温泉の街サワイ(2)
僕達は、温泉の街サワイの宿屋に泊まることになった。街の中心から外れているせいもあってか、僕達の泊まる宿屋は料理も美味しいのにお客がいない。事情を聴くと、裏山にキングボアが出るらしい。そのためお客が来ないようだ。そこで、僕とリリーがキングボアの討伐に向かった。リリーがキングボアを1頭倒したところで、残りを僕が討伐することにした。僕が魔眼で見ると、キングボアの心臓の位置が見えた。僕はキングボアを高値で引き取ってもらうために、身体に傷をつけない方法で討伐することにした。
『シャドウランス』
僕の手から黒い槍がでて、どんどん大きくなって飛んでいく。そして、キングボアの身体に突き刺さった。だが、不思議とキングボアの身体からは血が出ない。気付けば黒い槍も消えていて、キングボアはそのまま地面に倒れた。
「シルバー! 今、何したの?」
「シャドウランスだよ。」
「でも、普通のシャドウランスじゃないわよね? だって、キングボアの身体から血が出てないもん。」
「シャドウランスを意識的に少し変えたんだよ。」
「どういうこと?」
「ローザおばあちゃんもセリーヌも言っていたでしょ! 魔法は想像力だって。だから、急所だけを攻撃するようにイメージしたんだよ。」
「どうしてそんなことしたの?」
「この魔法は、相手の急所だけを攻撃するんだよ。身体自体を傷つけないから、血で汚れることもないし、高値で売れるからね。」
「凄い凄い! ねぇ、今の魔法、私にも教えて!」
「いいよ。でも、その前に。」
『アースフェンス』
僕が地面に手を受けて魔法を発動すると、残り1頭のキングボアの周りに土の壁ができた。キングボアが抜け出そうと体当たりしているがビクともしない。
「これで良し。じゃあ、リリー! 説明するね。」
「お願い!」
堕天使族やバンパイア族、それと天狗族のように魔眼の能力を持って生まれてくる種族がいる。何故か、僕はどの種族にも当てはまらないのに魔眼が使える。
「最初に、魔眼を使って相手の弱点を見るんだよ。」
「それから、どうするの?」
「弱点を見つけたら、さっきリリーが放った『アイスランス』の要領で、相手の身体を傷つけずに弱点だけを破壊するようなイメージを描くんだ。そして、そのイメージを描いた状態で、『シャドウランス』を発動すればいいんだよ。やってみて。」
「わかったわ。」
リリーが何度か挑戦する。だが、威力が出ない。そこで、一つアドバイスをした。
「どんな感情でもいいから、感情を手に込めてごらん。」
再度リリーが挑戦した。
『シャドウランス』
すると、リリーの手から黒い槍が勢いよく飛び出した。どんどん巨大化していく。そして、木にぶつかった瞬間黒い槍が消えた。
「できたわ。」
「そうだね。さすがだよ。」
そして、いよいよ残っているキングボアの討伐に挑戦することになった。
「じゃあ、キングボアを解放するよ。」
「いいわよ。」
僕が土の壁を解除すると、キングボアが勢いよくこっちに向かってきた。
「今だ!」
『シャドウランス』
するとリリーの手から出た黒い槍がどんどん巨大化して、キングボアの身体に突き刺さっていく。そして、キングボアが地面に倒れた時には黒い槍は消えていた。
「やったわ! 見てたでしょ! 私にもできたわよ!」
「さすがリリーだよ。」
「ありがとう。シルバーのお陰よ。」
僕とリリーは、魔法袋にキングボアの死体と冒険者の遺留品を入れて宿に戻った。すると、心配だったのか、女将さんが安心した顔で迎えてくれた。
「無事でよかったよ。それで、どうだったんだい? やっぱり魔獣がいたのかい?」
「うん。いたよ。でも、リリーお姉ちゃんが全部倒しちゃったよ。」
「そ、そ、それは本当かい? でも、全部ってことは一体だけじゃなかったんだね。」
「そうよ。3頭いたわ。」
「3頭も~! あんた達、よく無事に帰ってこられたね!」
僕は何とか誤魔化そうと話題を変えた。
「倒した魔獣と冒険者の遺留品を回収したんだけど。」
「そうかいそうかい。なら、明日この街のギルドに行くといいさね。高額で買い取ってくれるよ。それに報酬も出るだろうからね。」
僕とリリーは部屋に戻った。すると、3人娘は疲れていたようで、すでに寝ていた。僕とリリーはせっかくなので、それぞれ別々に大浴場に行った。そして、身体がきれいになったところで、部屋に戻って寝た。
「シルバー兄ちゃん。おはようぴょん。」
「キャロットは早いね。」
「私はいつも畑の手伝いをしてたからぴょん。」
すると、リリー、ヨーコ、ミーアの順で起きた。3人はあくびをしたり、目をこすったり、伸びをしたりとまだ眠そうだ。僕達は身支度を整えて食堂に行った。すると、女将さんがすでに朝食の用意をして待っていてくれた。
「おはよう。」
「おはようございますぴょん。」
「おはようございますコン。」
「あ~、お、おはよう・・・もにゃもにゃ。」
ミーアは、大きな口を開けてあくびをしながら挨拶していた。まだ寝ぼけているようだ。だが、朝食に焼き魚があるのを見た瞬間、目が覚めた。
「美味しそうにゃ! 朝から魚なんて幸せ過ぎにゃ!」
「ミーア。ゆっくり食べなさい!」
リリーがお母さんのようになっている。朝食を終えた後、僕とリリーは3人娘を連れてギルドに行った。そこで、冒険者の遺品と3頭の巨大なキングボアの死体を渡した。さすがに、キングボアを3頭出したときはギルド内は騒然とした。
「これは君達が討伐したのか?」
「そうだよ。」
「ギルドカードを出してくれるか。」
言われた通りカードを出すと再び驚かれた。2人の冒険者ランクがEだったからだ。すると、見物していた冒険者の中に心無いものがいた。
「これはお前達が本当に討伐したのか? 女2人に討伐できる代物じゃないぞ! ましてやお前達まだガキじゃねぇか。」
後ろで3人娘が困った顔をしている。横を見ると、リリーの身体から黒いオーラが出始めていた。周りの空気がひんやりし、見物人達の顔が青ざめていく。
「リリー! リリー! ダメだよ!」
「ごめん。あまりにも失礼だから、つい怒っちゃった。」
僕の呼びかけに我を取り戻したようで、リリーのオーラはすぐに消えた。
「まだ、信じてもらえないのかな!」
リリーがどすを聞かせると、見物人達はその場からいなくなった。すると、ギルドマスターが言ってきた。
「俺の独断で、君達のランクをCにしたいのだが、いいか?」
「いいけど、どうして?」
「あれだけの魔獣を倒せるんだ。本当はAかBでもいいぐらいなんだがな。」
「なら、任せるわ。」
僕達は報酬と買い取り代金をもらって小金持ちになった。
「みんな。あとで、美味しいものでも食べましょ!」
「やったにゃー!」
「冷たいクリームがいいぴょん!」
「私はお肉がいいコン!」




