力とエルフ族の魔力は違うのか?」
「はい。全く異なります。エルフ族の魔力は森の大精霊ドライアドの影響を大きく受けております。それに対して、ダークエルフ族の魔力は闇の大精霊シェイドの影響を大きく受けています。」
「そうか。 なら、魔力の偽装が必要だな。」
「魔力の偽装ですか? そのようなことができるのですか?」
「ああ。できるさ。」
「さすが魔王様です。」
「いいや。オレだけじゃない。堕天使族のセリーヌとリリー、それにバンパイア族のブラッドはできるだろうな。」
「そうなのですか?」
「ああ、こればっかりは種族の特性だから仕方ないな。」
「そうなのですか。努力ではどうにもならないこともあるのですね。勉強になります。」
「そういうところが立派なんだよ。エルメスは。」
仕方がないので、エルフの国にはリリーと2人で行くことにした。
そして数日後、いよいよエルフの国に旅立つ日が来た。
「ブラッド。留守は任せた。何かあったら連絡をくれ。」
「畏まりました。気を付けて行ってきてください。」
オレとリリーはドワーフの国との境にあるアタゴ山に転移した。そこから、エルフの国エルドラン王国の王都フェアリーに徒歩で向かうつもりだ。当然、姿はどこからどう見てもエルフ族の少年と少女だ。といっても、2人とも耳をエルフ族の耳に変化させただけだが。魔力偽装もばっちりだ。
「シルバー! エルフって美男美女が多いんでしょ?」
「そうかな~? 多分、僕は何も感じないと思うよ。」
「ならいいんだ~!」
リリーがいつものように僕の手を握って来た。2人は山を下って森の中を進んでいくと、マジカル大陸ほどではないが全体的に森の木が大きいことがわかる。もしかしたら、この場所も魔素が濃いのかもしれない。だとすれば、エルフ族がドワーフ族や人族よりも魔力が強いことも納得できる。
「シルバー! この国には道がないのかな~? 大分歩いたと思うけど、道らしきものがないよ。」
「僕達が歩いている場所が道のようなものじゃないかな。」
「えっ?! だってこれって獣の通り道だよね?」
「そうさ。恐らく、エルフ族達は自分達の住んでいる場所を隠したいんじゃないかな。」
「なるほどね。」
そんな話をしながら歩いていると、小鳥の鳴き声と水の流れる音が聞こえてきた。僕達は音のする方向に向かった。すると、そこには小川があった。森も小川もものすごく神秘的な景色だ。僕達は小川の畔でしばらく休憩することにした。
「カサカサ カサカサ」
何か音がしたので、慌てて僕は気配感知を発動した。すると、森の中から男性2人と女性1人のエルフ達が現れた。3人とも腰に剣をさしていて、背中には弓矢を背負っていた。
「お前達! どこから来た?」
僕は咄嗟にアタゴ山を思い出した。
「僕達はアタゴ山の麓で暮らしていたんだけど、王都に行きたくて姉と一緒に家を出てきたんだ。」
男性が僕達を怪しんでいる様子だ。
「本来、エルフ族は、よほどの用事がない限り自分達の村から出ることはないはずだ。何があったんだ?」
「特に何かあったわけじゃないけど、いろんな場所を回って修行してるんだよ。」
「修行?」
「そうだよ。いろいろ学びたいからね。」
「そうか。確かにドワーフ族と戦争になるかもしれないからな。アタゴ山の麓に暮らしているなら、不安になるのも仕方がないことだな。何せ、戦になればあの辺りが最初の戦闘地域になるだろうからな。」
すると、女性のエルフが言ってきた。
「私はエリーヌよ。私達の村に案内するわ。」
「ありがとう。僕はシルバーだよ。」
「私はリリー。よろしくね。」
「俺はカイトだ。」
「僕はシャルケ。よろしく。」
なんかシャルケがリリーを見て赤くなっている。僕達は3人について行くことにした。森の中を流れる小川を下っていくと、少し開けた場所に出た。そこには、木で作られた家が何軒もあった。当然、宿屋や店などはない。
「私達の村はここよ。最初に村長に挨拶に行くからついてきて。」
「うん。」
僕達は村の中を案内された。キョロキョロ見ているとカイトが話しかけてきた。
「シルバー達の村はこれよりも大きいのか?」
「同じだよ。」
「そうか。この村は比較的新しいんだ。」
それぞれの家の周りには小さな畑があった。恐らく自給自足の生活なんだろう。村は平地だが、村長の家はそこから少し登った高い場所にあった。
「ここよ。ちょっと待っててね。」
エリーヌが村長の屋敷の中に入って行った。そして、しばらく待っているとエリーヌが戻って来て、僕達は中に案内された。それほど大きな家ではない。一番奥の少し広めの部屋に案内されると、目の前にはローズおばあちゃんと同じぐらいの年齢に見える男性がいた。
「よく来たな。若者達よ。わしはこの村の村長のフラウだ。」
「僕はシルバー。」
「私はリリーよ。」
「そうか。それで、お前達は修行の旅をしているそうじゃないか。」
「そうよ。私はエルフ族の魔法を磨きたいの。」
「そうかそうか。お前達のような若者がエルフ族の伝統を引き継ごうとしているのか。嬉しいじゃないか。ここ最近では、魔法や伝統を軽視するものが多くなってきたからな。お前達は見どころがあるではないか。この村には空き家があるから、そこでゆっくりしていくがいい。」
「僕達、王都に行きたいんであまりゆっくりできなんだよ。」
「王都に行くのか? もしかして、宮廷魔術師のカシャ殿のところに行くつもりなのか?」
初めて聞く名前だ。
「王都に行けばいろんな魔法を勉強できると思っただけだよ。」
「そうなのか? 王都にはこの国で最高の魔術師のカシャ殿がおる。訪ねてみるといい。」
「うん。ありがとう。」
「それにしても、お前達は大物だな。このわしに対しても口調を変えないとはな。アッハッハッ」
近くにいたエリーヌもカイトもシャルケも蒼い顔をしていた。僕らの口調が横柄に感じたのだろう。




