懐かしの家
旅に必要なものを買いこんだオレ達は城に帰った。すると、ローズおばあちゃんが待っていた。
「ミーア、キャロット、ヨーコ! お前達は、明日故郷に帰るんだって? なら今日は私の手料理を食べさせてあげるよ。シルバーもリリーもついておいで。」
ローズおばあちゃんについて行くと、オレが設置した転移門まで来た。どうやら、そこからローズおばあちゃんの家まで転移していくようだ。門をくぐると懐かしい景色が待っていた。庭も畑も家もそのままだ。
「最初にみんなには畑の野菜を収穫してもらうよ。」
「野菜の収穫は得意だぴょん。」
キャロットが真っ先に畑に向かった。キャロットの家は農家のようだ。いつも手伝いをしていたから慣れているらしい。ミーアの親は狩人ギルドに登録している狩人で、ヨーコの両親は商業ギルドに登録している商人ようだ。
「おばあちゃん。このぐらいでいいんじゃない?」
「そうじゃな。シルバー。収穫した野菜を持ってきてくれるかい。」
「いいよ。」
家の中に入ると、オレとリリーが一緒に暮らしていた時のままになっている。居間に行くと、ローズおばあちゃんがオレとリリーのために買ってくれた本がたくさん残っていた。
「懐かしいわね。シルバー。」
「ああ。」
「今日はみんなでお風呂に入ろうか?」
「何言ってるんだよ!」
「いいじゃない。昔みたいに背中を流してあげるわよ。」
「ダメだよ。オレ達はもう子どもじゃないんだから。」
「つまんないの!」
「リリー姉ちゃん。私達が一緒にお風呂に入ってあげるにゃ。」
「ありがと。」
料理ができるまで、オレ達は3人娘に本を読んで聞かせた。リリーが読んで聞かせたのはリリーが大好きだった『魔王アンドロメダ物語』だ。何故か昔からリリーはこの本が好きだった。読み聞かせているはずなのに、読んでる自分が涙を流し始めた。つられて3人娘も泣き始めた。
「こ、ヒック、こ、この物語は悲しいにゃ。どうして、どうして獣人族やエルフ族達のために戦ったアンドロメダが嫌われたにゃ?」
「私もおかしいと思うコン。ワ——ン」
「アンドロメダはどこに行っちゃったぴょん? 神様になったぴょん?」
正直、オレも自分の過去を思い出すのは辛い。すると、料理が出来上がったようだ。みんなで食卓まで運ぶ。そして、みんなで一緒に食べ始めた。
「いただきます!」
サラダも新鮮だ。スープの味付けも大好きだ。そして柔らかいパンに何と言っても野菜と肉を一緒に煮込んだ料理は最高だ。
「美味しいにゃ!」
「いっぱいお食べ。」
「おかわりぴょん。」
「私もおかわりコン。」
「ずるいにゃ。私もおかわりにゃ。」
「はいはい。沢山あるから大丈夫だよ。」
美味しく料理を頂いた後はお風呂だ。まずはオレが最初に入る。お城のお風呂よりは小さいが、それでもかなり広い。それに、浴槽からはいまだに木の香りがしてくる。オレが浴槽に浸かっていると3人娘がやってきた。全員がすっぽんぽんだ。
「ミーアちゃん。キャロットちゃん。そんなに急ぐと転ぶわよ。」
3人娘の後からリリーが入ってきた。あれほど一緒に入らないって言ったのに。
「3人は自分で頭とか洗えるのか?」
「うん。でも、メイドのお姉ちゃんが洗ってくれてたにゃ。」
「体も洗ってくれたぴょん。」
「今日は自分で洗えよ!」
「シルバー兄ちゃんに洗ってもらいたいコン。」
「ダメだよ。オレはもう出るから、リリーに洗ってもらえ!」
オレはすぐに風呂を出た。すると、女性陣の声が聞こえてきた。
「リリー姉ちゃん。失敗にゃ。」
「ごめんぴょん。」
「いいわよ。みんなありがとうね。」
ローズおばあちゃんも風呂をすませた。これで全員寝る準備ができたので、城まで転移門で帰って寝ることにした。でも、何故かオレのベッドには3人娘とリリーがいた。これから旅が始まるというのに、先が思いやられる。
翌朝、オレは起きると食堂に行き、食事をする前にゲーテに依頼した。
「アマゾル大陸の地図があったら欲しいんだけど。それと、会議を開くから幹部を大会議室に招集しておいてくれるかな。」
「畏まりました。」
さすがはゲーテだ。オレが食事を食べ終わった時にはすでに地図が用意されていた。
「魔王様。この地図がよろしいかと思います。この地図ですと、アマゾル大陸だけでなく、すべての大陸が網羅されていますので。」
「ありがとう。さすがだね。ゲーテ。」
「お褒めいただいて光栄です。幹部の皆さんには2時間後に大会議室に集合するように伝えてあります。」
「ありがとう。」
オレが自分の執務室に行こうとすると、リリーと3人娘が眠そうに目をこすりながらやってきた。
「シルバー兄ちゃん。おはようぴょん。」
「おはよう。出発は今日のお昼ごろになるから、そのつもりで。リリーは2時間後に大会議室だ。」
オレが執務室に行くと、すべての書類が的確に処理されていた。恐らくブラッドだろう。さすがだ。なんか、オレよりもこの国の王に向いているんじゃないかと思う。オレはゲーテにもらった地図を広げて眺めることにした。地図を広げてあらためて思った。世界は広い。この世界を平和にするのにどのくらいの時間がかかるのだろうか。少し気が重くなってきた。オレが先のことを考えて沈んでいると、どこからともなくセリーヌが現れた。
「シルバー! お前、今、この世界の平和にどれだけ時間がかかるだろうかと考えていただろ?」
何故かセリーヌにはお見通しのようだ。
「どうしてわかったんだ?」
「長い付き合いだ。お前の考えてることぐらいわかるさ。それよりも、お前はいつも一人で抱え込みすぎなんだよ。昔からだ。もっと仲間を信用したほうがいいな。さもないと、歴史を繰り返すことになるぞ!」
セリーヌが何を言いたいのかよくわかる。オレがアンドロメダだった時代、オレ自身にも余裕がなかった。愛する女性を目の前で殺されたんだ。余裕などできるはずもない。だから、汚れ仕事はすべて自分で行った。そのために、オレは世界中から恐れられる存在となってしまったのだ。
「そうだな。今回はお前にもいろいろ頼むことにするよ。セリーヌ。」
「ああ。まかせておけ。お前だけを悪者にすることはしないさ。」
セリーヌと目が合った。セリーヌの熱い思いが伝わってくる。だが、オレはその思いにこたえることができない。セリーヌが目をそらした。
「そういえばシルバー。リリーには言ったのか? アテナのこと。」
「いいや。」
「そうか。」
セリーヌはそれ以上何も言わなかった。
「会議は2時間後だ。遅れるなよ。」




