初めての街ハーネスト
そして、翌日は村に野菜と木の実、果物を売りに行き、特に何もなく1日が過ぎた。いよいよ隣の街ハーネストに向かって出かける日だ。
「2人ともいいかい。街に行くまでは気を抜くんじゃないよ。」
「どうしたの? おばあちゃん!」
「この街道には盗賊がおるんじゃよ。」
僕は驚きのあまり喉の奥から声が出てしまった。
「盗賊?!」
「ああ、そうさ。あいつらは人を人とも思わないからね。残酷な連中さ。」
「大丈夫よ! 私もシルバーも魔法の特訓してるもん!」
「馬鹿言うんじゃないよ! お前達の魔法が通用するわけがないじゃろう! それに、相手は大人数なんじゃよ!」
僕はなんか怖くなってきた。思わずリリーとつないでいる手に力が入る。リリーの手も汗ばんでいた。口では強がってみせているが、やはり、緊張しているようだ。
「そろそろじゃよ。」
幸せなことに僕達は盗賊に襲われることもなく、ハーネストの街に着いた。街を見渡すと、たくさんの家が並んでいる。人の数も半端ない。僕もリリーもキョロキョロしっぱなしだ。まさに『おのぼりさん』状態だ。すると、僕達を見かけた男性が声をかけてきた。
「あんたら見かけない顔だな。この街の人間じゃないな。どうだい? ついてこないか? いい場所に案内してやるよ。」
するとローズおばあちゃんが厳しい顔つきになった。
「遠慮しとくよ! リリー! シルバー! 行くよ!」
ローズおばあちゃんは僕とリリーの手を掴んで、急ぎ足で歩き始めた。すると、男が舌打ちするのが聞こえた。
「チッ」
僕はどこに行くのかとワクワクしていると、最初に本屋に入った。そこにはたくさんの本が並んでいる。ローズおばあちゃんは何冊か本を買ったようだ。多分、僕とリリーの勉強用の本だろう。そして、次に武器屋に行った。
「おい! あんた! この子達に剣を見繕ってくれるかい?」
「こんな子どもに剣を持たせるのかい?」
「ああ、そうさ。山には魔獣がいるからね。」
「あんたら、山から出てきたのか?」
「話はいいよ! 早く見繕っておくれ!」
店主が剣を見繕っている間、僕とリリーはいろんな武器に目が釘付け状態だ。見たことのない武器がたくさん並んでいる。
「これとこれなんかどうだ?」
店主が普通の剣と少し細めの剣を持ってきた。
「これでいいよ。いくらだい?」
「大銀貨7枚だ!」
「これは普通の鉄じゃろ? 大銀貨5枚がいいとこじゃな。」
「お前さん。冒険者か何かかい?」
「どうでもいいじゃろ! それでどうするのさ?」
「わかったよ。大銀貨5枚でいいよ。参ったな! もう!」
ローズおばあちゃんがお金を払って、僕とリリーの腰に鉄の剣が取り付けられた。リリーの剣は僕の剣より少し細い。
「シルバー! どう? 似合う?」
「うん。カッコいいよ!」
「シルバーも似合ってるわよ!」
僕もリリーも嬉しかった。今までは木の剣を腰につけていたが、今は本物の鉄の剣になっている。少し大人になった気がした。
「おばあちゃん。これからどうするの?」
「そうさね。3人でご飯でも食べようかね。」
すると、街の目抜き通りだというのに前から凄い勢いで馬車が走って来た。御者席には誰もいない。目の前には、子ども連れの母親らしき人がいる。このままでは危ない。僕もリリーも咄嗟のことで、体が動かない。すると、ローズおばあちゃんが手を叩いた。次の瞬間、子ども連れの親子は道の端にいた。まるで時間が飛んだような感覚だ。周りの人達も、何が起こったのか理解できないでいる。
「何がどうしたの?」
「ちょっと魔法を使ったんじゃ。」
すると、リリーも怪訝そうな顔で言った。
「今のって魔法なの?」
「まあ、いいさね。それより早く食堂に行くよ。」
確かに馬車の前に親子がいた。助けたくても、到底間に合う距離ではない。何が起こったのだろう。それに、一瞬、ローズおばあちゃんの身体が黒く見えた。目の錯覚だろうか。
「この店じゃよ!」
ローズおばあちゃんに連れてこられた店は、大通りから細い路地に入った場所にあった。当然、お客も少ない。中に入ると、40歳ぐらいの女性がいた。
「いらっしゃい。あら?! 珍しいわね! ローズさん!」
「久しぶりじゃな。ダリア。ヤノックは元気かい?」
「ええ。今、厨房にいるわよ。それより、ローズさんのお孫さん? 可愛いわね~!」
「私はリリーです。」
「僕はシルバーです。」
「えっ?! 君は男の子なの?」
僕はダリアさんが何を言っているのか意味が分からなかった。僕は昔から男だ。すると、リリーがふざけて言ってきた。
「やっぱり間違えられたわね!」
「どういうこと?」
「シルバーはどこからどう見ても女の子にしか見えないのよ! 髪も長いし!」
「だって、村のマーサさん達はすぐに男だってわかったじゃないか!」
「あれは、私がシルバーは男だって言っておいたからよ!」
「そ、そ、そんな~!」
するとダリアさんがフォローしてきた。
「ごめんなさいね。もの凄くきれいな顔をしていたから、てっきり女の子だと思ったの。許してね。」
逆になんか複雑な気持ちになった。
「ダリア。いつもの料理を3人前頼めるかい?」
「はいよ。」
しばらく待っていると、僕達の目の前に見慣れない食べ物が運ばれて来た。
「リリー! シルバー! ここの料理は最高じゃよ。食べてみればわかるさね。」
「ゴクリ」
音のする方を見ると、リリーが涎をたらしそうになっている。僕はスプーンで白い穀物をすくって食べた。いつもパンを食べていた僕にとって、それは画期的に旨いものだった。
「美味しい! これなに?」
僕はダリアさんに聞いた。
「これはライスって言ってね。昔、この国に伝わった食べ物よ。それに野菜と卵を入れて、バターと胡椒で炒めたのよ。」
「凄く贅沢な食べ物なんだね!」
「そうね。他の街からしてみれば贅沢な食べ物よね。でも、この街ではバターも胡椒も豊富に取れるからね。」
「バターって何なの?」
「バターっていうのはホルスっていう動物のお乳から作ったものよ。」
そういえば、この街に来る途中、たくさん牧場があった。
「これも食べてみて!」
何か肉のようなものが油で揚げてある。リリーが大きな塊を口の中に頬張った。
「美味しいわ~! おばあちゃん! シルバー! 食べてみて! これ最高に美味しいわよ!」
リリーに言われて僕も一つ食べてみる。口の中で噛むと肉汁が溢れ出てきた。もの凄くジューシーだ。それに、何か特別な香りがする。
「これも、昔この国に伝わった食べ物よ。揚げ鳥っていうのよ。美味しいでしょ?」
「うん!」
僕もリリーもお腹がパンク寸前になるまで食べた。
「おばあちゃん。動けないから少し休んで行こうよ!」
「しょうがない子じゃな~!」
僕達は1時間ほどお店で休ませてもらって、それから店を出た。




