久しぶりの里帰り
それからどのくらい時間がたっただろうか、僕が目を覚ますとベッドの上にいた。周りを見ると懐かしい光景が見えた。僕は隣にいるリリーに声をかけた。
「リリー! ここは?」
「そうよ。私達が育った家よ。」
「僕はどれくらい気を失っていたの?」
「1日かな。」
「そんなに?」
「そうよ。」
「兵士達はどうしたの?」
「みんな帰ったわよ。たぶん自分達の故郷に帰ったんじゃないの。」
「そうか~。なら、戦争は起こらなかったんだね。」
「そうよ。魔王に逆らう勇気のある人なんてめったにいないわよ。」
「良かったよ。後は国民議会を成功させなくっちゃね。」
「そうね。でも、まだ時間があるわ。今はゆっくり休みましょ。」
僕はリリーの手を握った。リリーも僕の手を強く握り返してきた。僕は心から幸せを感じた。すると、ローズおばあちゃんがやってきた。
「シルバー! 気が付いたのかい。なんか昔を思い出すわね。」
「まあね。ローズおばあちゃんは元気にしてたの?」
「おかげさまで快適じゃよ。魔王城でもメイドさん達がよくしてくれおるわ。ブラッドさんやゲーテさんもじゃよ。」
「よかった~!」
「シルバーは優しいな~。リリーには勿体ないの~。」
「おばあちゃん! 私だってシルバーの役に立ってるのよ!」
「そうじゃな。お前達は姉弟のように育ったんじゃからな。」
リリーが少し不満そうだ。
「ところで、シルバー! お前、今何しておるんじゃ?」
「アマゾル大陸で戦争してたから、それをやめさせたんだよ。」
「そうかい。ただ、無茶はしちゃだめじゃよ。人に任せるところは任せないとな。今のお前には頼りになる仲間がいるんじゃからな。もっと、頼ってもいいんじゃよ。」
「ありがとう。ローズおばあちゃん。」
その日は久しぶりにローズおばあちゃんの手料理を食べた。やはり最高だ。この家を出て、リリーといろんな場所に行っていろんな料理を食べたが、ローズおばあちゃんの料理が一番うまい。それから、大分時間が過ぎ、いよいよ各街の代表者が集まる日が来た。僕とリリーはジュネブ村に行った。
「ミーアの家に行きましょうか。」
「どうして?」
「だって、事情を説明してなかったでしょ。」
僕達がミーアの家に行くと、キャロットと両親、ヨーコとその両親、ジョンにポメルさんまでいた。僕とリリーの姿を見ると全員が駆け寄って来た。そしてみんなから質問攻めにあった。
「シルバーさん。先日、シルバーさんの映像と声が流れたのでみんなで聞いたんですが、詳しいことを教えてくれませんか?」
「そうだよね。みんなには何も説明してなかったもんね。」
「『知恵のある者』の正体がグレーターデーモンだったとか。それを魔王が現れて討伐したとか。魔王ってシルバーさんですよね?」
「ライアン国王とベンガル国王も討伐なされたんですか?」
「みんなに説明するね。最初に『知恵のある者』は僕の仲間が調べて、グレーターデーモンだってわかったんだよ。グレーターデーモンは悪魔族だから、人々の悲しみや苦しみの感情を好むんだ。以前、『知恵のある者』が配った肥料は、実は土地の栄養をすべてなくすものなんだ。」
するとキャロットの父親が大声で言った。
「そんなものを使ったらこの国の農業は壊滅するじゃないか!」
「そうさ。グレーターデーモンはみんなが困るのを楽しんでたんだよ。」
キャロットの母親も怒りが収まらないようだ。
「なんて卑劣な奴なの!」
「だから、僕が討伐したんだよ。」
今度はミーアの父親が聞いてきた。
「でもなぜライアン国王やベンガル国王まで。」
「あの2人は自らが王の地位にいたいがために、グレーターデーモンに女性や子どもを貢物として差し出していたんだ。」
「酷いにゃ!」
「その女性や子どもはどうなったぴょん。」
「人族に奴隷として売り渡されたり、殺されただろうね。しかも惨い方法で。」
「許せないコン。」
「そうだよ。だから、2人の王も討伐したんだ。」
「この国をどうするおつもりなんですか? シルバーさんが魔王として統治なされるんですか?」
「いいや、この国を新たに作り直すのさ。国民が選んだ代表者で議会を作るんだ。その議会がこの国の政治を行うんだよ。」
「それで各街の代表者達をこの街に集めたんですか?」
「そうさ。この村はずっと中立地帯だったからね。戦争中もどちらの国にも加担しなかったんでしょ。つまり、この村は平和の象徴なんだよ。だから、この村を新しい国の首都にしたいんだ。」
「この村をですか?」
「そうさ。港にも近いし、立地条件もいいと思うよ。」
みんなが真剣な表情で考え込んでいた。しばらく考え込んだ後、ヨーコの父親が言った。
「シルバーさんの考えはよくわかりました。私達に協力できることがあれば言ってください。」
「なら、お願いしたいことがあるんだけど。」
「なんでしょう。」
「議会のための建物を作りたいんだ。どこかいい場所を見つけといてくれるかな。」
「わかりました。」
僕とリリーは代表者が集まっている中央広場に向かった。中央広場には、すでにアマゾル大陸全域の各街の代表が集まっていた。僕は魔王の姿に変身した。
「みなのもの。良く集まってくれた。」
全員がオレに平伏している。
「立ってくれたまえ。オレはこの国の王になるつもりはない!」
オレの言葉で、みんなに動揺が広がった。
「オレはこの国に議会を作るつもりだ。議会を構成する議員は、各都市で選挙で選ばれたものが議員になればいい。そして、この大陸に一つの国家を作って欲しい。」
すると、体格のいい犬耳族の男性が前に出た。
「何故魔王様はこのアマゾル大陸の人々を助けてくれたのですか?」
すると、オレの隣にいたリリーが答えた。
「魔王シルバーは、女神ナルーシャ様からこの世界の平和を託されたのよ。」
「な、な、なんと! ナルーシャ様からですか?! それは誠ですか?」
「ああ、本当さ。オレは混乱していたアスラ魔王国を統一した。そして、事情があってこのアマゾル大陸にやってきたんだ。」
すると、オレとリリーに付いてきていたミーアとキャロットとヨーコが大声で言った。
「そうにゃ! シルバー兄ちゃんは、私達が人族に捕まったのを助けてくれたにゃ!」
「シルバー兄ちゃんは、私達をアマゾル大陸までつれてきてくれたぴょん!」
「シルバー兄ちゃんは嘘はつかないコン!」
3人娘の言葉を聞いて代表者達は安堵したようだ。どうやら、オレに対しての警戒心が薄らいだようだ。すると、今度は獅子耳族の男性が言ってきた。
「我が種族の族長だったライアンがみんなに迷惑をかけた。この場で謝罪させてほしい。すまなかった。」
今度は虎耳族の男性が前に出た。
「俺も同じだ。ベンガルが皆さんにご迷惑をおかけした。本当に申し訳なかった。」
先ほどの犬耳族の男性がみんなに言った。
「みんな、どうだろう。すべてのわだかまりを捨てて、新たに第一歩を踏み出そうじゃないか。」
どうやら、みんなも納得したようだ。ここで、犬耳族の男性が言った。
「ですが、魔王様。どうしてこの場所にみんなを集めたのでしょうか?」
「ここは戦時中も唯一中立を守った村だ。つまり、この国の平和を象徴する村だ。この村を新しい国の首都にしたいと思うんだが、どうだろうか?」
「それはいい! この村なら港にも近いし、大陸の中央にあります。私は賛成です。」
兎耳族の男性が答えた。すると、次々と賛成意見が出た。
「では、ここを新たな国の首都としよう。」
オレがミーアの父親を見ると頷いている。頼んでおいた場所が見つかったようだ。オレ達はミーアの父親達について街の外れまで来た。そこは、畑の反対側に位置している何もない草原地帯だ。
「みんな! これからここにこの国の議事堂を作るから!」
先ほどの犬耳族の男性が言った。
「確かにここなら十分な広さがありますな。なら、この場所に明日から工事に入らせましょう。」
オレはリリーを見た。リリーもうなずいている。
「工事の必要はないさ。見ているがいい。」
オレは大気中の魔力を集めた。そして体の中から魔力を解放していく。
『クリエイト』
オレが魔法を唱えると、辺り一面に黒い靄が現れた。そして、草原の空気が揺らいで蜃気楼のように見える。徐々に靄が晴れていくと、そこにはジョンの病院と同様に真っ白な議事堂が出来上がっていた。
「ま、ま、まさか?!」
「奇跡だ!」
「議事堂が一瞬で?!」
全員の驚きは半端ではない。
「さあ、中に入ろう!」
俺とリリーを先頭にみんなで中に入って行く。正面の入り口から中に入ると、大きなロビーが広がっていた。1階には大会議室、小会議室があり、階段を上がるとそこには巨大な議場があった。そして、議場の他にもいくつもの部屋があった。
「何と立派な建物なんだ!」
「喜んでももらえてよかったよ。じゃあ、早速大会議室に行こうか。」
大会議室ではそれぞれが自己紹介をして、議長と副議長を決めることになった。議長は先ほどの体格のいい犬耳族の男性シベルンが就任し、副議長には獅子耳族のレオと虎耳族族のティグレが就任することになった。そして、各大臣だが、オレの意見も取り入れてもらった。法務大臣にミーアの父親フォールド、農業大臣にキャロットの父親ロップ、財務大臣にヨーコの父親フォックス、厚生大臣にジョンが就任することになった。他、軍部大臣と建設大臣は議員の中から選ばれた。
「では、この国の名前を決めましょう。」
早速、シベルンがみんなに言った。なかなか意見が出ない。すると、恐らく最長老だろう狼耳族の男性が言った。
「大昔の言い伝えがある。我々獣人族はエルフ族やドワーフ族と同様に妖精族だった。我々の種族は始祖『アニム様』より始まったと言われている。そこでじゃ。この国をアニム共和国としてはどうかのう?」
「俺もその話は祖父から聞いたことがあるぞ!」
「『アニム共和国』————いいじゃないか!」
こうして、新たな国をアニム共和国として、首都をジュネブと定めた。
「終わったわね。シルバー。」
「そうだな。これで、この大陸も平和になるさ。」




