農業の街アグリシティー(1)
僕達は次の街に向けて出発した。次の街は農業が盛んな街アグリシティーだ。サワイの街を出発して数時間たったころ、畑が多くなってきた。
「土の匂いがするぴょん。落ち着くにおいだぴょん。」
なんかキャロットがウキウキし始めた。やはり、農家育ちだ。周りを見渡すと畑の中には、働いている人達もちらほらといた。
「あれは何かしら?」
「リリー姉ちゃん。あれはモロコだぴょん。焼いても茹でても甘くて美味しいぴょん。でも、私はスープが一番好きだぴょん。」
「キャロットはよく知ってるんだね。」
僕はキャロットを褒めた。褒められたことが嬉しいのか、御者席の僕とリリーの間に割り込んできた。キャロットの肌が僕に触れる。キャロットのぬくもりが優しく感じられた。なんか僕とリリーの子どもみたいだ。
「キャロット! ずるいにゃ~!」
「ずるいコン!」
「順番にしようか?」
「それならいいにゃ!」
「いいコン!」
上空を見上げると、野菜を狙う鳥が集まり始めていた。やけに数が多い。
「シルバー兄ちゃん! あれはムクだぴょん。あいつがくると全部食べられちゃうぴょん。」
御者席に座っている僕は、上空に向かって魔法を発動する。
『シャドウアロー』
すると上空に数えきれないほどの黒い矢が現れ、それが、ムク目掛けて落ちていく。
「ドドドドドーン」
数えきれないほどいたムクが空にも畑にもいなくなった。
「信じられないぴょん。」
「シルバーだからね。このぐらい当然よ。」
その後、馬車は順調に進み、アグリシティーの街に入った。今日はこの街に宿泊する予定だ。僕達は馬車置き場のある宿を探した。すると、意外にも門を入ってすぐの場所に雰囲気のいい宿屋があった。宿の前にはたくさんの花が飾られている。
「シルバー! あの宿にしましょうよ。」
「うん。」
僕は馬車を馬車置き場において馬の世話をした後、みんなで宿屋に入った。中に入ると、ミーア達と同じくらいの年の男の子がいた。
「母ちゃ~ん。お客さんだよ~。」
すると、厨房の中から20代後半ぐらいの女性が出て来た。
「いらっしゃい。何名ですか?」
「大人が2人と子どもが3人だけど。」
すると、宿屋の女性が3人娘を見た。
「あら、可愛いわね~。獣人族の子どもね。お名前は?」
「私、ミーアにゃ。」
「私はキャロットぴょん。」
「私はヨーコだコン。」
すると聞いてもいないのに、女性の後ろにいた男の子が前に出て言った。
「おいらはハヤトだ。困ったことがあったら、いつでもおいらを呼べばいい!」
同世代の女の子にいいところを見せたいのだろう。なんか、可愛く思える。
「まっ! ハヤトったら! すみませんね。それで、お部屋はどうしますか?」
僕は、前回同様に大きな部屋にベッドを2つ用意してもらうことにした。
「お部屋の用意をしますので、少し待っててくださいね。」
「なら、僕達、街を見学してくるよ。」
「じゃあ、おいらがついて行ってやるよ。」
なんかハヤトが勝手についてくることになった。宿屋から出て、街中をみんなで歩いている。全員が無言だ。何も話をしないのも変なので、僕から話しかけた。
「ハヤト君のお母さん。若くてきれいだね。」
「そうさ。おいらの自慢の母ちゃんだからな。」
「お父さんは?」
「父ちゃんは畑に行ってるんだ。そろそろ帰ると思うけどな。」
「そうだ! 僕はシルバーだよ。よろしくね。」
「私はリリーよ。」
すると、ハヤトが不思議そうに聞いてきた。
「『シルバー』って、もしかしたら男なのか?」
「そうだよ。どうして?」
「だって凄い美人だから!」
「ありがと。ハヤト君のお父さんとお母さんの名前は何ていうのかな?」
「父ちゃんはタクマ。母ちゃんはメグミだ。良い名前だろ!」
「そうね。なんかお洒落な名前ね。」
すると、黙っていたミーア達が話し始めた。
「ハヤトって何歳にゃ?」
「おいらは6歳さ。」
「なら年下ぴょん。私達7歳だぴょん。」
「私達はハヤトのお姉さんだコン。」
なんかハヤトが一人でぶつぶつ言っている。
「チェッ! 年上か~! でも、年上女房も悪くないな!」
すると、目の前に市場が見えてきた。通りには人が疎らだったが、市場の中は凄い喧噪だ。
「凄く賑ってるんだね。」
すると、ハヤトが自慢げに答えた。
「そうさ。今日は肉と魚の特売日だからな。」
「私はお魚がいいにゃ。」
「私は野菜が好きぴょん。」
「私はお肉がいいコン。」
「おいらの父ちゃんの料理はなんでも美味しいぞ!」
どうやら、ハヤトはお父さんとお母さんが大好きなようだ。僕達が市場を通り抜け、街を歩いていると、立ち話が聞こえてきた。
「おい! 聞いたか? 畑に現れたムクが一瞬でいなくなったらしいぜ!」
「ああ。それなら俺も聞いたぜ! なんか、馬車に乗った少女が手を上にあげたら、空から黒い矢が降って来たらしいじゃねぇか?」
「魔法使いか何かか~!」
「どうでもいいけどよ。畑が助かってよかったぜ。」
「それもそうだな。」




