農業の街アグリシティー(2)
僕達が農業の街アグリシティーの近くに来た時、農産物を食い荒らす鳥の魔獣ムクの大群を見つけた。僕は魔法でムク達を全滅させたのだが、街ではそのことが話題となっていた。僕達の噂をしている男達の前を知らないふりをして通り過ぎた。すると、目の前にふわふわなお菓子のようなものを売っている店があった。
「ハヤト! あれなんにゃ?」
「ワタメさ。甘くて美味しんだぜ。一口食べれば、口の中で溶けるんだ!」
「シルバー兄ちゃん。リリー姉ちゃん。食べたいぴょん。」
「ならみんなで食べようか。」
僕は全員分買って、一人に一本ずつ渡した。一口噛むと、確かに口の中で溶けてなくなる。もの凄く甘くて不思議な食べ物だ。
「どうだ! 旨いだろ!」
「美味しいにゃ!」
「私も好きだコン!」
「私には少し甘すぎるぴょん。」
どうやらキャロットは、冷やしクリームの方が好きみたいだ。おやつを食べ終わった後は、街をぶらぶらとした。農業の街なのに、意外に武器屋が多い。当然、金物屋も多い。
「ハヤト君。この街って武器屋が多いわね。」
「そうさ。畑に野生動物や魔獣が現れるからさ。多分、どの農家にも武器があるよ。父ちゃんも持ってるもん。」
なるほど、そういうことか。確かに、畑の農作物は野生動物や魔獣達にはご馳走なんだろう。でも、そうなると畑仕事も命がけってことになりそうだ。
「そろそろ帰ろうよ。お腹も空いてきたし。」
「そうね。私もお腹が空いたわ。」
「賛成にゃ!」
「帰るぴょん!」
「早く行くコン!」
僕は3人娘に手を引っ張られた。仕方がないので、彼女達のペースに合わせて走っていくことにした。宿の前まで来ると、中からいい匂いが漂ってくる。
「母ちゃん。帰ったよ。」
「お帰り。お客さんに迷惑かけなかったかい?」
「迷惑なんかかけないよ。街を案内したんだ! 」
すると女将さんは僕達を見た。
「この子が迷惑をかけませんでしたか?」
「大丈夫だよ。メグミさん。僕はシルバー! よろしくね。」
1階の食堂スペースは結構広い。他にもお客達がいた。僕とメグミさんのやり取りを聞いてこちらを見た。すると、ミーア達が目に入ったのだろう。みんなじろじろとこっちを見ている。
「すぐにご飯を用意しますので、席で待っていてくださいな。」
ここの宿屋はその日その日でメニューが決まっている。だから、注文する必要もない。しばらくして、料理が運ばれてきた。サラダにスープ、それにパンと魚料理と肉料理が出てきた。それぞれの前に食べきれないほどの料理が並べられた。
「食べきれるか心配だぴょん。」
「食べきれなかったら私が食べるにゃ。」
「私も手伝うコン。」
3人娘がいきなり食べ始めた。僕もスープを一口すすった。
「美味しい!」
思わず声が漏れてしまう。どうやら、キャロットの好物のモロコのスープのようだ。リリーがキャロットに話しかけた。
「このスープ。キャロットちゃんの好きなスープでしょ?」
「どうしてわかったぴょん?」
「だって、すっごく美味しいもの。」
「そうだぴょん。これがモロコのスープだぴょん。」
「この肉料理は何にゃ?」
すると、メグミさんが教えてくれた。
「それはムクの肉よ。今日、たまたま主人が畑にいるときに、旅の人が退治したんだって。旅の人はそのまま行ってしまったから、大量に落ちていたムクを畑にいたみんなで分け合ったらしいのよ。美味しいでしょ?」
「美味しいにゃ!」
「私も大好きな味だコン。」
他の客がメグミさんに話しかけた。
「そうか。タクマさんはその時その場所にいたのか。運がいいよな。俺もその場にいたらムクを拾ったのにな。」
「なんかすごい数がいたらしいわよ。」
「なら、この店は当分ムク料理だな。アッハッハッ」
すると、他の客も話に加わってきた。
「メグミさん。さっきの話だけど、旅の人ってどんな奴なんだ?」
「なんか馬車に乗っていたらしいわ。」
「ほー! エールのおかわりを頼むよ!」
「メグミさん! 俺もエール、おかわり!」
「はいはい。」
リリーも3人娘も僕を見ている。
「早く食べて部屋に戻ろうか?」
「うん。」
僕達は目の前の料理をお腹一杯に食べた。やはり、キャロットは食べきれず、ミーアとヨーコが残りを食べた。僕達が席を立とうとすると、メグミさんとガタイのいい男性がやってきた。リリーが挨拶をした。
「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです。」
「そうかい。それは良かった。主人を紹介するよ。」
「今日は、ハヤトが世話になってようですまなかった。俺はタクマだ。ゆっくり休んで言ってくれ。」
タクマが僕の顔をじっと見つめた。そして、いきなり大声をあげた。
「あんた! 昼間の魔法使いじゃねぇか!」
店内は騒然とした。
「おい! 例の魔法使いだってよ!」
「あの、ムクを全滅させた魔法使いか?」
「ああ。そうだろうぜ。でも、すげぇベッピンじゃねぇか。」
「確かにな。まさか、魔法使いが女だったとはな。」
リリーも3人娘も笑いをこらえている。
「人違いじゃないですか?」
「いいや。あんただ。間違いねぇ! 俺達の大事な畑を守ってくれて感謝する!」
タクマさんが頭を下げてきた。こうなったら仕方がない。
「たまたま通りかかっただけですから。それと、一ついいですか。」
僕はわざと大きめの声で言った。
「ハヤト君もメグミさんも知っていますが、僕は男だから。」
すると、僕がムクを討伐した魔法使いだと分かった時よりも反応が大きい。
「おい! 聞いたか! 男だってよ!」
「うそだろ? だって、おんなにベッピンじゃねぇか!」
「でも、本人が言うからには間違いねぇだろ!」
僕達は自分達の部屋に戻った。
「明日早朝にはこの街を出発しようか。」
「どうしてにゃ?」
「僕とリリーが魔族だって知られたら厄介だからさ。」
「みんなのためにやったことだぴょん。」
「ありがとう。」
僕達はその日は早く寝た。




