エルフ族の国へ行く準備
ドワーフ族のドラック王国の問題を解決して戻ってきたオレは、次のエルフ族の国への対策を検討しようとブラッドを呼んだ。するとどうやら人間の国で問題が発生したらしい。人間の国の一つであるイングス聖教国に調査に行っていたセリーヌから、驚くべき事実を聞かされた。どうやら、このアスラ魔王国に魔王が復活したと世界に発表したことが裏目に出たようだ。
「勇者召喚って何なの?」
リリーがよくわかっていないようだ。そこで、ブラッドが説明を始めた。
「昔から、人族にとって魔王は強大な力を持った悪の権化とみなされています。人間では太刀打ちできない存在だと考えているのです。」
「確かにシルバーは強いわよ。でも、悪の権化なんかじゃないじゃない。」
「確かに魔王様は悪ではありません。ですが、人々は『魔王』は『悪』だと考えるのです。そこで、他の世界から能力の高いものを召喚するのです。召喚されたものは、普通の人族どころか魔族よりも能力が高い者もいます。」
「シルバーは大丈夫なの?」
「多分ね。」
「なら、いいわ。」
リリーが安心した様子を見せたが、ブラッドが現実的な話をする。
「ですが、勇者は一人とは限りません。それに、勇者には神より神器を授けられますので、油断はできません。」
するとリリーが不思議そうに言った。
「そうなんだ~。本来勇者は神の力で召喚されるものなんだ~。でも、ナルーシャ様はこの世界をシルバーに託されたんでしょ? おかしくない?」
確かに言われてみればその通りだ。オレはナルーシャ様から直接この世界の平和を託された。にもかかわらず、勇者の召喚だ。何かがおかしい。だが、それはともかくとして、まずはエルフ族の国を何とかする必要がある。
「セリーヌ! もう一つ聞きたいことがあるんだ。」
「どんなことだ?」
「エルフ族についてだ。ユーテス大陸のドワーフの国ドラッコ王国の問題は何とか解決したんだが、今度はエルフ族の国に行こうと思っているんだ。」
「そうか。リリー! エルフ族は美男美女が多い種族だから気をつけろよ!」
「どういう意味よ!」
「シルバーが心配じゃないのか? シルバーだって男だぞ!」
すると、リリーが不安そうな顔でオレを見た。
「セリーヌ! そんなことはどうでもいいんだ! それより、どうやってエルフの国内を調査したんだ? 魔族も人族も嫌われてるんだろ?」
「そんなこと悩んでいるのか! エルフ族に変身していけばいいじゃないか!」
すると、リリーが怒鳴って言った。
「わかってるわよ! でも、エルフ族は魔力が強くて、魔族や人族の魔力も区別するんでしょ? すぐにばれるわよ!」
「エルフ族やドワーフ族は妖精族だ。だから、魔力も精霊に近いし、彼らの魔法は精霊魔法と呼ばれるんだ。なら、こちらの魔力も精霊に近いものに偽装すればいいだけの話だろ!」
「そんなことできるの?」
そうだ。確かにセリーヌの言う通りだ。太古の昔、オレが魔王アンドロメダと呼ばれていた時、オレはすべての魔法が使えた。精霊魔法もだ。ならば、魔力を精霊に近いものにすることもできないはずはない。
「ありがとう。セリーヌ。お前の言う通りだ。」
すると、オレ達の話を黙って聞いていたブラッドが呟いた。
「さすがセリーヌですね。君がビーナスだった頃を思い出しますよ。」
「そうさ。堕天使族はもともと天使の一族だからな。神に最も近い存在なのさ。リリー! 俺にできるんだ! お前にも魔力の偽装ぐらいできるはずだぞ!」
「わかったわ。やってみるわよ。」
その後、ブラッドは自分の仕事に戻り、セリーヌは勇者のことを調べるためにイングス聖教国に戻った。今、オレの執務室にはリリーと2人だけだ。
「シルバー! これからどうするの?」
「どうするって、エルフ国エルグラン王国に行くに決まってるだろ?」
「だって、私、魔力の偽装ができないわよ。」
「なら、今回はお留守番だな。代わりにエルメスを連れていくよ。」
「どうしてエルメスなの?」
「彼はダークエルフ族だろ! エルフ族達も自分達の魔力と区別できないだろうからさ。」
「確かにそうだけどね。でも、まだ時間あるんでしょ? 私、練習するから!」
なんかリリーが必死だ。オレはそんなリリーが大好きだ。リリーは小さいころから、魔法の練習も剣の練習も何に対しても全力で努力していた。そして、自分で納得するまで努力を続けたんだ。何とかしてあげたい。
それから数日が過ぎた頃、モモカとトロルドがやってきた。
「魔王様。まだエルフ族の国には行かないんですか? ドワーフ達が心配していると思いますよ。」
「トロルドの言う通りです。私もトロルドも今回は一緒に行けないんですよね? ブラッドから聞きましたよ。」
「そうだな。2人がエルフ族に変身しても魔力でばれるからな。」
「リリーもダメなんですか?」
「いいや。彼女は堕天使族だから。でも、今は必死で魔力の偽装の練習をしているよ。できなければ置いていくけどね。」
すると、リリーがノックもせずに勢いよくオレの執務室に飛び込んできた。
「できたわ! シルバー! 魔力の偽装、できたわよ!」
「リリー! モモカとトロルドもいるんだぞ!」
オレに言われてリリーはハッとした表情でモモカ達を見た。
「ごめん。モモカとトロルドも来てたのね?」
「なんか私達が来たらいけないみたいじゃない?」
「そうじゃないのよ。」
「モモカ! 許してやってくれ! リリーはほぼ毎日、徹夜のような状態で魔力の偽装を訓練していたんだ。オレに褒めてもらいたかったんだろうからさ。」
「魔王様がおっしゃるなら気にしないようにします。」
「本当にごめんね。モモカ。トロルド。」
するとトロルドが場の空気を和らげようと、リリーに魔力の偽装をして見せるようにと提案した。
「リリー殿。訓練の成果を俺にも見せてくれるか?」
「うん。」
リリーは魔力を高めていく。すると、本来は魔族特有の黒いオーラが溢れ出るはずが、緑がかった眩しい光が溢れ出始めた。そして、リリーの身体全体が緑の光に包まれ、姿がエルフ族の少女へと変化した。
「オオ——! これは凄い! まさしくエルフ族ですな。」
「どう? シルバー!」
「完璧じゃないか。凄いよ。リリー!」
「そうでしょ! やっとできたのよ!」
すると、モモカが言った。
「魔王様。やはり私には勝てそうもありません。リリーの魔王様を思う気持ちは、恐らく何があっても揺らぐことはないと思いますよ。」
「そうよ。当然じゃない。だって私は『ずっと昔から』シルバーを愛しているんだもん。」
ここでオレはリリーの言葉が気になった。『ずっと昔から』っていつからなのか? シルバーとして初めて会ったときからか、それともオレがアンドロメダと呼ばれていた時からか、どっちなんだろう。
「嬉しいよ。リリー。ありがとうな。」
「何よ。今更。照れるじゃないの!」




