温泉の街サワイ(1)
僕達は転移でローズおばあちゃんの家まで行った。徒歩で港町まで行こうと思ったが、3人娘はまだ子どもだ。長距離歩くのは難しい。そこで、ハーネストの街で馬車を購入した。
「シルバー兄ちゃん。サウススターまでどのくらいかかるにゃ?」
「街を2つ越えた向こうだから3日ぐらいかな。」
「早くおうちに帰りたいコン。」
考えてみれば3人娘たちはまだ7歳だ。親に甘えたい年ごろだろう。僕には親の記憶がないからよくわからないが、ローズおばあちゃんには大分甘えた記憶はある。
「馬車ってお尻が痛いにゃ!」
「私もお尻が痛いぴょん。」
「なら、次の街についたら布団を買おうか。布団をしたに引けばお尻も大丈夫だよ。」
「早く着いて欲しいコン。」
日が傾き始めたころ、やっと最初の街サワイに着いた。さすがは温泉の街だ。街中を進むと人だらけだ。獣人娘達が馬車から乗り出してみている。すると、獣人族が珍しいのかみんなこっちを見てきた。
「シルバー兄ちゃん。みんなこっちを見て来るにゃ。」
「ミーアやキャロットやヨーコがすごく可愛いからだろ!」
「きっとそうだぴょん。」
「私達可愛いにゃ~。」
「違う気がするコン。」
ヨーコだけは冷静だ。僕達は宿を探したが、どこの宿屋も満室だ。結局街はずれまで来てしまった。
「シルバー。あそこに宿屋があるわよ。」
「行ってみようか?」
宿屋の入り口には『アルベルゴ』と書かれていた。どうやら宿屋の名前らしい。中に入ると30代ぐらいの女性がいた。
「いらっしゃい。何人だい?」
「大人2人と子ども3人だけど。泊まれる?」
「大丈夫さ。何部屋だい?」
するとリリーが横から答えた。
「1部屋でいいけどベッドは2つ欲しいです。」
「わかったよ。なら、ダブルの部屋にもう一つベッドを運ぶよ。」
「お願いします。」
リリーがニコニコしている。僕達は宿屋の隣に馬車を置いて、馬に食事を与えた。それから、宿屋で食事をすることにした。僕達が食事をしている間に、部屋の用意をしてくれるようだ。不思議なことに、中心街の宿屋にはたくさんお客がいたのに、この宿屋には僕たち以外にはお客の姿はない。失礼だとは思いながらも、女将に聞いてみた。
「あの~。女将さん。聞いてもいい?」
「何だい。」
「どうして他にお客がいないの? こんなに料理が美味しいのに。」
「ありがとうよ。実はこの裏の山に最近魔獣が出るんだよ。それでみんな怖くて来なくなっちまったのさ。」
「魔獣?」
「ああ、大きな角のある猪だよ。なんか、人間も襲うらしいのさ。冒険者が討伐に行ったんだけどね。帰ってこないんだよ。恐らく、食われちまったんだろうね。」
3人娘が珍しく真剣な顔で聞いている。するとミーアが言った。
「多分、キングボアにゃ。恐ろしい奴にゃ。」
「お父さんも言ってたコン。10人がかりで討伐しないと無理らしいコン。」
「おやおや。その魔獣は獣人の国でも出るのかい?」
「いるにゃ。時々犠牲者が出るにゃ。」
「お父さんも言ってたぴょん。キングボアを見かけたら逃げるぴょん。」
なんか相当やばい魔獣のようだ。僕はリリーを見た。リリーも僕を見て頷いている。
「僕達、冒険者なんだ~。後で様子を見に行ってくるね。」
「大丈夫なのかい? 女の子2人で。」
否定するのもめんどくさい。
「大丈夫よ。任せといて! ねぇ、我が弟のシルバー君。」
「あら、やだ! あんた、男だったのかい! あまりにもきれいだから女だと思ったよ。ごめんよ。」
「気にしてないから。」
食事が終わった後、僕達は部屋に行った。
「ミーア、キャロット、ヨーコ。僕とリリーは森に行くね。お留守番できるよね。」
「一緒に行きたいコン。」
「ヨーコ! ダメにゃ!」
「そうだぴょん。邪魔になるぴょん。」
「わかったコン。待ってるコン。」
僕とリリーは魔力感知を使いながら森に入った。少し奥まで行くと魔獣の反応があった。
「いたわ。」
「急ごうか。」
僕とリリーが魔獣のいる場所まで行こうとすると、剣や引きちぎられた衣類、それに骨が散乱していた。恐らく冒険者の物だろう。魔獣の近くまで来ると、5メートルはありそうな真っ黒で巨大な猪が3頭いた。
「いたわよ。」
「うん。」
キングボアは僕達を見るなり突進してきた。もの凄い速さだ。僕とリリーは横に飛んで避けた。
「こいつら速いわね。それに皮膚が堅そうよ。」
「大丈夫。動きを遅くさせるから。」
僕は手を前に出し、魔法を発動する。
『スロウ』
すると、僕の手から黒い霧状のものがでて、キングボアの身体に絡みつく。キングボアは必死に抵抗するが、その霧がキングボアの身体にどんどんしみこんでいった。
「これでもう遅くなったよ。」
「なら余裕ね。」
リリーが腰から剣を抜き、キングボアに切りかかった。キングボアの動きは遅く、剣を避けられない。リリーの剣がキングボアの身体を傷つけ、キングボアの身体から血が噴き出した。
「やっぱり、皮膚が堅いわ。こうなったらこれしかないわね。」
リリーは魔法を発動する。
『アイスランス』
すると、リリーの前に氷の槍が沢山出て、一気にキングボアに向かって行った。動きの遅くなったキングボアの身体に次々に突き刺さる。
「ブゴー」
キングボアは大きな鳴き声を上げて地面に倒れた。
「あと2頭ね。」
「いいよ。残りは僕がやるよ。」




