ティガ王国ケープシティー
僕とリリーはティガ王国に向かって歩き始めた。歩き始めてかれこれ2時間近く経つが、
いまだに人とすれ違うことはない。
「本当に人がいないよね~!」
「戦争中だからかもね。」
「ところで、戦争の原因って何かしら?」
「以前、キャロット達が言っていた『知恵のある者』って呼ばれる人族が気になるんだよね。」
「どうして?」
「だって、お金ならともかくとして、女や子どもを貢がせてるんでしょ? 怪しいよ。」
「確かにね。もしかしたら、女や子どもを人族の国に奴隷として引き渡しているかもしれないわね。調べてみましょうか?」
「いいけど、まずは本人がどこにいるか調べないと。」
「なら、ブラッドに協力してもらったら?」
「そうだね。ここを記録地点にして、一回魔王城に戻ろうか?」
「うん。」
オレとリリーは魔王城に戻った。オレはアスラ魔王国に戻る時は常に精悍な男性の姿に戻るようにしている。オレ達が戻るとすぐにゲーテが気づいてやって来た。
「ゲーテ! オレの執務室にブラッドを呼んでくれるか。」
「畏まりました。」
オレとリリーが部屋で待っていると、ブラッドがやって来た。
「魔王様! お帰りなさいませ。何かご用ですか?」
「実は獣人族達の争いに、人族の『知恵のある者』っていう奴が関わっているようなんだ。彼がどこにいるのか、彼が何者なのか調べてくれるか!」
「畏まりました。では、すぐに調べさせましょう。」
「オレ達はまたアマゾル大陸に戻るから。それと、セリーヌはどうしてる?」
「セリーヌは、今、イングス聖教国に行っておりますが。」
「何かあったのか?」
「いいえ。彼女は人族の国を調べるのがお役目ですので。」
「そうだったな。」
隣でリリーがオレを見た。
「セリーヌのことが気になるの?」
「そうじゃないさ。彼女はオレの直轄だからね。彼女がどこにいるかぐらい知っておかないとな。」
僕とリリーは再び記録地点まで転移し、ティガ王国に向けて歩き始めた。しばらく進むと、草原の向こうに大きな城壁が見えた。
「街みたいだね。」
ゲーテからもらった地図で確認すると、ケープシティという街のようだ。僕達は城門の検問所に向かった。すると、虎耳族の兵士が2名いた。
「お前達はどこから来た?」
「はい。僕達はジュネブ村から来ました。」
「何用だ?」
すると、リリーが僕に身体をくっつけてきた。リリーの豊満な胸が僕の腕に当たる。
「新婚旅行よ。」
「この戦時中に平和なことだな。」
もう一人の兵士も忠告してきた。
「確かにジュネブ村は中立で平和かもしれんが、このティガ王国では何があるかわからんから注意しろよ。」
「はい。ありがとうございます。」
僕とリリーは怪しまれることなく街に入ることができた。街に入ると、戦時中にもかかわらず人々で賑わっている。大通りの店も繁盛しているようだった。広場では様々な種族の子ども達が仲良く遊んでいた。
「この国が戦争してるなんて嘘みたいね。」
「そうでもないよ。あそこ!」
僕が指をさすと、そこには完全武装の兵士達がいた。どうやらこの街を守る兵士達のようだ。
「せっかくだから、この国の狩人ギルドの様子を見に行こうよ。」
「わかったわ。」
僕とリリーが狩人ギルドに行くと、中には結構な数の人がいた。僕達が中をキョロキョロしていると、受付の女性が声をかけてきた。
「何か御用ですか?」
見るとそこには兎耳族の巨乳のお姉さんがいた。だが、変身したリリーも負けてはいない。
「登録するにはどうすればいいの?」
「この紙に必要事項を記入してもらうだけですよ。」
紙を手に取ってみると、名前を記入するだけだった。そこで、僕とリリーは用紙を受け取って名前を書いて渡した。少し待っていると、狩人ギルドの会員メダルを渡された。これがこの国では身分証になるようだ。
「シルバーちゃんにリリーちゃんね。私はジャネットです。困ったことがあったら聞いてくださいね。」
「僕は男なんだけど~。」
「ご、ごめんなさい! てっきり女の子だと思って。」
「別に気にしてないからいいよ。」
「でも、シルバー君って本当にキレな顔してるわね。」
ジャネットさんがわざと胸を強調してきた。それを見たリリーがすかさず質問する。
「狩人にランクとかないの?」
「ランクって何ですか?」
「仕事の内容を区別するものよ。」
「そんなものありませんよ。」
「なら、掲示板のどの仕事を受けてもいいってことね?」
「いいですけど、何かあっても自己責任ですよ。」
「わかったわ。ありがとう。」
僕とリリーは掲示板に向かった。途中でリリーが僕の手を抱きかかえるように掴んできた。再びリリーの胸が僕の腕に当たっている。恐らくわざとだろう。
「リリー! あれ見て!」
掲示板に『孤児を見つけたらギルドまで!』と、大きく掲示されていた。早速ジョンさんとポメルさんが活動を始めたようだ。掲示板を見ても、危険になるような魔獣の討伐依頼もない。ゴブリンやらホーンラビットの討伐程度のものだけだった。
「リリー! 何か食べようよ。」
「うん。実は私もお腹が空いてたんだ~!」
僕達は街の食堂に入った。意外にも食堂はガラガラだ。
「いらっしゃいませ!」
「2人なんだけど。」
「そっちの席にどうぞ!」
僕達が席に着くと、猫耳族のウエイトレスがメニューと水を持ってきた。
「注文が決まったら呼んでくださいね。」
メニューを見るとなぜか肉料理が多い。野菜料理にはことごとく『売り切れ』の紙が貼られていた。仕方がないので、僕はリリーと同じステーキを頼むことにした。
「このお肉、すごく柔らかいね。」
「そうね。まずまずね。でも、どうしてお客さんがいないのかな~?」
すると、僕達に水を入れに来てくれたウエイトレスに聞こえていたようで、ウエイトレスが教えてくれた。
「野菜が入荷しないんですよ。だから、野菜料理もできないし。本当はそのステーキだって付け合わせで、野菜があるはずなんですよ。」
「どうして野菜が入ってこないの?」
「ここ最近、野菜が不足してるんです。最初は新しい肥料でたくさん採れたのに、今は全く育たなくなったらしいです。」
「新しい肥料って?」
「私もよく知りませんが、なにやら『知恵のある者』と呼ばれる人族が関係してるみたいですよ。」
「そうなの?」
「はい。」
どういうことだろう。新しい肥料で喜ばれていたのに、急に畑で作物が育たなくなるなんて。僕とリリーは、街の畑に行ってみることにした。実際に畑に来て土を手に取って確認すると、とんでもない事実が判明した。
「シルバー! この畑、栄養分が全くないわよ。」
「そうだね。」
「このままだと、この畑は使い物にならないわよ。」
「なんとかしないと。」
本来、畑の土は、枯葉や家畜の糞尿から肥料を作ってそれを土地に混ぜるのだが、時間がかかりすぎる。仕方がない。魔法を使うしかない。僕は大気中から魔力を集め、体の中に集中させていく。そして、背中から翼を広げて上空に舞い上がった。僕の身体から黒いオーラが溢れ出ている。
『ファルタライザ』
すると、この地域一帯に光の雨が降り注ぎ始めた。街の人々も上空を見上げている。枯れかけていた花が再び見事に花を咲かせる。木々も季節外れの花で満開だ。この地域一帯が幸せの空気に包まれた。
「俺達なんで戦ってるんだ?」
「こんな鎧なんか必要ないじゃないか。」
兵士達は鎧を脱ぎ始めた。さらに、罪を犯した者達は目から涙を流しながら、地面にうずくまった。
“これでもういいかな。”
僕はリリーのもとに帰って翼をしまった。
「何をしたの?」
「この地域一帯に肥料をまいたんだよ。ただ、魔法の肥料だけどね。」
「さすがシルバーね。」
リリーが僕を抱きしめてきた。身長が僕の方が小さい分、大きくなったリリーの胸が気持ちいい。
「さて、次の街に行こうか?」
「うん。」




