食糧庫襲撃
僕達はアマゾル大陸のライオネル王国の港町ナオツに到着した。これからミーア達の故郷に行こうとした矢先に、ティガ王国の軍勢が攻めてくるという情報が入った。
「あれはライオネル王国の兵士達です。恐らく、ティガ王国軍を迎え撃つつもりなのでしょう。もうすぐ、ここは戦場になります。ここは危険です。早く行きましょう。」
ミーア、キャロット、ヨーコが悲しそうな顔をしている。
「シルバー兄ちゃん。また、たくさんの人が死ぬにゃ?」
「何とかならないぴょん?」
「みんな同じ獣人族だコン!」
するとリリーが聞いてきた。
「どうするの? シルバー!」
昔の時代にも同じようなことがあった。その時は、僕が魔王として圧倒的な力を示し、両国の共通の恐怖となった。そのため、2つの国は戦争をやめ、僕に対抗するために両国が同盟を結んだのだ。ある意味平和になったのだが、今回は違う方法で平和にしたい。
「リリー! ティガ王国軍がここまで来るには相当な食糧が必要でしょ。」
「そうね。」
「なら、その食料をもらおうよ。」
「どうやって?」
「恐らく食料は指揮官と一緒の場所にあるはずだよね。」
「なら、そこを攻めるのね?」
「まあね。でも、殺しちゃだめだよ。」
「わかってるわ。」
僕は3人娘とジョン夫妻に岩陰に隠れるように言った。そして、その場所に『気配遮断』の魔法をかけてみんなの姿を見えなくした。さらに、安全のためにみんなの周りに結界を張った。
「みんな、ここから動かないでね。」
「わかったぴょん。」
「気をつけてコン。」
「早く帰ってくるにゃ。」
僕とリリーは気配遮断で姿を消して翼を出して上空に舞い上がった。辺り一面を見渡して、ティガ王国軍の司令官のいる場所を探した。
「シルバー! きっとあそこよ。」
少し開けた場所には、複数台の馬車と食糧庫のような建物がある。建物は急いで作ったと思われる簡易的なものだ。僕とリリーは食糧庫の前に舞い降りたが、誰も気づかない。建物のカギを開けて中に入り、すべての食料を僕の空間収納に仕舞った。そして、食糧庫に魔法で火をつけた。
「おい! 火事だ! 食糧庫が燃えてるぞ!」
「消せー! 早く火を消すんだー!」
兵士の中には魔法で手から水を出している者達もいる。何とか消火したが、食料庫の中を確認すると、建物の中には何も残っていなかった。慌てた司令官は近くにいる側近に指示を出した。
「どういうことだ! これでは兵士達の食料がないではないか! 前衛部隊に引き返すように指示を出せ!」
「ハッ」
兵士達が慌てて森の中に入って行く。僕とリリーはミーア達のいる場所に戻った。
「もういいわよ。みんな。」
「どうでしたか?」
ジョンが聞いてきた。
「食糧庫にあった食料は全部いただいてきたわ。」
「なるほど。それでは戦争をしようにもできませんね。」
「まだだよ。だって、食料が補給されればまた戦おうとするでしょ。」
「では、どうするんですか?」
「こうするのさ。」
僕が上空に両手をかざすと、晴れ渡っていた空に真っ黒な雲が現れた。そして、空が光ったと思ったら雷の音が聞こえてくる。僕は、ティガ王国の軍隊がいる方向に向かって魔法を発動した。
『シャドウメルトレイン』
ジョン達のいる場所からは見えないが、ティガ王国の兵士達は空から真っ黒な雨が降ってきたことでパニックになっている。
「どうしたのだ? この雨は何なんだ?」
「隊長! 大変です! 我々の武器がどんどん溶けています!」
「どういうことだ?」
すると隊長の持っていた剣も、着ている鎧もどんどん溶け始めた。
「天罰だ~!」
「きっと天罰だ! 争ってばかりいるから神がお怒りになったのだ~!」
隊長は黒い雨が降ってくる空を見上げて呟いた。
「これは本当に神の仕業なのか? 我々は一体・・・・」
しばらくしてミーアが聞いてきた。
「シルバー兄ちゃん。どんな魔法にゃ?」
「戦えないように武器を溶かしたんだよ。」
「凄いぴょん!」
「さすが魔王様だコン!」
うっかりヨーコが口を滑らしてしまった。
「あっ?!」
ヨーコが慌てて口を閉じるがもう遅い。ジョンとポメラは驚いた様子だ。
「ま、ま、魔王?! 誰のことですか?」
仕方がないので、正直に言うことにした。
「僕さ。僕はアスラ魔王国の王なんだよ。」
ポメラは大きな声を出して驚いた。
「ええ————!」
だが、ジョンは至って冷静だ。
「やはりそうでしたか。シルバーさんの名前を聞いた時に、どこかで聞いたことがあるとは思いましたが、やっと思い出しました。ライオネル王国内でも新たな魔王が生まれたと大騒ぎでしたから。」
「怖くないの?」
「どうしてですか? シルバーさんは優しいじゃないですか?」
「ならいいんだ。ただ、僕とリリーが魔族なのは秘密ね。」
「わかりました。」
僕達はミーア達の故郷に向かって出発した。海沿いの街道では何人もの獣人達とすれ違った。そして、見渡す限り一面が砂で覆いつくされた浜辺に来た時、突然ミーア、キャロット、ヨーコが立ち止まった。
「ここにゃ!」
「そう、ここだぴょん。」
「確かにここだコン。」
「どうしたの?」
リリーが優しく聞くと、ミーア達が泣き始めた。
「ここで捕まったにゃ。ワ———ン」
「ワ————ン」
どうやらこの浜辺で捕まったらしい。浜辺の左側には森があった。浜辺から小舟で来た人族の男達に追いかけられて、3人は森の中に逃げ込んだようだが、3人とも見つかって人族の国に連れていかれたようだ。
「でも、不思議ですね。」
「何が不思議なの。ジョンさん。」
「そんなに小さな船で人族の大陸にまで渡れるとは思えません。」
「だとしたら大きな船に乗せられたってことよね?」
ここで、ポメラさんが言った。
「獣人族の中に人身売買の協力者がいるのよ。」
まさかとは思ったが、それが一番正しいのだろう。
「でも、どうしてこの場所なの?」
僕は素朴な疑問を抱いた。他にも獣人族の子どもはたくさんいる。どうしてこの場所なのか不思議だ。
「多分、ジュネブ村が中立的なのを許せない者がいるのかもしれません。この国は、ライオネル王国とティガ王国が争っていますから。」




