獣人族のジョンとポメル
僕達は店員さんに紹介された宿屋に行くことにした。この港町の一番南側にあるらしい。倉庫街を進んでさらに南に南下すると、ポツンと1件だけ家があった。どうやら、宿屋のようだ。看板も何も出ていない。馬車を止めようと裏に回ると、女性が魚を干していた。
「あら、いらっしゃい。中にどうぞ!」
魚を干していた女性は、仕事を途中のままにして僕達を中に案内してくれた。
「良くここがわかったわね。」
「街の食堂で教えてもらったにゃ。」
「探したぴょん。」
「遠かったコン。」
すると、奥から男性が出てきた。恐らくこの宿の主人だろう。男性はミーア達を見るなり驚いた様子で声をかけてきた。
「君達は獣人族だね?」
「そうにゃ。」
宿屋の男性と女性がいきなり帽子を取った。すると、そこには犬耳が見えた。
「私達も獣人族なのよ。」
「本当だぴょん。」
すると、自己紹介を始めた。
「俺は犬耳族のジョンだ。」
「私は犬耳族のポメルよ。」
僕達も全員自己紹介をした。僕が男だと言って驚かれたのは言うまでもない。
「ところで、ミーアちゃん達はどうしてこの大陸にきたの?」
「私も、キャロットも、ヨーコも攫われたにゃ。」
「ま~! 何てこと!」
「でも、シルバー兄ちゃんに助けられたコン。」
すると、ジョンもポメルも自分のことのようにお礼を言ってきた。
「助けていただいてありがとうございます。獣人族の子どもはたまに攫われるんです。人族達が奴隷にするみたいで。」
「酷い話ね! 許せないわ!」
「そうですね。ですが、今、獣人族の国では戦争状態ですので、誘拐を防ぐことまで
気が回らないのです。」
「人族も人族だけど、獣人族も獣人族よね!」
リリーの怒りが収まらないようだ。
「これからリリーさん達はどうなさるんですか?」
「私達は3人を故郷に送っていくわよ!」
すると、ジョンもポメルも顔が暗くなった。
「今、アマゾル大陸に行くのは危険です。ライオネル王国とティガ王国の戦争が激しくなってますから。私達も、戦争に巻き込まれないようにこの大陸に避難してきたんですよ。」
「故郷が心配だにゃ!」
「どこなの?」
「ジュネブ村ぴょん。」
「あそこは中立地帯だから、今は大丈夫よ。でも、そのうちきっと戦争に巻き込まれるわ。」
3人娘が僕とリリーを見た。
「大丈夫さ。明日には海を渡るから。」
「でも、クラーケンはどうるにゃ?」
するとリリーが冗談めいて言った。
「あんなに大きなイカを討伐したら、ミーアは食べきれるの?」
「無理にゃ。1週間でも無理にゃ!」
暗い雰囲気になりかけたが、その場に笑いが起こった。そして、ジョンが言ってきた。
「明日出発するってのは冗談だよな?」
「本当よ。クラーケンの討伐も本当よ。」
すると、心配そうにポメルが言った。
「でも、クラーケンは海の王者ですよ。そんな魔物を討伐だなんて。」
僕が魔王だと知っているミーア、キャロット、ヨーコは必死に口を抑えている。するとリリーがジョンとポメルさんに言った。
「あなた方には正直に言うわね。私とシルバーは魔族なのよ。実は、魔王様の命令で、この子達を親元まで送っていくの。それと、魔王様はこの世界の平和を女神ナルーシャ様から託されたの。だから、私達はアマゾル大陸の戦争を終わらせに行くよ。」
「その話は本当ですか?」
リリーの言葉を聞いて、ジョンもポメルも驚いたが、すべてを信じることができなかった。
「リリーさんとシルバーさんが魔族ですか? とても信じられません。それに、魔王が復活したのは噂で聞いていましたが、まさか女神様にこの世界の平和を託されたなんて、信じられません。」
リリーが背中から漆黒の翼を出した。
「どう? これで信じてもらえる?」
ジョンもポメルも口を大きく開けて頷いた。そして、その日はジョンの宿屋に泊まった。その日の夜、ジョンとポメルは話し合っていた。
「ポメル! 俺はアマゾル大陸に帰るぞ!」
「どうして? せっかくここまで逃げてきたのに?」
「何の関係もないリリーさんやシルバーさんが、獣人族の子ども達の面倒を見てくれているんだ! 俺にだって何かやれることはあるさ。」
「そうね。」
「わかってくれるか? ポメル。」
「ええ。なら、私も一緒に行くわ。この戦争で多くの孤児が出たはずよ。一緒に、子ども達の面倒をみましょ。」
「そうだな。俺達には子どもが生まれなかったが、獣人族の孤児達が俺達の子どもだ。」
「なら、明日、リリーさんとシルバーさんにお願いしてみましょ。」
そして翌朝、僕達が起きていくと、ジョンとポメルが真剣な顔で言ってきた。
「私達もアマゾル大陸に連れて行ってください。戦争で苦しんでいる子ども達の役に立ちたいんです。お願いします!」
「いいわよ。でも、命の補償はしないわよ。」
「はい。私もジョンも覚悟は決めていますから。」
「リリー! いいんじゃない。」
「そうね。」
ジョンとポメルの荷物を僕の魔法袋に仕舞って、全員で港に向かった。港にはたくさんの船が停泊していた。どうやら、クラーケンの影響で船がすべて港に戻ってきているようだ。僕達は、昨日獣人族がいた船に行った。
「今日、この船は出航しないんですか?」
「ああ、海にクラーケンがいるからな。」
「どうしてもダメですか?」
「当たり前じゃないか!」
すると、ミーア、キャロット、ヨーコが泣きそうになりながら言った。
「おじちゃん。どうしてもダメにゃ?」
「ダメだ! ダメだ!」
するとジョンが前に出て行った。
「この子達は人族に攫われたんだ。何とか、親元に返してやりたいんだ! お願いだ! 何とか船を出してくれねぇか!」
すると、船の上から左目に眼帯をした狼獣人がやって来た。
「お前さん達はこの子達の何なんだ? そっちはどう見ても人族じゃねぇか?」
「シルバー兄ちゃんが私達を助けてくれたぴょん。」
「リリー姉ちゃんとシルバー兄ちゃんがここまで連れてきてくれたコン。」
狼獣人が再び声をかけてきた。
「この海にはクラーケンがいるんだぞ! 命の補償はねぇんだ! お前さん達はそれでもこの獣人族の子ども達を連れて行きたいのか?」
「そうだね。彼女達は親と一緒にいるべきだからね。」
「わかった! この船を出してやろうじゃねぇか!」
すると、近くにいた船員達が反対の声をあげた。
「船長! 無謀ですぜ!」
「そうです! 船長! 海にはクラーケンがいるんですぜ!」
「うるせえ奴らだな~! 何の関係もねぇ人族の姉ちゃん達が、獣人族の子ども達のために命を張ってもいいって言ってるんだよ! 嬉しいじゃねぇか!」
「わかりやした。」
「おい! みんな! 1時間後に出航だ! 準備しろ!」
「お————!」




