王子デルタと王女シグマ
宿屋を出て、再び馬車は王都に向かった。もうすぐ王都というところで、僕は怪しい気配を感じた。そのことをみんなに告げると、ドルトンさんとダリアさんは剣を抜いて待機した。僕の横に座っているリリーが聞いてきた。
「シルバー! どうするの? 結構な人数がいるわよ。」
「そうだね。さすがに外の狩人の人達だけで50人の相手は無理だもんね。なら、みんなで退治しようか? でも、殺しちゃだめだよ。聞きたいこともあるし。」
すると、モモカとトロルドが魔王城にいる時と同じような返事をした。
「畏まりました。」
彼らの態度を見てドルトンもダリアも何かを感じたようだ。馬車が進んでいくと、僕が指摘した通り街道上に50人の兵士達がいた。全員が覆面をしている。隠れているが、街道沿いの森の中にも兵士達の反応がある。
「お前達は何者だ?」
狩人のリーダーが聞いた。だが、素直に答えるはずもない。すると、森の中から火のついた矢を打ち込んできた。
「トロルドは右ね。モモカは左を頼む。」
「畏まりました。」
2人の姿がその場から消えた。転移魔法を使ったわけではないが、狩人やドルトン達には消えたように見えただろう。すると、前方から30人ほどの兵士達が剣を抜いてこちらに襲い掛かってきた。
「狩人のみんなは馬車を守ってくれる? リリー! 行くよ!」
「任せて!」
僕とリリーもその場から目に見えない速さで兵士達に向かった。僕とリリーが兵士達の間をジグザグに通り抜ける。すると、兵士達が次々に倒れていく。そして、森の中からも悲鳴が聞こえてきた。
「ギャー」
「どうしたんだ?」
「何が起こってるんだ?」
兵士達はもうパニックだ。そして、森の中からモモカとトロルドが出てきた。
「シルバーさん。こっちは全部捕まえたわよ。」
「私も全員捕らえました。」
残っているのは、俺の前のリーダーらしき男だけだ。
「君がこの兵士達のリーダーだよね?」
「お、お、お前達は何者だ?」
「見ての通りの旅人さ。それより、どうしてこの馬車を狙ったの?」
「俺が答えるわけがないだろう!」
「なら、答えてもらえるようにするさ。」
『シャドウスネイク』
僕は魔法を発動して、リーダーの男の身体を黒い蛇で拘束した。
「何をする! 放せ! 俺様にこんなことをしてただで済むと思っているのか!」
すると、馬車の中からドルトンが出てきた。そして、リーダーの覆面をはがした。
「確かお前はジェット殿の息子のグライダだな!」
「フン!」
グライダは横を向いて答えようとしない。その態度にリリーが切れたようだ。
「あなた、その態度は何? 殺されたいのね。」
リリーがグライダの足に剣を突き刺した。
「ギャー」
グライダは地面を転げまわる。無力化された兵士達も護衛の狩人達も全員が恐怖心を抱いた。
「どう? 話す気になった?」
「お、俺をどうする気だ? 俺を殺したら貴様らは・・・」
「まだ、お仕置きが足りないようね。」
リリーはもう片方の足にも剣を突き刺した。
「ギャー」
「これでも話さない?」
「わ、わかった。話す。話すからやめてくれ!」
「どうせ話すなら、痛い思いをする前に話せばいいのに。」
リリーは満足そうだ。だが、ドルトンさえも顔が引きつっていた。
「俺達は、お前達が匿っている王子と王女を捕まえるために来たんだ。」
ここで、やっと理解できた。恐らく、デルタとシグマはこの国の王子と王女なのだろう。それを守っているのが、ドルトンとダリアなのだ。
「理由は分かったよ。ドルトンさん。こいつらはどうするの? 殺してしまった方がいいならそうするけど。」
「ちょっとまってくれ! 正直に話したではないか!」
「僕もリリーもしゃべれば助けるなんて一言も言ってないよ。」
「そ、そんな~!」
すると、他の兵士達も泣きながら懇願してきた。
「助けてください! お願いします!」
「二度と武器はもちません! お願いします!」
「妻も子どももいるんです!」
すると、ドルトンが言ってきた。
「シルバー殿。彼らは私と同じこの国の民なのだ。許してやってはもらえないか?」
「別に僕はいいけど、こいつらまた『王子』と『王女』の命を狙うよ!」
今度はモモカが言った。
「ならば、2度と戦えないように片足か片腕を切り落としましょうか?」
兵士達の顔が引きつっている。どうやらドルトンも決めかねているようだ。そこで、僕は魔法を発動して彼らの首に黒い輪を付けた。
「シルバー殿。その魔法は何ですか?」
僕は兵士達に聞こえるようにわざと大きな声で答えた。
「この首輪は『服従の輪』さ。再び王子や王女の命を狙うようなことをしたら、その首輪が締まって首を切り落とすんだよ。何か悪事を働いても同じだよ。」
「そんな魔法が存在するんですか?」
「僕が今作ったのさ。」
「作った? シルバー殿が魔法を作ったのですか?」
するとリリーが余計な一言を言った。
「シルバーならその程度のことできるでしょうね。」
モモカとトロルドは僕を尊敬のまなざしで見ていた。そして、ドルトンが拘束している兵士達に言った。
「お前達! 今の話を聞いていたな! これからお前達を自由にする。行きたいところに行けばいいさ。」
ドルトンが全員の拘束を解いた。僕もグライダの拘束を解いた。兵士達は全員慌てて逃げだしたが、グライダだけはその場でうずくまっている。リリーが両足に剣を突き刺したので、動けないのだ。仕方ないので、僕は治癒魔法をかけた。
『ヒール』
すると、グライダの足が光始め、傷がどんどん治っていく。周りから見ていたドルトンもダリアも狩人達も驚きすぎて口を開けたまま動かない。
「シルバー殿は神なのか?」
「いいえ。僕が神なわけないでしょ。これは治癒魔法だよ。」
すると、モモカがドルトンに向けて言った。
「ドルトンさん。事情を説明してくれるんでしょうね。」
「わかりました。では、馬車の中で説明いたしましょう。」
御者の男性が出発の用意を始め、狩人達は再び配置に着いた。そして、僕達はドルトンと一緒に馬車の中に戻った。当然、グライダはその場所に置いていく。
「こちらはこの国の王子デルタ様と王女シグマ様です。私とダリアはお二方にお仕えする近衛騎士です。」
「やっぱりね。でも、どうして王子様と王女様がこんな場所にいるの?」
すると、ドルトンが説明を始めた。
「少し複雑なんです。秘密なんですが、現在テドラ国王が重い病にかかっているんです。そこで、第1王子を国王にと声が上がったんですが、第1王子が突然お亡くなりになってしまって、第2夫人のシルビア様との間にできた第2王子のデルタ様と第1王女のシグマ様を王宮にお連れすることになったのです。ですが、現国王のテドラ様の弟君のジェット殿がそれを快く思っていらっしゃらないんです。」
「どうして?」
「現国王はエルフ族との争いを平和的に解決する方法を模索していたのですが、ジェット殿は自らが国王となってエルフ族を服従させ、この大陸をドワーフ族の支配する国にしようと考えているのです。」
するとリリーが聞いた。
「一ついいかしら。第2夫人はどうしてるの?」
「シルビア様は、シグマ様をご出産されてすぐにお亡くなりになりました。ですから、私とダリアがテドラ様とシグマ様をずっとお育てしてきたのです。」
「そうなんだ~!」
「ドルトンさんとダリアさんは夫婦なの?」
なんか2人が顔を赤くした。
「いいえ。我々にはデルタ様とシグマ様をお守りするという役目がありますから。」
「でも、お互いに好きなんでしょ?」
なんか、さらに2人がもじもじ始めた。
「まっ、いいわ。私達が王都まで護衛するわね。いいわよね? シルバー!」
「そのつもりだよ。」
「本当ですか?! ありがとうございます。皆さんがいてくれれば心強いです。」
その後は何もなく順調に馬車は進んだ。そして、ドワーフの国ドラッコの王都ビザンツに到着した。




