王都ビザンツ行の乗合馬車
僕はリリーとモモカとトロルドと4人でドワーフの国ドラッコ王国に来た。僕達は馬車を調達しようとしたが、どこに行ったらいいかわからない。そこで、目の前の金物屋の主人に聞いてみた。
「すみません。僕達旅の者なんだけど、馬車が手に入るところって知りませんか?」
「お嬢ちゃん。馬車は売ってねぇよ。乗合馬車が出るはずだから狩人ギルドに行ってみな。そこの角を曲がった右側だ。」
「ありがとうございます。」
リリーもトロルドもモモカも笑いをこらえている。僕が少女に間違えられたのがおかしいんだろう。腹が立ったが無視することにした。僕達は狩人ギルドに行った。すると、外まで酒の匂いが漂ってくる。臭い。中に入ると、受付には胸の大きなドワーフの女性がいた。
「すみません。乗合馬車で王都に行きたいんだけど。」
「そうかい。ちょっと待っておくれ。」
受付の女性が何やらテーブルの下から銅板のようなものを取り出した。
「ここに手を置いておくれ!」
僕が手を置いても何の反応もしない。
「あらやだ! あんた達どこの住人だい? 登録できないじゃないか。」
僕達はかなり焦った。事情を聴くと、馬車に乗るには身分証明が必要なようだ。僕達は手形の登録をしていない。だから、身分証明ができないのだ。僕達は、ものすごく田舎で生活していたので身分証明がないのだと説明した。
「仕方がないわね。なら、ここで登録させてあげるわよ。一人ずつこの銅板に手を置いて名前を言ってごらん。」
僕は手を置いて名前を言った。
「シルバー」
すると、銅板が少し光ってすぐに元に戻った。それから、リリー、モモカ、トロルドの全員が登録を終えた。
「この切符は個人登録してあるから、本人以外は使えないよ。なくしても再発行はしないからね。」
「うん。」
僕達は切符をもらって乗合馬車の出発地点まで来た。すると、馬車の持ち主と狩人のような人達が数人いた。恐らく護衛だろう。
「出発まで後1時間だよ。ここで待ってるかい?」
「どうする?」
「あの店で軽く食事でもしようか。」
僕の指さした方向に定食屋があった。そこで、軽く食事をすることにした。店の中に入ると、定食屋にもかかわらず酒臭い。我慢しながら軽食を注文した。しばらくして出てきた料理は、鳥を揚げたようなものだ。軽食のはずなのにやけに量が多い。僕は食べきれない肉を空間収納に仕舞った。
「シルバー殿は小食ですな。」
すると、モモカが言った。
「シルバーさんはあなたとは違うのよ。」
リリーもトロルドとモモカの関係に気付いたのか、僕を見た。僕も目で合図を送った。それから、乗合馬車のところに行くと、すでに出発の準備が整っていた。馬は4頭だ。馬車の中には、僕達を含めて8人いる。
「この馬車って馬4頭いるけど、この人数を王都まで運べるのかな~?」
「かなり厳しいでしょうね。」
「シルバー殿。恐らく途中で馬を交代させるんじゃないですかね?」
すると、僕達の話が聞こえていたのか御者の男性が教えてくれた。
「この馬車は我らドワーフ族の魂の結晶だ! どんなに大勢が乗っても、重さは50㎏ぐらいになるように魔法が掛けられているのさ。」
するとリリーが感心したように言った。
「さすがね。」
「お嬢ちゃん。どこの出身だい? 相当田舎から出てきたんだな。アッハッハッ」
僕達は他のお客と一緒に馬車に乗った。僕の左にリリー、僕の右にモモカ、その隣にトロルドだ。他の4人は家族連れだ。王都まで5日ぐらいかかるとのことなので、僕達は挨拶することにした。
「僕はシルバーだよ。5日間、よろしくね。」
僕が挨拶すると、夫婦も子ども達も不思議そうな顔をしていた。構わずリリーもモモカもトロルドも挨拶をした。すると、向かい合わせに座っている父親から挨拶してきた。
「俺はドルトンだ。こっちは妻のダリア、息子のデルタと娘のシグマだ。よろしく頼む。」
夫婦は二人ともまだ若く見える。どう見ても20代だ。息子のデルタは10歳ぐらいで娘のシグマは5歳ぐらいだろうか。
「君達は王都に何しに行くんだ?」
「観光ですよ。」
「観光ねぇ~! 今にもエルフ達と戦争が始まるかもしれないのにのんきだね。」
「そうですね。でも、生きてるうちに1度は王都を見学したいじゃないですか?」
「それもそうだな。何せ、王都ビザンツは1000年以上の歴史があるからな。一度見ておくのもいいだろうな。」
「ドルトンさん達はどうして王都に行くんですか?」
「・・・・・」
ドルトンさんが言葉に詰まった。すると、右端に座っている妻のダリアさんが慌てて答えた。
「この子達のおじいちゃんに会いに行くんですよ。」
トロルドがダリアさんの言葉を真に受けて返事をした。
「そうですか? それは楽しみですな。」
トロルドもリリーも何も疑ってない様子だが、僕とモモカは彼らのことを不審に思った。その後、馬車が王都に向かって出発した。最初の街はインデリーだ。僕達の馬車の周りでは、ドワーフ族の狩人が4人で警護に当たっていた。
「シルバー殿。なんか警護が厳重のような気がしますけど。」
「確かにね。もしかしたら魔獣でも出るのかな?」
すると、御者の男性が教えてくれた。
「ここら辺だと草原が多いから、ホーンウルフのような魔獣が出るんだよ。」
御者の話を聞いてトロルドが不用意に言ってしまった。
「ホーンウルフなら1000匹で来ても怖くないですな。シルバー殿。ワッハッハッ」
トロルドの言葉を聞いて御者の男性もドルトン一家も驚いていた。すかさずモモカがフォローする。
「トロルド。お前、魔王にでもなったような夢でも見たのか?」
モモカの鋭い視線にトロルドも気づいたようだ。
「アッハッハッ 一度言ってみたかったんだ。冗談ぐらいわかってくれよ。」
「お前、言っていい冗談と駄目な冗談ぐらいわかるだろう。」
トロルドはモモカに叱られて小さくなってしまった。それからしばらくして、外が騒がしくなった。狩人達の大きな声が聞こえてきた。御者席の男性が僕達に注意を促してきた。
「あんたら、魔獣が出たぞ!」
すると、ドルトンとダリアが剣を抜いて子ども達を庇うように身構えた。その行動はまるで家来が主君を守るような動きだ。僕もモモカもその動きを見逃さない。
「ハイオークだ! ハイオークが集団で来たぞ!」
「お客さん。外に狩人達がいるが一応逃げる用意はしといてくれよ。」
トロルドとモモカが外に出た。それを見て御者の男性が驚いている。
「おい! 仲間達を止めなくていいのか? 相手はハイオークだぞ! 食われちまうぞ!」
「多分大丈夫よ。」
僕とリリーが冷静な顔で座っているのを、ドルトンさん達は不思議そうに見ていた。
「あの2人が外に出たから、もう大丈夫ですよ。心配しなくても。」
外に出たトロルドは大剣でハイオークを一刀両断している。モモカも普通の剣を抜いて、ハイオークを討伐している。
「おめぇさん達、強いじゃねぇか! わしらが出る幕がないぞ!」
ドワーフの狩人達もそれなりに強かった。ハイオークはオークの上位種でオークジェネラルと同じぐらいの強さだ。誰も傷を負うことなく、10匹のハイオークを討伐してしまった。相当強いことが分かる。
「このハイオークはどうするんだ?」
トロルドが狩人達に聞いた。すると、狩人達は困ったような顔をしている。普段なら解体して、必要な部位を持って帰るのだが、あまりにも数が多いのだ。そこで、僕が馬車から降りた。
「僕が魔法袋を持ってるから、それに仕舞うといいよ。はい! これ!」
僕はトロルドに魔法袋を手渡した。トロルドがその中にハイオークの死体を入れていく。そしてすべて入れ終わった後、再び馬車が動き始めた。
「おかげで怪我人を出さずに済みました。ありがとうございました。」
御者席の男性が馬車を操縦しながら言ってきた。
「僕達は全員狩人ですから。」
「そうだったんですか? それならこれからも心強いですよ。」




