ドラッコ王国の現状調査
王都ビザンツに到着した僕が馬車の中から外を見ると、人はそれなりに多い。店も、他の街と違って服屋や雑貨屋もある。そして、目の前には大きな城があった。ビザンツ城だ。
「これからどうするの?」
「はい。王子と王女がビザンツに来たことがジェット殿にばれると何をされるかわかりませんので、しばらくは宿屋で身を隠そうと思います。」
するとトロルドが言った。
「ドルトン殿。それでは何の解決にもならないのではないか?」
「はい。ですが、城にお連れしても国王陛下はすでに意識がないかもしれません。そうなると、お二人の命が危険になります。」
「でも、ドルトンさんはデルタ王子に王位を継がせるつもりなんでしょ。」
「はい。」
するとリリーが過激な発言をした。
「なら、そのジェットとかいう奴を始末すればいいんじゃないの?」
無口なダリアが珍しく興奮して言った。
「そ、そ、そんなことできるはずないじゃありませんか。」
「どうして?」
「ジェットは宰相という立場です。ですから、国王が病気になって以来、この国の経済も軍隊もジェットが管理しているんです。下手に動けば、国家転覆罪として王子も王女も殺されてしまいます。」
ここで僕は考えた。この大陸に来た目的はドワーフ族とエルフ族の争いを収めるためだ。だが、それどころではない。ドワーフ族の中で争いが起きているのだから。まずは、ドワーフ族の争いを収めることが先決だと思った。
「ドルトンさん達は何もしなくていいよ。この国の大掃除は僕達がするから。」
「どういうことですか?」
するとモモカが言った。
「シルバー様、———シルバーさんはこの国の悪党を退治するつもりなんですよ。」
「あなた方だけで討伐するつもりですか?」
「そうだよ。でも、大丈夫だから安心してね。」
町はずれのひっそりとたたずむ宿屋に入った僕達は、ドルトンさん達の部屋を囲むように部屋を取った。そして、全員で食事に行くことにした。1階の食堂には男女数人のドワーフ族が酒を飲んで騒いでいたが、僕達はそれを無視して食事をとった。不思議だが、未だに王子と王女は一言も口をきかない。そして、食事が終わった後、ドルトンさん達を部屋まで送って、僕達は僕の部屋で今後の計画を立てることにした。僕達だけしかいないので、普通に話をした。
「魔王様。これからどうなさいますか?」
「モモカには眷属がいたよね?」
「はい。」
「なら、最初にジェットについて調べてくれる?」
「畏まりました。」
「トロルドはドルトン達の警護を頼むね。」
「承知しました。」
「私は何をすればいいの?」
「そうだな~。王子と王女の話し相手になってもらおうかな。2人とも心を開かないから、かなり難しい役目だけどね。」
「分かったわ。元文部大臣として頑張るわよ!」
「頼んだよ!」
「うん。」
「ところでシルバーはどうするの?」
「僕は街の様子を調べるよ。国王が不在の影響がどこまで及んでいるのか知りたいしね。」
その日は、それぞれの部屋に戻った。そして、ドルトンさんの部屋を注意しながら休むことにした。翌日は、それぞれが役目を果たすべく、朝から行動に出た。朝食を取った後、モモカは眷属にジェットのことを調べさせ、自室にこもり随時報告を受けるようだ。現在モモカの部屋には眷属の鳥達が集められていた。鳩のような鳥、カラスのような真っ黒な鳥、フクロウのような夜行性の鳥、スズメのような小さな鳥、様々な鳥達がいた。
「いいかい! お前達! 宰相ジェットのことを調べてきておくれ。国王の病気、第1王子の死因、第2夫人の死因も調べてくるんだよ!」
鳥達が一斉にモモカの部屋から飛び立った。
一方のリリーとトロルドはドルトン、ダリア、王子、王女が揃っている部屋にいる。
「デルタ君、シグマちゃん。心配しないでいいのよ。シルバー兄ちゃんが悪者を退治してくれるから、ここで待っていれば安心だからね。」
デルタは頷いたが、シグマはデルタの顔を見るだけだった。やはり不安なのだろう。リリーとトロルドが一生懸命に話しかけるが、2人が話すことはない。頭を前後左右に振って返事をするだけだ。不自然に思ったリリーが聞いた。
「ドルトンさん。あの2人はどうして喋らないの?」
「黙っていましたが、実は2人とも失声症なんです。」
「どうして?」
「お二人の母親の第2夫人が産後すぐになくなった話はしましたが、その後、しばらくして、第3夫人によるいじめが始まったのです。いじめは3年ほど続きまして、それを哀れに思ったテドラ国王がお二人を、私の領地に匿われたのです。」
「第3夫人はどうしていじめたの?」
「はい。第3夫人はジェットの正妻の妹なのです。ですが、いくら時間がたっても子どもが出来ないのです。ですから、妬んだんだと思います。」
「酷い話ね。」
「そうですな。まったくもってひどい話です。」
「でも、彼らを助けてくれる人は誰もいなかったの? 第1夫人は庇ったりしなかったの?」
「第1夫人は気の弱い方でしたから。」
「『でした』ってどういう意味?」
「はい。第1王子がお亡くなりになって、精神的に辛かったのでしょう。自ら命を絶ってしまいました。」
「そうなの? なんか、すべてがジェットの思い通りのような気がするわ。」
「はい。いろいろと怪しい部分はありますが、何せ証拠が何一つありませんので。」
「今、モモカとシルバーが調べているから、証拠も見つかるんじゃないかな。」
「皆さんがいてくれて、私もダリアも心強いです。」
そして、現在僕は街を歩いている。街を歩く人の数は多い。素行に問題がありそうなガラの悪い人達も結構目につく。どうやら昼間から酒を飲んでいるようだ。酒臭い。僕は情報を仕入れるため武器屋に入った。
「いらっしゃい。気になるものがあったら手に取ってみてくれ。」
「この店の剣はどれもいい出来だね。」
「お嬢ちゃん。見る目があるね~! 狩人か何かかい?」
「そうだけど、僕は男だよ。」
「え————! 本当か~?」
「正真正銘、男だから!」
「凄い美形だから、てっきり女だと思ったぞ!」
「僕、髭が嫌いなんで、伸ばさないんだよね。」
「何を言ってるんだ! 髭は大人の証じゃないか!」
「なら、子どものままでいいや!」
「おかしな奴だな~!」
「ところでおじさん。僕、つい先日、田舎から出てきたんだけど、いい就職口ないかな~?」
「そうだな~。大きな声では言えないが、どうやらエルフ族と戦争になりそうなんだ。今なら兵士を募集しているぞ。」
「そうなの? でも、王様は戦争反対だって聞いたよ。」
「お前は何も知らないんだな。国王はもう意識がなくてな。宰相のジェット様が次の国王になるらしいぞ!」
「へ~! でも、第2王子のデルタ様がいるよね?」
「なんか行方不明だとさ。俺も詳しいことは知れねえけどな。」
「ありがとう。おじさん。また来るね!」
「買ってかないのか?」
「うん。今度またね。」
僕は一つ情報を得た。どうやら、ジェットはデルタを行方不明と公表したようだ。少し急がなければならないかもしれない。




